永遠(えいと)の恋
story3


「何だよ。昼間っから、ダラけて」

昼休み、永遠と拡が大学内にある食堂に行くと、結構込んでいるにも関わらず、あるテーブルの周りだけ人が全くいない。
というか、ド派手な格好の女子が両手を広げてテーブルに突っ伏して寝ているせいで、誰も側に近寄れないのである。

「あぁ、永遠」
「あぁ、じゃないだろ?みんな引いてるぞ」

瞳がダルそうに半分顔だけ起こして周りを見ると、やって来た数人の学生が彼女に気付いてそそくさと去って行く。

「どうせまた、飲み過ぎたんだろ。そんなんじゃ、勉強に身が入らないんじゃないのか?」

そう言うと拡は瞳の前に腰を下ろし、目も合わせずにカツカレーを食べ始める。
代議士の父を頼らず頑張っている姿は拡だって認めるが、本業が疎かになっては元も子もないだろうに。
それに体のことも、客に変なことをされたりしていないかとか…。

「もう、拡ったらお母さんみたいなこと言わないでよ。昨日は、ちょっと飲み過ぎただけなんだから」
「拡の言うことは最もなんだし。まぁ、ほどほどにな」

永遠は拡の隣の椅子に座ると、しょうが焼き定食の味噌汁を口にした。
拡の気持ちもわかるだけに、瞳にはお水を辞められるものなら辞めて欲しいとは思うが…。

「あっ、そう言えば、瞳。お前、家庭教師のこと、拡に話しただろう」

───そうなんだよ。
家庭教師を頼まれたのが女子高生だったから、どういうふうに接すればいいかちょっと聞いただけなんだ。
他の女子とは違って、こいつには何となく話しやすいっていうか、なのに拡に話しやがって。

「そうそう。永遠、どうだったの?えっと、綾葉ちゃんだっけ?可愛かった?」

さっきまでダラけていたくせに、こういう話になると別人のように元気になる。
責めるつもりが、逆に突っ込まれてどうするよ…。

「あの子の話は、いいんだよ」
「へぇ、綾葉ちゃんって言うのかぁ。可愛い名前だな。永遠、今度俺にも会わせろよ」
「何で、お前に」

───あの子に拡を会わせたりしたら、大変なことになる。
そんなこと、絶対ダメだ。

「永遠がムキになるなんてねぇ。よっぽど、綾葉ちゃんって可愛いのね」
「俺は、そんなんじゃっ」
「そう?お姉さん命の永遠が珍しい」
「あ?誰が、姉貴命なんだっ!」
「益々、ムキになるところが怪しいな。っつうか、お前澄ました顔してるけど、案外わかりやすいんだよ」

二人にやり込められて、永遠もそれ以上言葉が出ない。
実際、当たっているから厄介だ。

「あのなぁ」
「いいじゃん。お前もそろそろ、姉さんから卒業しろ。でないと、本当の恋ができなくなるぞ?」

だてに中学からの腐れ縁ではなさそうだ。
いつだって、付き合う相手を姉の祐里香に重ね合わせて見ていたことは確か…。
初めこそそれには気付かなかったものの、ここまでくれば認めざる負えないだろう。

「お姉さん、素敵な彼氏ができたんでしょ?これを機に永遠も、素敵な恋をしないと。相手が女子高生だって関係ないじゃない」
「だから、どうしてそこに彼女が出て来るんだよ。お前らも俺の心配ばっかりしてないで、お互いのこと真剣に考えた方がいいぞ?」
「あ?それどういう意味だ。まさか、俺が瞳と」
「えっ、あたしが拡と?」

恐らく二人は気付いているはずなのだが、こんな関係が長く続いたせいか、なかなか先に進めない。
瞳だってこのままお水の世界にいるわけにもいかないだろうし、そこは拡が力になってあげなければならないはず。

「俺は調べものがあるから、先に行くよ。あとは、二人でごゆっくり」

定食を半分くらい残して永遠は席を立った。

+++

今日は綾葉の勉強をみる日ではなかったから、永遠は学校帰りにブックセンターに立ち寄ると、わかりやすい英語の参考書と問題集を探してみることにする。
本人は全然だめと言っていながら、そこはレベルの高いお嬢様学校に通っているだけのことはある。
家庭教師など付けなくても進学するには何の問題もない成績だと永遠は思ったが、それでは本人の気が済まないらしい。
勉強などできなくても、体裁さえ整っていればいいからと母は言っていたが、本当のことなのか疑うくらいだった。

───少し、難しいものも買ってみるか。

何冊か手に取って見ていると、若い女の子達の声が聞こえてくる。

───これは、麗泉女子の制服だな。

姉が毎日、この制服を着て通っていたのを思い出す。
紺色のブレザーにチェックのプリーツスカート。
祐里香の時は膝小僧が見えるミニスカートにヒヤヒヤさせられたものだが、今の子の方が真面目なことに驚いたりして。
もしかして、この中に綾葉もいるんじゃないか?
不審者に思われないように少し場所を移動しながら辺りを見回してみると…。

───あっ。

すぐ先に数人の友達と楽しそうに話しながら、綾葉があれは参考書ではなくて何とかというアイドルの写真集を見ている。

───ったく、受験生が何を見てるんだ。

時には息抜きも必要だとは思いながらも、ついつい教師心が顔を覗かせる。

「ねぇ、あの人知ってる?」
「ん?」

左側にいた子が永遠に気付き、綾葉に問い掛ける。
振り向いた彼女の表情が一変して、声を上げたままその場に固まってしまった。

「あっ、先生」
「受験生が、何を見てるんだ?」
「えっと…こっ、これは…ですね」

綾葉は、慌てて写真集を閉じると後ろ手に元あった場所に戻す。
意地悪だなぁと思うが、彼女があまりにも可愛らしくてもっとしたくなってくるから不思議だ。

「綾葉、先生って?」

彼女の右側にいた子が、耳元で囁くように言う。

「うん、家庭教師の先生」

「そうなの?全然知らなかった」とは、その後ろにいた背の高い女の子。
家庭教師が付いたことを綾葉は、友達に話していなかったらしい。

「ごめんね。言ってなくて」
「ううん。でも、先生めちゃめちゃカッコいいね」

左側にいた子は、じーっと永遠のことを見ている。
こんなヒソヒソ話が聞こえてきて、なんだか自分の方が恥ずかしくなってきた。

「先生は、何を探していたんですか?」

永遠が手に持っていたものを覗き込むようにして、綾葉は見ている。

「俺?俺は、君の勉強に使う参考書と問題集をね」
「えっ、そうなんですか?」

申し訳なさそうな表情に余計なことを言ってしまったかと後悔するが、次のひと言で…。

「今度は、これを使ってビシバシしごくから」
「そっ、そんなぁ」

ガックリ肩を落とす綾葉に友達は、クスクス笑っている。
コロコロと変わる表情に、つい目が釘付けになる。
今までにない感覚に永遠は戸惑いつつも、こんなひと時をとても楽しいものに感じていた。


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