プリンな彼女
story6


「真紀ちゃん、何見てるの?」

お昼休みが終わりに近づいた頃、祐里香がロッカールームに入ると何やら真紀ちゃんが真剣に雑誌を読んでいる。
───何か面白いことでも、書いてあるのかしら?

「あっ、祐里香さん。誕生日のプレゼントを選んでるんです」
「誕生日?」

真紀ちゃんの見ていた雑誌を覗いてみると、そこに載っているものは全て男性用の物ばかり。
なるほど、彼氏の誕生日プレゼントを探していたのね?

「はい。男の人なので、どんなものをあげたらいいかなって、迷ってしまって」
「ねぇ、それって彼氏?」
「残念ながら」

真紀ちゃんには、彼氏はいなかったのね。
てっきり、いると思ってたんだけど。

「祐里香さんだから言いますけど、彼氏じゃないんです。憧れの人って言うか…」
「そうなの?」

憧れの人かぁ。
でも、その人に誕生日プレゼントを渡すということは、そこで告白したりするのかしらね?
真紀ちゃん、意外に積極的だから。

「もしかして、プレゼントを渡して告白するとか?」
「はい…。頑張ってみようと思って」
「そっかぁ。真紀ちゃんなら、大丈夫。きっと気持ちが通じるわよ」
「だと、いいんですが…」

こんな可愛い子に誕生日に告白されて、相手の人に余程のことがない限り、断る理由なんてないと思う。
でも、いいなぁ。
そんなふうに思える人が、いるなんて。
あたしには、いないもん。

「そう言えば、稲葉さんも、もうすぐ誕生日なんですね?」
「稲葉が?」
「この前、そんな話をしているのをチラッと聞いて」

───へぇ、稲葉も誕生日。
あたしより、3つも年上になるわけ?
オヤジねぇ。

「祐里香さんは、プレゼントをあげないんですか?」
「あげないって、稲葉に?」

───なんで、稲葉にプレゼントをあげなきゃいけないの?
っていうか、あいつならあたしがあげなくたって、わんさか綺麗どころにいただくに決まってるわ。

「もうっ、祐里香さんったら。いいですよ、恥ずかしがらなくても」
「別に恥ずかしがってないけど」

どこをどう間違ったら、そう見えるのかしらねぇ。

「もらえなかったら稲葉さん、泣いちゃいますよ」
「あの男が?あはは、あたしにプレゼントをもらえないくらいで、泣くような柔な男じゃないわよ」
「そんなことないですって。稲葉さん、待ってますよ。祐里香さんからの誕生日プレゼント」

───そうなのかなぁ…って、何あたしったら、真紀ちゃんの言うことに納得してるのよ。
だいたいねぇ、稲葉に限って、そんなことないっていうのに…。
でも、同期だし、最近少しお世話になってるし…。
なんだか、急に気になり始めた祐里香だった。

+++

定時で上がれた会社帰り、雑誌で見た新作の口紅を買おうとあたしは、デパートに寄って行くことにした。
お目当てのショップの前に行くと、男性物のトワレが並んでいるのが目に入る。

「いらっしゃいませ。こちらは、新商品ですごい人気なんですよ。彼氏にプレゼントしてみたら、いかがですか?」

とは言われても、彼氏なんていないし…。
───あっ、そう言えば稲葉の誕生日。
でも、あの男がトワレ?
似合わな〜い。
あれ?でも稲葉って、微かに何かの香りがしてたかも…。

徹夜してソファーで転寝していた時に掛けてくれた彼のスーツのジャケットから、微かに何かの香りがしたのを思い出した。
結構、好きなのかもしれないわね。
だけど、急にこんなものを渡したりしたら、変に思わないかしら?
仕事を手伝ったお礼に焼肉いっぱい奢ってもらったし、酔って家まで送ってもらったり、この前はプリンももらっちゃったしね。
実は、世話になってるんだわ、あたしったら。
やっぱり、無視っていうわけにもいかないわよねぇ。

ヨッシャッ、一つ買ってみるか。

自分の口紅を買うはずだったのに、なぜか稲葉のプレゼントのトワレを買って帰った祐里香だった。

+++

それから、数日後の稲葉の誕生日。

祐里香のバックの中には、稲葉への誕生日プレゼントが入っている。
───こういうのって、いつ渡せばいいのかしら?
どこかに行ったお土産でも渡すなら簡単だけど、プレゼントとなるとタイミングが難しい。
二人っきりになる時などほとんどないし、かといって呼び出すのもねぇ…。

そんなことを考えながら給湯室でコーヒーを入れていると、向かい側にある非常階段から女性の声が聞こえてきた。

「お誕生日、おめでとうございます。あの…これ、つまらないものなんですけど」
「ありがとう。でも、本当にこういうのは困るんだ。君のことは良く知らないし、もらう理由がわからない」

───あれ?この声は、稲葉。
そして、女性の声は多分隣の部の人。
小柄で可愛らしく、声に特徴があるからすぐにわかった。

「それは…」
「ごめん。悪いけど、受け取れないよ。君の気持ちだけ、もらっておくから」

安易に受け取れば、相手は勘違いするかもしれない。
だからこそ、稲葉は受け取れなかったのだろう。

「わかりました。すみませんでした」

そう言い残して、彼女は先にその場を離れて行った。
───やっぱり、稲葉ってモテルのねぇ。

「なんだ、新井。ここにいたのか」
「いちゃ、悪い?」
「いや、聞いてたのか」
「人聞きが悪い。聞いてたのかじゃなくて、偶然聞こえちゃったのよ」

───あたしが悪いみたいな言い方、しないでくれる?

「今日はこれで、5人目なんだよな。何で俺になんかって、思うんだけど」
「うそっ、5人目!?」

そんなに!?ひぇ〜。
やぁ、モテ男は違うなぁ。
って、納得している場合じゃなくて、ということは、あたしのプレゼントも受け取ってもらえないわよね。
あぁ…せっかく、奮発して買ったのに…。

「あのね。実を言うとあたしも買ったのよ。稲葉にお誕生日のプレゼントをあげようと思って。結構、お世話になってるから、お礼にってね」
「え…新井が、俺に?」

まさか…自分がもらえるとは、思ってもみなかった。
これが本当なら、マジ嬉しいっ!
今にも飛び上がりたい衝動をグッと抑えて、平静を装う稲葉。

「でも、いらないわよね」
「いるっ、いるよ!」
「え?だって、さっき困るって言ってたじゃない」
「それは、それだろ」

さっきは困るって言ってたのに、何よそれはそれって…。
意味わかんないわ。

「なんか、よくわからないわねぇ。で、あたしのはもらってくれるわけ?」
「もちろんだよ」
「あっ、そう。じゃあ、帰る時に渡すから、声掛けるわね」
「あぁ、ありがとう」

心の中で思いっきりガッツポーズを取る稲葉は、その後の変わり様に職場のみんなが首を傾げるばかり。

───あっ、そう言えば、真紀ちゃんは憧れの人にプレゼントを渡して告白したのかしら?
後で、聞いてみなくっちゃ。


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