次の日は土曜日で学校が休みだったから、ゆっくり休んですっかり体調もよくなった。
月曜日から学校に行くのは憂鬱だったけど、向こうも覚えてたんだから仕方がないわよね。
それにもうこんなこともないだろうし、と思ったのがあたしの間違いだった。
朝起きるとお弁当が、なぜか二つ用意してあった。
大きさからいってお父さんの分かなって、でもお父さんは普段お弁当なんて持って行かないけど、今度から持ってくことにしたのかもしれないしって思ってさして気にも留めないでいるとお母さんに。
「千春、これ根津先生に持って行ってね」
はぁ?今なんと?
この人は、なにを言い出すんだか…。
「千春を送ってくれたお礼よ。先生、お母さんの手料理食べられなくて残念がってたから。ちゃんとあなたからも、お礼を言うのよ」
いや、だからって、なんでお弁当?
まぁ、確かにお母さんの料理はおいしいからね。
だけど個人的に生徒からこういうのをもらうのって、どうなの?
それにこれ、いつ渡すのよ。
誰かに見られたら、たまったもんじゃないわ。
はぁ…。
最近、ため息ばかりだわね。
あたしは仕方なくあの人のお弁当を持って、少し早く家を出て学校へ行った。
いつもより早く学校に着くと部活の朝連で来ている生徒くらいしかいなかった。
あの人のお弁当を持って職員室に行くとちょうど運良くあの人が出て来るところで助かった。
「根津先生」
あたしが声を掛けると先生は、朝から天使のような微笑みを浮かべてあたしの方に歩いて来た。
「あぁ、千春ちゃんおはよう。もう体調の方は、いいの?」
「おはようございます。はい、もうすっかりよくなりました」
あたしは思いっきり作り笑いを浮かべたけど、大丈夫かしら?引きつってないわよね。
「そう、それはよかった」
「あの時は、大変お世話になりました。あのこれ、母から…えっとお弁当なんですけど」
そっと紙袋を差し出すとあの人は、ちょっとびっくりしたようだった。
わかってたリアクションでは、あったんだけどね。
「あっ、やっぱりこういうのまずいですよね。母にも言ったんですけど」
あたしは、急いで紙袋を引っ込めようとするとあの人の手がそれを掴んだ。
え?
「いや、嬉しいよ。おばさんの料理、すごく美味しいからね。遠慮なく頂くよ」
そうなの?それなら別にいいけど。
「じゃあ、帰りにお弁当箱取りに来ますから」
そう言ってあたしは、教室に戻ろうとすると。
「今度は、千春ちゃんの作ったお弁当がいいな」
へぇ?
今なんと?
千春ちゃんが作ったお弁当が食べたいとか、そんなふうに聞こえたんだけど…気のせい?
あたしがその場で固まっているとあの人は、ニコニコしながら「楽しみにしてるからね」って職員室に消えて行った。
『冗談でしょ…』あたしは、また帰りにお弁当箱を受け取りに来なければならないことを思うとその場に頭を抱えて座り込んだ。
また、気分が悪くなりそうだわ。
あたしが机に突っ伏して寝ていると遙が登校して来た。
「千春、おはよう。まだ、具合悪いの?」
うん?あたしは、重い身体を起こすと遙の顔を見る。
「そんなことないよ。今日は、ちょっと早く来たから寝てただけ」
「そう?ならいいけど。金曜日は、ほんとびっくりしたよ。お弁当食べながら、いきなり倒れるんだもの」
そうだったの?そう言えば、あの時の状況を聞いてなかったんだ。
で、あたしはどうやって保健室に運ばれたのかしら?
あたしの思ってることがわかったのか、その時のことを遙が話し始めた。
「慌てて職員室に先生を呼びに行って、そしたら根津先生しかいなくって千春のこと言ったらすっごいびっくりして、いきなり飛び出して行っちゃって」
「そうなの?」
なんか、あの人の慌てっぷりが目に浮かぶようだわ。
「あたし達も後から急いで教室に戻ると先生が千春を抱きかかえて、保健室に運ぶところだったのよ」
げっ、まさかそこでもやったわけ?
「いやぁ、あの時の根津先生かっこよかったわほんと。あたしもあんな風にお姫様抱っこしてもらいた〜い」
やっぱり…。
あたしは、首をぐったりと垂れるとはぁ…今日2度目のため息をついた。
「あれ?そう言えばあの時、千春のこと『千春ちゃん』って呼んでた気がしたんだけど…」
え?マズイ…。
こういうとこ遙、鋭いのよね。
「なんかの聞き間違いじゃないの?」
あたしはまったく知りませんってふりして誤魔化したけど、バレちゃったかな?
「そう?だよね。千春が先生と知り合いだったら、もっと自慢するもんね」
いや、しない、しない。
あたしは心の中で、首を思いっきり横に振った。
「ところで千春、先生のこと見ても何も言わないけど、好みじゃないの?」
「へ?なんで?」
「だって、いつもならあんなかっこいい先生だよ?もっとはしゃぐじゃない」
「そうかな?そんなことないと思うけどっていうか、あたしあの人ダメ」
「なんで?」
遙がどうして?って顔で、あたしを見つめる。
「なんでって。わかんないけど、なんかああいう人ダメなんだもん」
「千春がそんなこと言うの珍しいね」
そうかもしれない。
あたしって結構ミーハーだから、ちょっとかっこいい人がいると大騒ぎしちゃうのよ。
そのあたしがあの人を見て何も言わないってのは、やっぱり不思議なのかな。
その後、すぐ始業のチャイムが鳴って遙は、自分の席に戻って行った。
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