My Angel
Story8


そして、土曜日。
遙とあたしは、学校のグラウンドに来ていた。
願っていたように雲ひとつない晴天だった。

「なんか、ドキドキするね」

あたしは自分のことのようになんだかドキドキしていたけど、それに比べて遙は至って冷静だ。

「親善試合なんだし、負けて元々よ。なんたって、相手は平山学院なんだもん。あっ、でも今年は神田くんがいるから大丈夫かもね」

そっか、神田くんはすごいって話だもんね。
副キャプテンでもある高見くんも、神田くんのことは一目置いていたって聞いてる。
もしかしたら、本当に勝てるかも。
益々、あたしの心臓はドキドキを早めていた。

選手が練習をしている中でふと目に入った人物は、『根津先生?』だった。
なんで、根津先生?!

「あれ?千春。根津先生が、サッカー部の副顧問やってたの知らなかった?」
「そうなの?」

聞くとこの春から根津先生は、サッカー部の副顧問になったらしい。
なんでも高校、大学とずっとサッカーをやっていて、かなりの名選手だったって。
あのなよっちぃ、根津先生がよ?サッカーなんてね。
なんか、想像つかないわ。

暫くして、試合が始まった。
相手はやっぱり強くて、何度もゴールを狙ってくる。
それをうちのキーパーが、かろうじて止めるって感じ。
神田くんもいいところまでいくんだけど、やっぱり相手もリサーチ済なのかガードが固くって、なかなか先に進めない。

「もう少し、なのにね」

遙の一言にあたしも同感する。
本当にもう少し、なのに…。
そんな時、相手校の選手が蹴ったボールが大きく反れてあたし達の方へ向かって飛んできた。

「千春!危ないっ」

その声も虚しく、あたしの膝に思いっきりボールがぶつかった。
勢いでその場に倒れ込んだあたしは、ただただ膝の痛みに眉間にしわを寄せて耐えていた。
周りに人だかりができて、試合は一時中断に。

「千春ちゃんっ、大丈夫?」

またも、聞き覚えのある声。
もうっ。
人前で千春ちゃんって、呼ばないでよ!
いたたた…って、今こんなこと言ってる場合じゃないんだけど。

「先…生」
「ちょっと、見せてくれる?」

根津先生は、あたしの膝に手を触れた。
その瞬間、チクっとした痛みが走る。

「痛いよね、ごめんね」

根津先生は監督の木下先生と話をしてから、みんなに大丈夫だと告げると試合を続行するように言う。
その言葉に安堵した選手達は、試合を始めた。
その中に神田くんの姿もあって、心配そうにこっちを見ている。
あたしは、大丈夫という返事を込めて微笑むと神田くんもそれに返すように微笑んでくれた。

「千春、大丈夫?」
「遙、大丈夫だよ」
「ほんと?もうびっくりしたよ」
「ごめんね、心配かけて」

あたしももう少し運動神経がよかったら、避けられてたんだろうけどね。

「千春ちゃん、一応念のために病院に行った方がいいと思うから」

そう言うと、またもや先生はあたしを抱き上げた。
もう恥ずかしいとかそういうことよりも、痛みの方が大きくてそんなことはどうでもよかった。

「先生」
「なんだい?」
「まさか、先生が病院に?」
「そうだけど」

いや、そうだけどってねぇ。
試合はどうするのよ、仮にも副顧問なんだし。

「試合は、どうするんですか?」
「千春ちゃんは、心配しなくてもいいよ。木村先生も、いるし」
「そういうわけにも」
「だいたい千春ちゃん、こんな足で1人で病院に行ける?」

そう言われると返す言葉もない。

「気にしなくても、いいから」

あたしは、素直に先生の言うことをきくことにした。

「先生、あたしも一緒に付いて行ってもいいですか?」
「永井さんは、あいつらを応援してやって。きっと、動揺してると思うから」

「先生の言う通り、後で連絡するから」ってあたしが言うと遙は、「わかった」と言って見送ってくれた。
先生は、あたしを抱いて駐車場まで行くと車の助手席にそっと座らせた。

「もう少しだから、我慢してね」
「はい」

先生の車に乗るのは2回目だけど、この前は熱でボーっとしてたからあんまり気にならなかったのが、今回はどうも落ち着かない。
先生の細いけどガッしりした手、ふと横顔を見るとすっと通った鼻筋、そしてなにより睫毛長〜い。
なんてあたしったら、なに見てるのよ。

「千春ちゃん。そんなに見つめられると僕もどうしていいかわからないんだけど」

信号で車が止まると先生は、あたしの方を向いてそう言った。

「えっ、ごめんなさい。そんなつもりじゃ…」

あたしは、慌てて俯いた。
もうっ、やだ。
先生、気付いてたの?
そんなあたしをニコニコしながら先生が見つめていたなんて、あたしは気付かなかった。


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