My Angel
Story6


それからは別段何事もなく、平凡な高校生活を送る日々だった。
根津先生とも特にあれから関わることもなくて、ちょっと寂しいかも…なんて思っちゃったりして。
なんなのよね、これって。
話しかけられればうざったいって思ってるくせにそうじゃないとなんでって思うのはどうしてよ?

昼休みにお弁当を食べ終えて、仲のいい子たちと雑談に花を咲かせている時に別のグループでお弁当を食べていた由菜ちゃんがあたしを呼んだ。

「ねぇ、千春のこと呼んで欲しいって」
「うん?」

言われて出入口の方に目を向けると知らない男の子が立っていた。

「なんだろう?」
「あの人、1年の神田くんじゃない」
「神田くん?」

遙が驚いたような顔で、その神田くんという人の方を見つめている。

「千春、知らないの?神田くんと言えば、今年高等部に入学してきたサッカー部の期待の星じゃない。それにすっごくいい男だし」
「そうなの?」

そんなの知らないわよ。
だけど、サッカー部の期待の星でそんないい男がこのあたしになんの用?
あたしはあんまり待たせるのも悪いと思って、神田くんの側に行った。

「あっ、あの…」
「すみません、急に呼び出したりして」

「ちょっと話しても、いいですか?」と言われ、あたしは彼の後について中庭に出た。

「まだ、名前名乗ってなかったですよね。僕は、1年A組の神田 大海って言います」

少し照れたように言う神田くんは、あたしが見上げなければ話ができないくらい背が高い。
あたしが160cmとそんなに高くも低くもないから、それって相当大きいってことよね。
それに、遙が言っていたようにかなりカッコいい。

「河合さんのことを見て、一目惚れしました。だから、良かったら付き合ってくれませんか?」
「ほぇ?」

神田くんはあんまりにも意外なことを口にするものだから、あたしは変な声を出しちゃったわよ。
でも、今…付き合ってくれとかなんとか言わなかった?

「ダメですか?」

いや、ダメですか?って言われても…。

「もう、付き合ってる人がいるとか?」

それは絶対にないって言い切れるから、あたしは思いっきり首を横に振った。

「今すぐに返事をして欲しいわけじゃないんで、少し考えてみてくれませんか?」
「そんなこと言われても…困る。だって、あたしは神田くんのこと知らないし」
「それは、僕も同じです。でも、付き合ってからでないとわからないこともあると思いませんか?それとも、誰か好きな人とかいるんですか?」
「それは…そんな人、いないけど」

あたしはこんなふうに告白されるのは、今回が初めてだった。
自分のことは決して可愛いとは思わないし、勉強だって中の上くらいと特別できる方でもない。
そりゃあうちの学校は結構レベルが高いけど、親はあたしの性格をよく知ってるから初等部で成翔に入学させた。
入学さえしてしまえば余程のことがない限り、大学まではそのまま進学できるから。
うちの学校は勉強だけでなくスポーツにも力を入れているからそれなりにどの種目も大会では優秀な成績を修めているが、あくまでも学力重視、スポーツ推薦のある学校と違ってそれだけで入学できるというものではないのだ。
それに高等部ではほんのわずかしか募集しないから、狭き門をくぐって入学してきた神田くんはきっと優秀に違いないだろう。
そして、こんなにかっこいいのだから。

「だったら」
「どうして、あたしなの?神田くんなら年上のあたしより同じ学年とかにもっと可愛い子が、すぐにでも彼女になってくれるでしょ?」
「河合さん、それ本気で言ってますか?」

本気もなにも、ないと思うんだけど…。

「僕、一目惚れしたって言いましたよね。河合さんは、すっごく可愛いと思います」

うわぁ、そんなこと真顔で言わないでよ。
自慢じゃないけど、あたしは可愛いなんて今まで一度だって言われたことはない。
まぁ、親や兄貴は家族ってことで、そういうことも言ってはくれるけど…。

「神田くん、目悪い?」
「全然、どうしてですか?」
「だって、あたし可愛くないし」
「あはは、河合さんって面白いですね。益々、気に入りました」

気に入られても困るっていうか、どうしてそこで気に入るかなぁ。
だけど、どうしよう―――。
付き合うなんてしたことないし、神田くんはいい人そうだけどよく知らない人だし。

「あのね。あたし、まだそういうの―――」

言いかけたところで、神田くんに遮られるように言葉を挟まれた。

「それなら、友達からっていうのはどうですか?」
「友達?」
「はい。このまま断られて、河合さんと話すこともできなくなるのは辛いですから」

友達かぁ。
それだったら、いいかな。

「わかった、じゃあ友達から」
「やった!ありがとうございます」

神田くんは、嬉しそうに微笑んだ。
そんな顔もやっぱりかっこよくて、他人事だけどこんな人が彼氏だったらいいかもなんて思ってしまう。
サッカーの練習があるからあまり話す機会もないかもしれないと取り敢えず携帯の番号を交換した。
ちょうど始業のベルが鳴って教室に戻ると遙が、興味津々って顔であたしを見てる。
でも授業が始まっちゃうから、さっきの神田くんとの話は帰りにすることにした。

「で、神田くんなんだって?」
「うん。付き合って欲しい、一目惚れしたって」
「やっぱり?千春よかったじゃない。もちろん、OKしたんでしょ?」

やっぱり?という遙の第一声が、気にかかったけど…。

「断ったんだけどね」
「どうしてよ」
「だって、神田くんのことよく知らないし」
「いいじゃない、付き合ってみれば。それで嫌なら、別れればいいんだし」

あっけらかんと言う遙にあたしは、なんと返していいかわからない。
嫌なら別れればってねぇ、それ聞いたら高見くん泣くよ。

「そういうわけには、いかないでしょ?」
「まったく、千春は固いんだから。で、断っちゃったの?」
「うん、それがね。だったら、友達からって」
「はぁ?」

「なにそれ」って、遙は呆れ顔だ。
だってしょうがないじゃない、断ろうにも相手からこんなふうに言われたらそう答えるしかないもの。

「まぁ、千春らしいけどね。だけど、千春すっごく可愛いのにどうして誰とも付き合わないの?」
「はぁ?」

それこそ、はぁ?って感じだわ。
どこの誰が、すっごく可愛いのよ。

「誰か、好きな人でもいるわけ?」
「そんな人、いないわよ」
「じゃあ、なんで?」
「なんでって言われても、付き合うなんてあたしにはまだ早いと思うし」

遙はどうして千春が誰とも付き合わないのか、不思議だった。
顔だってものすごく可愛いしスタイルも抜群で、ほとんどの男子が狙ってるのを知っていたから。
でも千春が告られたのはこれが初めてだったけど、それは男子の方によっぽどの自信がないと告ることができなかったからだった。

「もう、高校2年生なんだよ?恋の1つや2つしないで、どうするの?」

遙、顔怖いって…。
恋かぁ―――。
確かにね、もう高校生なんだし、そういうこともあっていいとは思うんだけど、なんでかな?
まだ、そんな気持ちになれないんだもん。

その日の夜、早速神田くんから電話が掛かって来た。
なにを話していいかわからなかったけど、神田くんはサッカーやクラスのこととか色々話してくれて、そんな気持ちもどこかに消えてなくなっていた。


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