Actor2
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相変わらずワイドショーのトップを飾っていた大和と謎の女性。
それが自分だと思うと何とも複雑な心境ではあったが、実際のところ、かなり他人事ではあった。
そんな時だろうか、未来の携帯に一本の電話が入ったのは。
『ん?誰かしら』
登録されていない見知らぬ番号に首を傾げつつも、通話ボタンを押す。

『あの、こちらは遥さんの電話でよろしいでしょうか?』
「はい、そうですが」
『わたくし、共立エージェンシーの湊(みなと)と申します』

―――共立エージェンシーの湊さん、湊さん…。
あっ、あの人だ。
米澤さんが、褒めちぎってた。
すっかり忘れていたが、彼の名は湊 航一郎(みなとこういちろう)と言って、未来に打診していたCMの担当者。
そうだった。
あれっきり、米澤さんに任せたままで返事を先延ばしにしていたけど、自分も出演しなきゃならないかもしれないんだったわ。
その彼が直接、電話を掛けてくるということは…マズイ、とうとう本人に催促かもしれない。

『今、お話しても大丈夫でしょうか?』
「えぇ、どうぞ」

ちょうど、大和が撮影に入る映画の顔合わせが始まったところ、未来はその間待っているだけだったので空いてはいたが…。

『CMの件で、少しお話を』

あぁ、やっぱり…。

「今からですか?」
『どちらにいらっしゃいますか?近くでしたら、伺いますが』
「世田谷の撮影所なんですけど」
『なら、そうですね。10分くらいで着きますので』

―――まぁ、大和君もいないことだし、時間も空いてるし。
しかし、肝心な米澤さんもいないというのに、直に頼まれたら嫌と言えなくなってしまう…。
仕方なく「はい」と言って電話を切った未来だったが、彼がこちらへ向かっている間、自分のことより、どんなにいい男だったのかを一生懸命思い浮かべていた。



「すみません。お忙しいところ、お時間いただいて」
「こちらこそ、こんなところまで御足労をお掛けしました」

時間に性格なのだろうか?本当に10分で撮影所に到着した湊さんは、「そこで、いいですか?」と未来を撮影所内にあるカフェへと連れて行く。
あんまりジロジロ見るのは失礼だと思いつつも、つい彼に目がいってしまう未来。
―――はは〜ん、なるほど。
米澤さんが、うなっていたのもわかるような気がする。
並んで歩くと、まずその背の高さだけでも大和君と同じくらいあって、ほぼ同じスタイルだということ。
そして、年齢的にも落ち着いていて、まさしく米澤さん好み!!

二人が足を向けた軽食などもいただけるこのカフェはなかなかの評判で、未来だけでなく配達もしてくれるところから大和もよく利用するお気に入り。
しかし、彼氏以外の若い男性とこうして話をするのも、それが例え仕事とはいえ、どれくらいぶりだろう?なんて思ったりもして…。
窓際の4人席の角を挟んで座ると、この日はボカボカと暖かい陽気で未来はジンジャーエール、彼はアイスコーヒーを注文した。

「CMの件というのは、私がお返事をお待たせしているからですよね」
「それもありますが、実は当初予定していた俳優ではなく、私が受けることになりまして。そのご報告を」

―――またまた、やっぱり。
かわいそうに…米澤さんのもくろみに彼もハマってしまったということね。

「もちろん、米澤さんの方には先にご報告してありますが、なぜか私の方から直接、遥さんの方にお話して欲しいとのことでしたので」と話す湊さん。
てっきり、未来の出演交渉だと思ったが、相手が誰になってもそう変わりないのにご丁寧にそのことを言いに来た話口調からしても、きっと真面目な人なのだ。
しかし、米澤さんは彼ではないが、なぜ直接、未来のところへ…。
なんとなく、意図がわからないでもないけれど。

「そうですか」
「遥さんが私ではなく、初めに決まっていた俳優との共演が良かったのにと思われたら申し訳ないと思いまして」

頼んでいた飲み物が注がれたグラスが二人の前に置かれた。
喉がカラカラに渇いていた未来は、すぐにストローに手が伸びる。

「えっ、はぁ。どなたになっても…私としては、正直あまり受けたくないお仕事なもので…」
「私こそ、どうして?という感じなんですけど、スポンサーから言われると断りきれなくて」

彼の顔を見れば、事情はよくわかる。
一度決まった、それも俳優を素人に代えてまでとなれば、受けにくいところではあるが、スポンサーの意向には従うしかないのである。
クリームとガムシロップには手を付けず、ブラック派の彼はやっぱり、どことなく俳優の要素が漂っている気がした。

「吉原 大和さんにも、大変申し訳ないと思ってるんです」
「え?」

―――やだっ、バレてる?
この前のショーといい、そうよね。
湊さんは、前回のCMの女性と私が同一人物だという秘密を知っている数少ない人なわけだし。

「もし、吉原さんの承諾が必要でしたら私の方から、きちんとお話させていただきますので。是非、引き受けていただけないでしょうか」

湊さんから大和君にきちんと話してもらった方がいいのかどうか…。
非常に難しいところではあるが、せっかくなら未来みたいな素人より、有名女優さんと共演する方がいいのではないだろうか?

「だったら、私は逆に引き受けない方がいいのでは。素敵な女優さんと共演された方が、湊さんもいい経験になるかもしれませんし」
「いえっ、そんなことになったら益々」

人を外見で判断したらいけないが、彼は誰がどう見ても、そこそこ遊んでるふうに見えるし、なんたってあの米澤が認めた“いい男”なのだ。
それなのにこの真面目さは逆に意表をつかれて、いい意味で好感がもてる。
―――この人だったら、いいかも。
大和君も、彼の誠実さをわかってくれるに違いない。
あぁ、でも米澤さんのことだから、これを機にうちの事務所に引き抜いたりしないかしら?
そっちの方が心配かも。

「未来」
「あっ、大和君。ごめんなさい、もう顔合わせは終わっちゃった?」

急いで腕時計に目を向けると立ち上がる未来。

「いや、ちょっと休憩」

「どうも」と軽く挨拶する大和だったが、自分がいない間に未来は男と会っていたなんて…。
…誰だ?コイツ。
妙に重い空気が漂い始めていたが、未来が初めて大和に会った時の無愛想な態度を思い出して、何だかこんな時なのに笑みがこぼれてしまう。

「こちらは、共立エージェンシーの湊さん。今度、私が出るかもしれないCMの男性役に決まったの」
「えっ?CMって、あの俳優じゃないのかよ」

自分以外の男と未来が共演と聞いただけでも腹立たしいが、仕事に個人的感情を持ち込むわけにもいかず…。
だが、別の俳優が相手だとばかり思っていた大和、いつの間に。
何も話してくれなかった彼女にちらっと視線を向ける。

「それがね、米澤さんが湊さんの方がいいって」
「米澤さんが?」

『あの人の考えそうなことだな』と大和は思ったが、確かにあの俳優より目の前にいる男の方がずっといい。
共立エージェンシーといえば、前回二人のCMを作成した広告代理店、この人も未来同様、陰謀に巻き込まれた被害者の一人なんだろう。
それに未来はまだ、“かもしれない”と言っていたところをみると決めかねているようだし。

「吉原さんが、ここで“いい”と言って下されば、彼女もCMに出てくれると思うんです」

…ん?こいつ、俺達のことを知ってるのか。
知っているなら、ヘタなやつよりいいかもな。

「よし、じゃあ俺と飲み比べしよう。あんたが俺より先に酔いつぶれたらこの話はなかったことに。でも、俺が先に酔いつぶれたら未来のCM出演は許可する」
「ちょっとっ!!大和君、そんな勝手に」

―――もうっ、なんてことを言うのよ。
米澤さんに知れたら、大騒ぎになっちゃうじゃない。

「わかりました。絶対、負けませんよ?」
「臨むところだ」
「湊さんまで」

本気で、そんなくだらない勝負をするつもりなのだろうか…。
まさか、こんなことになるとは思わない未来は、どうしたものかと大きく溜め息を吐いた。


お名前提供:湊 航一郎(Kouichirou Minato) … mizukiさま

※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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