綾葉はこの後みんなでデザート食べ放題のお店に行く予定だったのだが、気を利かせた友達は二人を置いて行ってしまった。
「先生、良かったんですか?」
「あぁ、どうせ暇だし構わないよ。君こそ、良かったのか?友達と一緒に行かなくて」
特に予定もなかった永遠は綾葉をオープンテラスのカフェに誘ったのだが、制服姿の彼女とこうやって一緒にいると、どうも周りが気になって落ち着かない。
───まさか、援交とか思われてないよな…。
スーツ姿というわけじゃないからそうは思われないにしても、やっぱりこの年齢差は気になる。
「私は、平気ですよ。お友達には学校でも会えますけど、先生には週に2回しか会えませんから。それ以外でこうして会えて、お話できるなんて嬉しいです」
メニューを見ながら綾葉が何気なく言ったひと言だったが、永遠にしてみれば少々こっ恥ずかしい気もしなくもない。
きっと、ピュアな彼女には駆け引きなんて言葉は、当てはまらないんだろうな。
永遠がそんなことを考えていると、ウェイトレスが「ご注文は、お決まりですか?」とオーダーを取りに二人のテーブルへやって来た。
「決まった?」
「はい」
「俺は、ホットで。彼女は」
「えっと、このセットをお願いします」
綾葉が、メニューに載っていた写真を指差す。
「カスタードプリンのセットですね。お飲み物は、何になさいますか?」
「じゃあ、レモンティーで」
「はい、かしこまりました。ご注文を繰り返えさせていただきます───」
ウェイトレスはオーダーを確認すると、店の奥に去って行く。
「プリンが、好きなのか?」
姉の祐里香は無類のプリン好き、そのせいでやたらに食べさせられた永遠はすっかり甘いものが苦手になってしまったが、綾葉も好きなのだろうか?
「はい。大好きです。先生は、甘いものは嫌いですか?」
「俺?あんまり好きじゃないかな。っていうか、姉貴がプリン好きでさ。あっちこっちの店のプリンを食わされて飽きた」
思い出しただけでも、口の中が甘くなってきそう。
そんな顔をしている永遠を見た綾葉は、クスクスと笑い出した。
「先生のお姉さん、プリン好きなんですか?」
「好きなんてもんじゃない。食事を取らなくても、プリン食ってたし」
祐里香は、食事よりプリンが好きだった。
最近は体のことを考えて、というより彼氏の目が気になるのか太ることを気にして、そんなに食べなくなったみたいだが…。
「同じですね。私も食事より、プリンが好きですよ?」
「プリンばっか食ってると、姉貴みたいに口うるさくて気が強い女になるぞ?それに太るし」
「私、プリンを食べて先生のお姉さんみたいな綺麗な人になれるなら、喜んで食べますっ」
「はぁ?」
───オイオイ、姉貴みたいになったら大変だぞ?
口うるさくて気が強い。
でも、彼女がそういう女になったら、どうなるのだろう…。
それはそれで、見てみたい気はするなぁ。
永遠が頭の中で思いっきり想像を膨らませていると、さっきのウェイトレスがオーダーした物を運んで来た。
さっき、口の中が甘くなったばかりなのに綾葉の前に置かれたプリンを見たら、再び蘇ってきたようだ。
「美味しそう」
『甘そう…』
「先生、何か言いました?」
「あ?いや、何でもない」
「いただきま〜す」の言葉と同時にプリンにありつく彼女を見て、やっぱり可愛いと思うのは、高校生だからなのか。
同じことを瞳がやったとしたら…。
───怖いだけだな…。
こんなことを言った日には、何をされるかわからない。
「先生も、どうですか?」
綾葉はお皿の上のプリンを一口分スプーンにすくい、永遠の口元へゆっくりと持って行く。
「俺は、遠慮しておくよ」
「そんなに甘くないですし、とっても美味しいですよ?」
『とっても美味しいですよ?』と言われても、永遠だって困ってしまう。
───だって、これは間接キスってやつになるんじゃ…古っ、っつうか俺は中坊かっ!
その前に彼女のどこにこんな大胆さが隠れていたのか…そっちを聞きたいくらいだ。
ピュアな彼女は、一体どこへ行ったんだ…。
「やっ、これは…ちょっ…」
「はい、先生」
にっこり微笑まれると、断れなくなる。
───これは、素…なのか…それとも…。
いつも友達と食べ合いっこしている綾葉には何の疑問もなくやった行為だったが、永遠にはちょっと…。
仕方なく、永遠は周りを何回か見回して彼女の差し出したスプーンを口にする。
───うっ、あっ、甘い…。
そんなに甘くないというものの、永遠にとってはこれでも既に甘い。
「甘い…けど、美味い…かも…」
「良かった」
「君は、いつもこんなふうに…(男に…)食べさせたりするのか?」
「ええ。お友達とみんなでこうして、食べ合いっこするんですよ?」
───なるほど…そういうことか。
付き合っている彼はいないと言っていたから、これを男にすることはそうそうないのだろうが…。
だからといって、誰にでもやっていいもんじゃないぞ?
「今度から男にする時は、彼氏だけにしておいた方がいいぞ?」
「えっ…あっ、ごめんなさいっ…」
やっと自分がしたことを理解した綾葉は、真っ赤になった顔を両手で覆う。
こういうところが、やっぱり可愛いと思う。
彼氏だけにと言っておきながら、心の中では俺だけに───と思ってしまうのは、我侭なんだろうなぁ。
「あれっ、綾葉?どうしたんだよ」
突然、綾葉の名前を呼ぶ男性の声。
綾葉と永遠が、声の方へ視線を向けると最近はあまり見掛けなくなった学ラン姿の高校生。
背が高く、爽やかな感じの今時の若者という感じだろうか?
「蒼君」
───蒼君?誰だ?
っていうか、こいつ俺が通っていた海林高校の生徒かよっ。
「やっぱり、綾葉だったんだ。どうしたんだ?真っ赤な顔して。まさか、こいつに何かされたんじゃっ!」
───は?こいつって、俺のことか?!
怖い顔でその蒼という男子高校生は、永遠のことを睨みつける。
「ちがっ、蒼君。先生は、何も」
「先生?」
先生と言う言葉を聞いて、急に顔色を変えた蒼。
「はじめまして。綾葉さんの家庭教師をしている、新井と言います」
ここは、にっこり微笑むと大人らしく丁寧に挨拶する永遠。
目と目を合わせる二人の間には、気のせいか火花のようなものがパチパチと…。
意外なところでのライバル出現?!に、永遠の恋の炎はメラメラと燃え上がるのでした。
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