「その後、綾葉ちゃんとはどうなんだ?ん?」
永遠が図書館で静かに勉強しているというのに…いや、実のところは綾葉のために試験に備えて模擬試験の問題を作っていたところ。
他の教科はわりと出来る方だと彼女は言っていたから、出そうなところを選んでいたのだが、運の悪いことに拡に見つかってしまった。
「どうって、別に」
覗き込む拡を無視するように永遠は、問題と睨めっこしている。
そんな永遠が、拡にはおもしろくない。
「何だよ。つれないなぁ」
───何が、『つれないなぁ』だ。
俺は今、忙しいんだ。
少しでも彼女の成績を上げなければ、俺は家庭教師をやっている意味がないんだからな。
母親が勝手に引き受けてきた家庭教師のバイトを、正直言って初めは嫌々なところもあった。
それが、どうだろう?こんなにも真剣に取り組んでいるなんて…。
今や本業よりも熱を入れているとは…。
「あのなぁ、俺は忙しいんだよ。相手なら、瞳にしてもらえ。あいつなら、さっきカフェテリアで見かけたぞ?」
「あぁ?何で瞳に」
綾葉のことを聞きだそうとしたのに、なぜか瞳の名前を出されて拡は少々分が悪い。
本当なら永遠の言うように瞳に相手をしてもらえばいいのかもしれないが、ちょっと些細なことで喧嘩をしてしまって…。
「それを俺に聞くか」
───わかってるくせに。
この二人はいつになったら、自分の気持ちに正直になるんだか…。
なんとかしてあげたい気持ちはあるが、永遠にもあまり深く立ち入れない部分もある。
もう、いい大人なんだし、これは拡と瞳の問題だから。
「瞳は、俺の相手なんかしてくれないさ。っていうか、俺のこと…」
「そんなわけないだろ?ほら、そこでぐだぐだしてるんだったら、行ってやれよ。俺の邪魔をしてる場合じゃないだろうが」
「あぁ」
「大丈夫だって。瞳もお前のこと、待ってるぞ?きっと」
永遠は拡の背中を思いっきり叩く。
ここが図書室だってことをすっかり忘れて「痛ってぇ」と大声で叫んだ拡は周りから白い目で見られたが、永遠の言葉にちょっぴり自信を取り戻したよう。
「永遠も綾葉ちゃんと、うまくいけばいいな」
「俺は、関係ないだろ?」
「いや、お前変わったよ。バイトとはいえ、家庭教師をやるようになって生き生きしてる」
「今までが、そうじゃなかったみたいな言い方だな」
確かに家庭教師のバイトを始めてからというもの、毎日が楽しくてしょうがない。
こうやって問題を作っている時も、綾葉がどういう反応をするだろう?とか。
他愛のない会話から生まれる、忘れていたものを思い出させてくれるような素の姿だったり…。
「あれ?違ったか」
おちゃらけたように言う拡に苦笑する永遠。
───ここは、そういうことにしておいてやるよ。
「邪魔したな」と言って去って行く拡の後ろを姿を見送ると、再び問題作りに取り掛かった。
+++
「今日は英語も含めた他の教科の出そうなところを俺なりに集めた模擬試験問題を作ってきたから、始めにそれを解いてもらおうかな」
「えっ。また、テストですか?」
「こら、そんな声出さない。また、じゃないだろう?本番はテストなんだから、頭に入っているかどうかの確認をするにはこれが一番なんだ」
「そうですけど…」
前もってテストをすると言っておいてくれれば事前に勉強もできたのだが、英語以外ははっきり言って何もやっていない。
綾葉は、なんとしてでも英語で80点以上取って永遠とデートしたい、その一身で猛勉強しているものの、先生を目の前にしてなんだが、他の科目については半分以上捨てていたし…。
「それじゃあ、始めるぞ」
「は〜い」
返事からして乗り気ではなさそうだが、これは永遠も予想していた反応だけになんてわかりやすい子なんだと思ってしまう。
しかし、問題を解く表情は真剣で、いつまでも見ていたいと思ってしまう。
そんな時、ふと思い出すのは拡の言った言葉。
『17だって、立派な女なんだからな』
まだ、あどけない表情の中にも、大人の女性らしさが見え隠れ。
───あと、数年したらもっと…。
おっと、俺としたことが、またこんなことを考えて。
彼女が言った『先生が私とデートしてくれるなら、絶対80点以上取ってみせます』の言葉を信じて祈る永遠だった。
それから、試験前日までの間は週2回の勉強を永遠の時間が許す限り行うことにした。
随分とまぁ、熱心なこと。
母親は思っても口には出さなかったが、恐らくそう思ったに違いない。
「いよいよ、明日からテストだな。俺が教えられるのはここまでだけど、模擬問題の結果から見てもかなりの成績が取れると思うから。落ち着いてやれば大丈夫」
「はい。頑張ります」
綾葉の表情からも、自信が伺える。
「はい、これ」
そんな彼女の前に永遠が差し出した物は───。
「えっ、何ですか?」
「大したものじゃないけど、試験を頑張って欲しいという願いを込めて」
「開けていいですか?」という綾葉に永遠が頷くと、嬉しそうに小さな包みを開ける。
永遠が彼女に渡したものは、可愛らしいシャーペンと消しゴムのセット。
今時のキャラはさっぱりわからないが、女子高生や若い女性に人気の輸入雑貨店にこっそり入って、それを買った。
果たして気に入ってもらえるかどうかはわからないが、みんながこぞって買っていたから、恐らく人気のキャラなのだろう。
「わぁっ、いいんですか?もらっても」
「あぁ、気に入らないかもしれないけど」
「そんなことないですっ。これ、すっごく人気で私も欲しかったんですが、いっつも売り切れてるんです」
───そうなのか?
道理でそれが並んだ棚の前で、キャーキャー騒いでいたわけか。
たまたま、永遠が行った時に入荷されたのかもしれない。
「みんな、それを買ってたからな」
「ありがとうございます。これで、英語は80点以上間違いなしです」
「英語だけじゃ、困るけど」
嬉しそうにそれを握り締めている綾葉を見ていると、自分まで嬉しくなってくるから不思議だった。
「でも、先生?」
「ん?」
「これ、先生が買ったんですよね」
「そうだけど」
───俺が買ったらいけないのか?
クスクスと笑い出す綾葉に永遠は首を傾げるばかり。
「ごめんなさい、笑って。このキャラクター、先生のイメージと違うから。つい」
───そう言えば、なんか周りにいた子達や、店員も変な顔してたよな。
あまりに俺に似合わないキャラだから…。
男は好きな女性には、周りを気にせず何でもできるということか…。
尚もクスクスと笑う綾葉を見つめながら、そんなふうに思うのだった。
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