My Angel
Story3


お昼休み、みんなでお弁当を食べている時、あたしは箸を持ったままそれ以上口にすることができなかった。

「千春、どうしたの?」

異変に気づいた遙が、心配そうにあたしを見ている。

「なんか、気分悪い…」

そう言うとあたしは、そのまま意識を手放した。

気がつくと白い天井が目に入る。
視線を横にずらすと白いカーテン。
ここは、どこなんだろう?
そっとカーテンに手を掛けて、少し開けるといくつかのベットが見える。
ああ、ここは保健室。
あたしはやっと自分がどこにいるのか理解することができた。
でもなんで、あたしはここに寝てるのかしら?
確か、お昼のお弁当を食べていて…。

「千春ちゃん、大丈夫?」

あたしの名前を誰かが呼んでいる。
え?もしかしてこの声は…。
あたしは、声の方に目を向けると驚いてとっさに起き上がろうとしたところを声の主に両肩を抑えられた。

「ダメだよ、千春ちゃん。まだ起きたりしたら」

声の主はやっぱり、根津先生だった。
なんで、この人がここにいるのよ。
っていうか名前で呼ばないでよ、ここの松沢先生に聞かれたらどうするのよ!

「先生が、どうして?」
「あぁ、担任の宮田先生が5時間目と6時間目に授業が入ってて、僕は授業がなかったから代わりに来たんだよ。それと松沢先生が、今ちょっといなくてね」

え?ってことはこの人、ずっとここにいたわけ?
あぁ、なんてことなの…。

「千春ちゃん、昨日学校休んだんだって?無理しちゃ、駄目じゃないか」
「朝は熱もなかったし、体調もよかったので学校に来たんですけど」

いきなり冷たいものが額に触れて、あたしはビクッと震え上がった。
それがあの人の手だということがわかったのはすぐ後のことだったけど、なんて冷たいのよ!ん?それともあたしが熱いの?

「ごめん、びっくりさせて。少し熱が出てきたみたいだね。今日は、おばさん家にいる?」
「はい…いると思いますが」
「そう。じゃあ僕が連絡しておくから、帰った方がいいかもしれないね。僕は車で来てるから、送って行くよ」
「いえ、いいですよ。一人で帰れます」

送ってくって…この人は、なんてことを言い出すんだ。

「遠慮しなくて、いいよ」

いや、そうじゃなくって。
多分この人には、何を言っても無駄なんだわ。
それより。

「あの、先生?」
「うん?なんだい?」
「先生は、あの…あたしのこと覚えてたんですか?」

これだけは、なんとなく聞いておきたかった。

「そりゃあ覚えてるよ。千春ちゃんは、ずっとこの学校に通ってたしね。それにあの時もめちゃめちゃ可愛かったけど、今はそれ以上に可愛くなっちゃって、もうびっくりしたよ」

あなた仮にも教師なわけだし、その話し方も千春ちゃんって呼び方もなんとかならないの?

「はぁ、そうですか…」
「そうだ。すぐお家に連絡して来るから、ちょっと待っててね」

そう言うとあの人は、急いで保健室を後にした。
なんなのかしら?あの人。
あの頃と全然変わってないわね。
大人なんだか子供なんだか、さっぱりわからないわよ。
あたしは、額に手をあてたままそっと目を閉じた。

15分ほどしてあの人が戻って来ると歩けるってのにあたしの意見なんてまったく無視して抱っこ、それも俗に言うお姫様抱っこよ?で車まで運ばれてしまった。
授業中だったから誰にも見られずに済んだけど、ほんとやめて欲しいわよ。
少し熱もあってボーっとしてたってのもあったけど、この人といるとなんかペースを乱されてしょうがないのよね。
さすがに家に着いた時は自分で降りたけど、あの人ったらまた抱っこして家に入ろうとしたんだから。
その後は、お母さんが根津先生のことをあの時の家庭教師だと知ってもう舞い上がっちゃって大変だったんだからね。
お母さんが夕飯もってなんて言い出した時は、あの人も困ったみたいで、さすがに学校に戻らないとならないんでって帰ったけどね。
やっぱりあたしのこれからの高校生活は前途多難だわと思わずにいられなかった。


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