お見合い結婚
story 16

R-18

「…っぁ…んっ…っ…」

いつもと違う文章のキスに自分が自分でないような、変になってしまったのではないかと思うほど、お風呂でのぼせたのとは違うヒンヤリとしたシーツの上で全身が勝手にどんどん熱を帯びていく。
―――私、こんな…。
こんな女じゃなかったはずなのに…文章さんにもっと触れて欲しい壊して欲しいと思ってしまう。
やっぱり、おかしいのかな。

「…待っ…て…文章さん、私…」
「ん?どうしたの、麻衣」

…少し、急ぎ過ぎたのだろうか?
麻衣の裸を見て、理性がどこかに吹き飛んでしまったのは否定しない。
社会人になって大人を気取っていたはずなのに、これじゃあ本能丸出しの獣とちっとも変わりないじゃないか。
こんなふうに彼女の心の準備が整う前に抱いてはいけなかったのかもしれない。

「私、変なんです」
「変?」

はにかみながら、こくんと頷く麻衣。
変というのは、どこがどう変なのだろう?
今夜の彼女は色っぽくて艶っぽくて、いつもと違う少しだけ大胆なところが文章を酔わせているというのに。

「変って、どこが?」
「怒らないですか?」

「怒るって、麻衣?」と問い掛ける文章に麻衣は、口ごもってしまう。
…一体、どうしたというのだろうか。
やっぱり、今はまだ…。

「もっと…」
「麻衣?」

「触れて欲しいんです。文章さんに…」と頬を染めながら、本当に本当に消え入るような小さな声で囁くように言う麻衣、文章はこれからずっと彼女と一緒にいられるのなら他の全てを失ってもいいと思った。
大袈裟かもしれないが、それくらい今の言葉は文章にとって嬉しいもの。
大胆な部分とそうでない部分が、絶妙なバランスで見え隠れする。
彼女はきっとそんなことはわかっていない、駆け引きなんかじゃない、本心を口にしているだけなんだろう。
それが、どれほど文章を喜ばせ、狂わせるかなんて。

「麻衣は、ちっとも変なんかじゃないよ。僕も麻衣に触れて欲しいと思ってる」
「文章さ―――」

麻衣の言葉を遮るように文章は彼女の唇を塞ぐ。
今度こそ、迷いはなかった。
ただ、お互いの想いが重なって溶け合えばいい。

「…っ…んっ…ぁ…っ…」
「我慢しないで、麻衣の可愛い声を聞かせて」

―――そんなぁ…。
彼の手が唇が、今まで誰にも自分でさえも触れたことのない場所を甘く刺激する。
感じたことのない感覚に戸惑いながらも、それに一生懸命応えようとする麻衣。

文章は身に纏っていたものを全て脱ぎ去って、彼女と向かい合う。
均整の取れた姿に思わず見惚れてしまう麻衣。
―――男の人って、こんなに綺麗なの?
ダビデ像のような完成された肉体美は麻衣も実物を見たことがあったが、そういうのともまた違う美しさというのだろうか。
自分は何て子供なんだろう、そう思わずにはいられないほど、貧弱な体に悲しくなってくる。

「そんなふうに見つめられると、僕も恥ずかしいんだけど」
「あっ、ごめんなさい。つい…」

「つい、何?」と顔を覗き込まれて、横に背けると思わず手で覆う。
―――文章さんの意地悪っ。
っていうか、恥ずかしい…もう、嫌。

「ま~い、麻衣ちゃん」

「こっち向いて」と、ワザと子供に話すような言い方をする文章。
からかうつもりなどなかったが、あまりに可愛くて…彼女じゃないけれど、つい?
こういうキャラじゃなかったはずなのに彼女の前では全く違う自分の出現、これからもっともっとそういう新鮮な驚きと発見があるのだろう。

「文章さんの、意地悪ぅ」
「それは、麻衣が可愛いから」
「そんなの理由になってません」

口をアヒルのように尖らせ、膨れっ面の彼女もまた別の意味で可愛く思えてしまうのは、相当溺れているということにしておいて欲しい。
羽が触れるように唇にくちづけ、耳元で『好きだ』と囁いたら、果たして許してくれるだろうか?

「ズルイです」
「こんな僕は、嫌い?」

―――やっぱり、文章さんはズルイ。
私が嫌いになんかなるはずないことを知ってて、確信犯なんだから。

「嫌い…じゃないです」
「好きって、言ってくれないんだ」
「意地悪でズルイ人には、言いませんっ」

クスクスと笑いながら、腕をすり抜けようとする麻衣を文章はぎゅっと抱きしめる。
素肌と素肌が触れ合って、直に熱が伝わっていく。
心臓の鼓動が一気に速くなるのを麻衣は抑えることができなかった。

「ごめん、麻衣」
「私こそ…」

「ごめんなさい」とすがるように麻衣は文章の背に腕を回す。
やっとココまで来たというのに、二人の甘い夜、初めて結ばれる夜にキマヅイ思いだけはしたくない。
だから…。

「愛してる、世界中で誰よりも」

カッコつけてる、何とでも言ってくれ。
ただ、今はこの言葉しか文章には見つからなかったから。

「…あっ…っ…ぁ…ふみ…あ…き…さ…っ…」

優しくしよう、大事にしよう、こんなシチュエーションで彼女を…色々頭の中で想像を膨らませていたけれど、好きで好きでたまらない彼女を前にそんな空論なんか成り立たないということ。
「愛してる」と馬鹿の一つ覚えみたいに口にして、想いを受け取ってもらうしかないのだ。

「…麻衣っ」

背中にチクっとした痛みが走ったのは、彼女が爪を立てたから。
彼女に比べれば、こんな痛みなどたいしたことじゃない。

「…っ…あぁぁっ…んっ…ぁ…」

ベッドがキシム鈍い音、結ばれた二人はどこまでも幸せな時間(とき)に包まれているのだった。


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