永遠(えいと)の恋
story2


「永遠、女子高生の家庭教師やってるんだって?どうなんだ、その子可愛いのか?」

能天気に俺の元へやって来たのは、中学から腐れ縁の風見 拡。
外見はどう見てもショップの兄ちゃんかホストにしか見えないのだが、これでもこいつは俺と同じ大学院生なのだ。
将来は女子大の教授になるのが夢らしいが、こんなやつが女子大の教授になったりしたら勉強どころじゃなくなるだろうに。

「どこで、かぎつけてきたんだよ」

俺は、こいつにだけは家庭教師をやることは言っていない。
言えば、十中八九こういう質問をしてくることが目に見えていたからだが。

「あぁ?瞳がそんなことを言ってたからな」

あの女、口が堅いって思ってたのに、何でよりによってこいつに話すんだよ。
瞳というのは渡会 瞳という同じゼミに通っている友達だった。
これがまた拡と同じでとてもうちの大学のイメージとは程遠い、父親は名の通った代議士だと聞いているが、それを言われるのが嫌だとかで親には頼らず自力で生活しているらしい。
彼女の場合は正真正銘のお水というやつで、それが妙に嵌っているから何も言えないのだが、なぜか俺の周りにはこんなやつばかりが集まっていた。

「で、可愛いのか?」
「お前なぁ。どうして、話がそこにしかいかないんだよ」
「だって、女子高生だぞ?ピチピチキャピキャピのうちらの周りにいる女子どもとは違うんだ」

何が、ピチピチキャピキャピだ…。
目を輝かせながら言う拡に返す言葉すら見つからない。
まぁ確かに彼女の肌は真っ白で絹のようにきめ細かだったけど、ってオイ俺はまったく何を考えているんだか…。

「だからなんだよ。相手はただの高校生、まだ17だぞ?そんな子供に欲情してどうするんだ」
「馬鹿だなぁ、今時の子は発育が早いんだ。17だって、立派な女なんだからな」

全くこいつの脳内はどうなっているのか、一度覗いてみたいものだと俺は思う。
女は女かもしれないが、彼女に限ってそんなふうに思うことは絶対ない。
大体、俺は今年24になるんだぞ?彼女は早生まれだって言ってたから、まだ17になったばかりで7歳も違うんだ。
そんな子を意識して、どうするって言うんだ。
この時俺はこう思って疑うこともなかったが、後に大きな間違いだと気付くのはもう少し先の話になりそうだ。

+++

3日なんて経つのはあっという間だなと、再び巨大なマンションの前に立った俺は上を仰ぎ見た。
週2回、火曜日と金曜日が家庭教師の日。
これは拡にも絶対内緒だが、実は楽しみにしている自分がいたりもする。

前回と同じようにマンション内に入ると2005号室の前に立ち、ブザーを押す。
今回ドアが開いて出てきたのは、母親ではなく綾葉だった。

「先生、こんにちは」

こんな笑顔で迎えられると、このバイトを引き受けて良かったかも…と思う。
おっと、俺の母親にこんなことを言うと調子に乗るからな。

「こんにちは」

今日の彼女は、裾にフリルの付いた黒いスカートに淡いピンク色で胸元が少し開いたカットソー。
大きく結んだリボンが印象的で、可愛らしい。
俺は奥のリビングにいた母親に挨拶してから、彼女の部屋に入る。

「先生、どうですか?この洋服。この前買ってもらったんですけど、似合いますか?」

クルッと俺の前で回ってみせる彼女。
この姿を見てまたまた思い出すのが、姉の祐里香。
───あいつも今の彼女くらいの年齢の時は、『ねぇ、永遠。見て、似合う?』って、こんなふうに回ってみせてたよな。
あの頃は、まだ男と付き合うこともなかっただろう。
なのに今は…。
わざとナニを誕生日プレゼントで渡したんだが、あいつわかってるのか?
それより、なんだか最近姉貴のことばっかり…って、もしかして俺はシスコンか?!

「先生?似合いませんか」
「いや、そんなことないよ。似合ってる、可愛いよ」

うわぁー、クサイ台詞だぞ俺。
こんなこと付き合っていた彼女にでさえも、言ったことなんてないのに。

「本当ですか?先生にそんなふうに褒めてもらって、嬉しいですぅ」

永遠の言葉にとても嬉しそうな綾葉だったが、この姿を自分以外の男に見せるつもりなんだろうか…。

「彼氏とデートでもするのか?」
「えっ、デートですか?そんな人、いませんから。今度、お友達と出掛けるのに買ってもらっただけですよ。もちろん、女の子ですけどね」

そうなのか、男はいないのか…。
可愛いし、今時の女子高生なら彼氏がいてもおかしくないと思ったが。
あ…俺、何喜んでるんだよ。
なんか、変だぞ?

「そうか、もったいないな」
「え?」
「あっ、いや。じゃあ、そろそろ勉強始めようか」

気持ちを誤魔化すように言ったが、彼女を隣に連れて歩いたら…。

+++

「ただいま」
「お帰り、早かったのね」
「げっ、何で姉貴が…」

綾葉の勉強を終えて永遠が家に帰ると、なぜか姉の祐里香が出迎えた。
この様子だと、既に家庭教師をしていることを母から聞いているに違いない。

「永遠。姉に向かって、げっはないでしょ?」

「げっは」という姉の話は無視して、「母さんは?」と問い掛ける。
それが、ちょっと不満気な祐里香。

「スーパーまで、買い物に行ってるけど」
「何しに来たんだよ」
「何しにって、自分の家に帰って来ちゃいけないわけ?」

ブツブツ怒っている祐里香だったが、永遠もついこういう口をきいてしまうのは愛情の裏返し。
久し振りに顔を見られて、本当は嬉しいのだ。
相変わらず綺麗だなと思うし、自立心の強かった姉は就職するとすぐに家を出てしまい、仕事も頑張っていて…。
なのに、お俺は23にもなって、未だに親のスネをかじっている。
いや、まだまだスネをかじり続けなければならないだろう…。

「そうじゃないけど。彼氏はいいのか?放っておいて。週末だっていうのに」
「あぁ、航貴のこと?最近、課長補佐になって忙しいのよ。今日も遅いって言ってたし」

彼氏は姉貴より3つだか年上と聞いているが、課長補佐とは随分と早い出世だな。
母の話ではかなりのいい男とも、さすが姉貴、目が高い。

「そういう時は、健気に部屋で待っていたりとかするんじゃないのか?」
「遅くなったらどうせ寝ちゃうしって、あたしのことはいいの。それより、家庭教師はどうなのよ。今日だったんでしょ?あたしの後輩なんだから、ちゃんと教えてよね?」

やっぱり…。
絶対その話をされると思ったが、こういうところがわかり易いんだよな。

「あぁ。心配しなくても、しっかり教えてるよ」
「ならいいけど…」
「どことなく姉貴に似ていて、可愛い子なんだ」
「え?」

聞かれてもいないのに何言ってんだと自分でも思ったが、姉にだけは隠さずいたい。
永遠は荷物を置きに2階の自分の部屋へ上がって行った。


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