勝負?!は一週間後。
公平に勝敗を見極めるため、ジャッジに景ちゃんまで借り出して。
―――だいたい、そこに私の意志ってものはないわけ?
だからといって、自身がCMに出たいわけじゃない。
断れるものなら、そうしたいのは山山だけど…世の中にはその機会を待ち望んでいる人もいるというのに全く持って上手くいかないものだと思う。
「しっかし、あいつ。いい男だよな」
「あんまり、褒めたかぁないけど」と言いながら、大和は彼のことがなんだかんだいって気に入ったようだ。
でなければ、きっとあんな勝負をけしかけたりはしなかっただろう。
「あいつって、湊(みなと)さんのこと?」
「大人の余裕っつうか。あれは絶対、未来に気があるな」
「はぁ?どこをどうしたら、そういうわけのわからない結論に至るわけ?」
―――湊さんは、そんな人じゃないでしょ。
彼女だって既にいるのかも、あれだけの人だもの、いない方がおかしいわよ。
突拍子もない見解に呆れ顔の未来だったが、大和がそう思ったのは、彼があのはっきり言ってくだらない勝負を真っ向から受けて立ったことにある。
男として負けられないという気持ちが、心のどこかにあったからではないだろうか。
だから、何としてでも負けられない。
「俺がどんなに頑張ったって。あいつみたいな大人で、未来のことを守ってあげられるような男の方がいいんじゃないかなって」
いつだって、自信に満ち溢れている大和からは想像できない言葉かもしれないが、それだけ彼が大和にとって脅威に感じられたということ。
実際、未来が大和のことを年下だからとか、そんなふうに思うより、むしろ自分の方が年上だということの方が、ずっと胸の奥深くに存在していたことは確かである。
「年齢なんて関係ないでしょ?大和君、言ったじゃない。米澤さんの前で『俺が必ず守りますから』って。あれはウソだったの?」
「私、信じてたのにぃ」とワザと冗談っぽい言い方をしたのは、自分のことを大和に負担に思ってほしくなかったから。
それに心配しなくても、大和への気持ちが離れることは決してないのである。
「ウソなわけ…本気に決まってるだろう?俺以外に未来のことを守れるヤツは、世界中探したっていないんだから」
これでこそ、大和らしい。
「だったら、今のままでいいのよ。だからって、無理しないでよ?飲み比べなんて」
「わかってるって。だけど、あいつにだけは負けたくない」
「全く、負けず嫌いなんだから」
――あぁ、でも、勝っちゃったら勝っちゃったでCM出演を断る理由を探さなきゃいけないし、米澤さんや事務所に迷惑を掛けることになる。
負ければ、大和君のプライドが…。
引き分け…なんて、上手い具合にいかないものかしらねぇ。
+++
一週間なんてあっという間に過ぎ去り、いざ決戦。
しかし、なぜか、その場所が未来のマンションに…。
「未来の手料理ぃ」
「飲み比べなんでしょ?食べ比べじゃないんだから、期待しないでよ」
キッチンで、今夜のために腕を振るう未来。
「あいつに食べさせるのは、もったいない」とか、何とか言いながらも大和はいつになく楽しそうだ。
まるで、パーティーのようだが、そんな暢気なことを言っている場合ではない。
未来のCM出演が掛かっているのだから。
ピンポーン―――
ピンポーォン―――
「あっ、景ちゃんと麗ちゃんね」
「いいよ。俺が出るから」と大和が代わりにドアを開けると、二人の後ろに湊も一緒。
「いらっしゃい。どうしたの?突っ立ってないで、さぁ、どうぞ」
驚くのは無理もなく、あの国民的人気俳優が玄関先に出迎えてくれるなんぞ、絶対に味わえない。
「大和さん、こんばんは。未来さ〜ん、お邪魔しま〜す」
麗ちゃんはお土産にケーキなんか持って来て、まずこれが男性陣の口に入ることはないだろうけれど、優雅にデザートを食べていられればいいのだが…。
「こんばんは」
「よう。あんたも一緒だったのか」
不機嫌、極まりない大和。
かといって、ここで嬉しそうに出迎えるわけにもいかない。
「随分、余裕ですね」
「あったり前だろ。あんたになんか、絶対負けないからな」
ただならぬ空気に「まぁまぁ、二人とも。こんなところで火花を散らしてない。未来が美味いもん作ってくれてるんだろう?お酒は、楽しく飲まなきゃ。ほらほら」と大和と湊の背中を軽く押す景。
事情を聞いてはいるものの、一人の女性を巡って取り合う男の戦いとしか思えない。
…肝心の未来は、わかってないんだろうな。
「おぉっ、すごいな。美味そう」
1LDKのマンションだったが、リビングに置かれたテーブルには所狭しと美味しそうな未来の手料理が並ぶ。
景がここに来るのは初めてだったが、手料理は以前、大和のために用意した薬膳中華を食べたことがある。
今夜は飲むことを前提に和食中心だったが、これだけ作れればすぐにでもお嫁に行けるに違いない。
「いらっしゃい。いっぱい食べてね。たくさん作ったから。」
「冷蔵庫の中を全部占領されちゃったから、食材も入れられなくって大変だったの」勝負はビールということで、冷蔵庫の中は缶ビールでいっぱいだ。
一体、どれだけ飲むつもりなのか…。
「本当にすごいですね」
「羨ましいだろ。まっ、今夜だけはあんたにも食わせてやるけどさ」
圧巻の料理に目を見張る湊だったが、それよりもテレビで見ているクールな印象とは全然違う、子供っぽいやんちゃなところもあったり、大和の素顔に触れたことの方がずっと大きい。
一途に一人の女性を想う、知れば知るほど魅力的な男だと湊は思った。
「二人とも、ちゃんと食べてから飲んでね。体に悪いから」
「「は〜い」」
「よろしい」とこれじゃあ、未来はお母さんだ。
ほとんど出来上がっていたが、麗ちゃんにも手伝ってもらい、準備は完了。
景の宣言により、いよいよ勝負は始まった。
「え〜それでは。大和君と湊さんの飲み比べ大会を始めます。勝負は酔いつぶれた方が負け。両者とも、いいですね?」
二人は真剣な表情で頷くとずらりと並んだビールの缶の一つを手にし、同時にプルタブを引く。
缶と缶がぶつかって、あっという間に飲み終えてしまう。
そして、次の缶に手を伸ばした時。
「ストップ!!はい。二人とも、そこまで」
「あ?何だよ、未来」
「せっかく作ったんだから、食べて」
「飲まなきゃ、勝負になんないだろう?」
「いいから」
不満顔の大和だが、確かに未来が作ってくれた料理を食べずして飲むわけにはいかない。
勢いで一気にと思ったが、ここは仕方がない。
「わかったよ」
素直に言うことを聞くあたり、可愛いなと。
「湊さんも、遠慮なさらずにたくさん食べて下さいね」
「はぁ。では、お言葉に甘えて。いただきます」
微妙に違う方向にいっているような気もするが、これも未来の狙いなのだろうか?
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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