「なぁ、綾葉。あいつ、大丈夫なのか?」
永遠と別れて、綾葉と蒼樹は家までの道のりを一緒に帰る。
しかし、蒼樹にはどうしても、永遠のことが気になって仕方がない。
「大丈夫って?」
身長178cmの蒼樹を見上げる彼女の目には、疑うことなどこれっぽっちもないという感じ。
「いや、カテキョのくせに綾葉とあんなところでさ。あいつ絶対、綾葉に気があるぜ」
「えっ、蒼くん何言ってるの?先生は、そんなんじゃないわよ。友達も一緒だったし、偶然ブックセンターで先生に会っただけだもん。それをみんなが気を利かせて…先生だって、きっと仕方なく誘ってくれたんだと思う」
目をまん丸にして見開く綾葉。
カフェにいたのは、友達が変な気を回したことで先生は仕方なく連れて行ってくれただけ、それに大人の先生が高校生の自分に気があるはずがない。
「綾葉は男に免疫がないんだから、いくらカテキョでもホイホイ付いて行ったりしたらダメだぞ?」
「免疫って…」
まぁ、確かに蒼樹の言う通り、綾葉には男の人と付き合った経験もないわけで…。
だけど、先生は絶対そんな人じゃないと思う。
「ああいう色男は、何を考えているのかわからないからな。どうせ、女をとっかえひっかえしてるに決まってるんだ」
「先生はそんな人じゃないもん。先生を悪く言わないでっ。そんな言い方する蒼くんは、嫌いっ!」
そう言い捨てて、綾葉は彼を置いてスタスタと歩き出してしまう。
普段温厚な綾葉が、こんなに声を荒げたのは付き合いの長い蒼樹も今まで見たことがない。
「綾葉、ちょっ待てって」
「知らないっ」
「綾葉ぁ…」
蒼樹は、ガックリ肩を落としてその場に立ち尽くす。
好きな子に”嫌い!”と言われて、ショックを受けない男は恐らくいないだろう…。
…あぁ…ただでさえ、そういう対象にすら思われていないのに…。
彼女を想うあまり、ついいらぬことを言ってしまう。
「綾葉、ごめん悪かった。許してくれよぉ」
急いで後を追う蒼樹を綾葉はなかなか許してはくれなかった。
+++
今日は待ちに待った?!綾葉の勉強をみる日。
しかし、彼女の幼馴染だと言っていた蒼樹とはあの後どうなったのか…。
あの様子では、恐らく彼の一方通行であろう恋心───。
「先生?どうかされたんですか?」
「えっ、あっ、ごめん。じゃあ、早速始めようか」
───俺としたことが…。
あんな、高校生のガキに嫉妬してどうするんだ。
「あの、先生?」
「ん?」
言い掛けて、先の言葉に詰まってしまう綾葉。
何かあったのだろうか?
「先生は彼女さん、いらっしゃいますよね…」
「俺?」
はにかむように言う彼女にちょっとは気に掛けてくれたのか?と思ったりして…、今まで心配していた蒼樹のことなどどこかへ行ってしまう。
「いらっしゃいますよね。やっぱり…」
「どうして、そう思うのかな?」
「蒼くんが言ってたんです。先生のこと、女の人をとっかえひっかえしてるに決まってるって」
───あ?なんだと?
あいつ、俺のことをそんなふうに言いやがったのか。
くそっ、許せんやつだな。
俺のどこが、女をとっかえひっかえしてるっていうんだ。
こんな勉強熱心で、姉想いの真面目な男はいないだろうがっ。
っていうか、まさか…彼女はそれを信じているんじゃないだろうな。
「君は、どう思う?俺が、女性をとっかえひっかえしてるように見える?」
「いえ…先生は、そんなことをする人じゃないと思います」
一生懸命、首を左右に振って否定する綾葉。
…先生は、そんな人じゃないもの。
「ありがとう。君にそう言ってもらえただけで、嬉しいよ。なんか、外見的にそう見えるみたいだけど、俺は誰とでも付き合ったりするわけじゃない。一応言っておくけど、今は誰とも付き合ってないから」
「本当ですか?」
「あぁ」
「良かったぁ」
ホッとしたのもつかの間、言ってから顔を赤らめる綾葉がやっぱり可愛いと思う。
───ん?それより今、良かったとかなんとか言わなかったか?
「あのさぁ、何が良かったの?」
「え…」
意地悪な質問だと思いつつも、言わずにはいられない。
ワザと顔を近付けて彼女がより赤くなっていくのを楽しむ自分にも呆れるが、可愛いものは可愛いのだから仕方がない。
オヤジみたい───何とでも、言ってくれと。
「なぁ、ちゃんと言ってくれよ。何が、良かったんだ?」
「あの…ほら、先生っ。早く勉強を始めないとっ」
教科書を開いてペラペラとページを捲る手が、心なしか震えているような…。
これ以上はかわいそうだなと思いながらも、やっぱりその先を聞いてみたい。
良かった…ということは…。
「気になって、勉強が教えられないんだけど」
「そんなぁ」
「いいじゃん、教えてよ。俺に彼女がいなくて良かった?」
「え…はっ、はい」
何で良かったのか?ってところまで聞きたいところだけど、そこまではヨシということにしておこう。
彼女だって、永遠に対する気持ちは単なる憧れとかそんなことだろうし。
「じゃあさ、俺も聞いていい?」
「え?はっ、はい。何でしょうか」
「幼馴染の蒼君は、君の彼氏なの?」
自分から聞くのは何となく気が引けるが、流れのついでに聞いてしまえば怪しまれることもない。
「彼氏なんて…蒼くんは、ただの幼馴染ですよ?同じマンションに住んでるんですけどね。親同士が仲良しなんで」
───なるほどね。
そうだとは思ったけど…。
妙に安心している自分がいるのも確かではある。
「そっか。てっきり、彼氏なのかなって思った」
「蒼くんは同い年なんですけど、お兄さんみたいな人ですね」
「彼、海林高校に通ってるんだよな。あそこ、実は俺も通ってたんだ」
「そうなんですか?すっご〜い。でも、そうですよね。先生は、帝都大の大学院に通ってるんですものね。蒼くんもすっごく勉強ができて、帝都大を目指してるんです」
「彼も?」
───何?あいつも俺と同じ大学を目指してるのか?
海林の生徒はほとんどが帝都大を第一志望にしてるから、彼がそうであっても特別珍しいことではない。
でも来年、同じ学内で彼に会うかも…と思うとちょっと嫌ではあるなぁ。
「はい。今度、蒼くんに先生はどんな勉強をして合格したのか、教えてあげて下さい。先輩だって聞いたら、絶対参考になると思うので」
「あ、あいつに?」
───それだけは、勘弁してくれ。
あいつと面と向かって話すだけでも、ムラムラきそうなのに…。
「後で、メールで教えてあげなくっちゃ」と嬉しそうに話す綾葉に多分、彼だって嫌がると思うんだよなぁ…。
まぁ、彼女が彼を幼馴染みとしか思っていないことが救いだろうか…。
どんどん、彼女に惹かれていく自分に戸惑いを覚えずにはいられなかった。
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