コスプレ衣装は、そういうのを貸してくれるところに頼んで用意することにした。
前日にそれが届いたので、みんなで試着してみたのだが…。
「う…そ。なんでこんなにミニなわけ?」
あたしが着るメイド服のスカートは、少し動けばパンツが見えてしまうくらい短いものだった。
「やっぱり、メイドはこれがお決まりでしょ」
「お決まりって、どうして遙のスッチーはミニじゃないのよ」
見れば遙が着るスッチーの制服は、あたしほどミニスカじゃない。
他のナースやバスガイドも同じだった。
「これは、スタイル抜群の千春だからでしょ?」
「そうそう」って周りのみんなも頷いてるけど、あたしはスタイル抜群なんかじゃない。
遙の方が、よっぽどスタイルいいじゃない。
「あたしはスタイル、よくないもん」
「大丈夫。千春がこれ着てみんなの前に出たら、うちのクラス人気投票一番間違いなしだから」
遙は全然あたしの話なんか、聞いちゃぁいないし…。
まいったな、こんな格好を先生に見られたらどうなるか…。
きっとそれ知ってて、こんなの用意したのに違いない。
遙の確信犯っ。
と怒ってみてもスカートの丈は長くならないわけだし、こればっかりはどうしようもないのかなと半ば諦めるしかなかった。
+++
当日、更衣室で衣装に着替えて自分の姿を鏡に映してみる。
はぁ…。
お決まりの溜め息に苦笑しか、浮かんでこない。
「きゃー、千春可愛いっ」
そんな今にも雨が降りそうなあたしの心とは裏腹に思いっきり晴天の遙があたしを見て黄色い声を上げた。
「どういたしまして」
「なによぉ、ふて腐れちゃって」
「別に?ふて腐れてなんかないけどぉ」
本当は、思いっきりふて腐れてるんだけどね。
「そんな怖い顔しないの、せっかくの可愛い顔が台無しでしょ。さ、行こうみんなもう用意できてるから」
あたしは、遙に引っ張られるようにして更衣室を後にした。
教室に戻るまでの間、みんなに見られてすごく恥ずかしかった。
動物園のパンダになった気分って、こういうことを言うのね。
そしてコスプレ喫茶の会場である教室に入るとそこにいた男子の視線が一気にあたしに集まった。
「ちょっと千春が可愛いのはわかるけど、見惚れてないでさっさと準備してよね。もう始まっちゃうじゃない」
遙が声を出さなかったら、目の前の男子はすっかり自分達の役目を忘れていただろう。
「よぉ、みんな準備は整ったのか?」
担任の宮田先生が、心配して覗きにきたようだ。
そして、あたしを見るなり…。
「河合…」
え?先生固まっちゃったけど、大丈夫かしら…。
「お前、それ…」
やっぱり、いくらなんでもこの格好はマズイわよね。
うんうん。
「あのっ、やっぱりこういうのマズイですよね」
「いやそんなことはないぞ、しかし似合いすぎだな。いやぁ、これでうちのクラスが人気投票一番になるのは間違いないだろう。これは、他の先生方も連れてこなきゃな」
「これは楽しみだ」とかなんとか言いながら、宮田先生はスキップでもしそうな勢いで職員室に帰っていった。
『なによっ』教師なんだから、こんな格好マズイとか言いなさいよ。
コスプレ喫茶の噂はあっという間に広がって、超陀の列ができるほど大盛況だった。
「ねえ君、河合さんって言うんだ可愛いね。後で、俺たちと遊ばない?」
あたしが担当したテーブルに座っていた2人の男性のうちの1人がそう言ってきた。
多分、雰囲気からして大学生くらいだろうか?
真っ黒に日焼けしていて、はだけたシャツの胸元からはクロスのペンダントが見える。
どう見ても、遊び人だろう。
「すみません。そういうお誘いには、応じられませんので」
にっこりと笑って、その場を後にする。
さっきから、何回こんな言葉をかけられただろうか。
いい加減、嫌になってくるわ。
はぁ…。
もう一生分、いやそれ以上の溜め息を吐いたような気がした。
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