Actor2
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「未来さん、これ美味しいですぅ」
「ほんと?麗ちゃん、ありがとう」

「これはね。すっごく簡単に作れるの」とレシピ談義に花を咲かせている女性陣二人。
そして、火花を散らした男の熱い飲み比べも、いつの間にか飲むことを忘れて食べることに夢中になっていた。
これも彼女の思惑なのか、果たして…。

「湊さん。ぶっちゃけ、酒は飲める方なのか?」

特に探りを入れているわけではないが、この場の雰囲気から大和もただがむしゃらに飲むだけでなく、もっと突っ込んだ話をしてみたくなったから.

「僕ですか?弱い方ではないと思いますが、実を言うとハメを外すほど飲んだことがないんですよ。だから、本気で酔ったらどうなるか、今日は自分の限界を知るいい機会かなと思いまして」

見るからに好青年の湊はお酒に関してもスマートな飲み方しかしていなかったのだろう、学生時代も周りを介抱する役回りだったし、社会人になってからは接待で飲む以外にこんなふうに誘われたこともなかったのだ。

「そういう吉原さんは、どうなんですか?」
「俺?景さんとはよく行くけど。基本的にはあんたと同じで、次の日の仕事に差し支えるし、うるさいマネージャーも付いてるしな」

―――なんですって?
『うるさい』という言葉に瞬時に反応した未来。
私、そんなこと、ひと言も言ったことないじゃない。
突き刺さるような視線で反撃するが、大和にあっさり甘い笑顔で返された。

「高校生でスカウトされたから、事務所もそういうところはめちゃめちゃ厳しくてさ。大学行けばサークルやら合コンなんか楽しみにしてたんだけど、実際自由に外にも出れなくて酒が飲める!!と思った矢先、2年で中退したし」

高校生でスカウトされて以来、常に注目を浴びる存在だった大和。
成績も優秀で名門と言われる大学にも一般受験で入学したものの、ほとんど講義に顔を出すことができなかった。
サークルや合コンには憧れがあったのにその夢も叶わず仕舞い。
お酒も大人の中で社交辞令的なものでしかなかった大和にとっては、楽しんで飲むというよりは仕事の一環でしかなかったのかもしれない。
打ち上げなどで飲む時も陽気になる程度、だから勝負に勝てる自信など実はなかった。

「へぇ。じゃあ、お二人さんは記憶をなくしたりなんかしたことないんだ」

二人の会話を聞いていた景。
多分、この中で一番お酒に強いのは自分だと確信を持ったのは、昔、散々飲んだ経験があったから。

「私は、あるわよ」

3人の会話に割って入ったのは未来だったが、記憶をなくすほど飲んだ経験があったとは…。
まだまだ、彼女の知らない一面があるのだろうか。

「私も!!」

「目が覚めたら、知らない人の家で寝てたなんて」と平然と爆弾発言をする麗ちゃんに開いた口が塞がらない景。
…なんだと?知らない人の家って…まさか、男じゃないだろうなぁ。
そこへ未来も「私もそうなの」なんて同意しているものだから、さぁ大変。

「あ…?ちょっと待て。お二人さん、女の子が一体どういう飲み方してるんだ。っていうか、知らない人って男じゃないだろうな」
「さぁ、どうだったかしら」

「学生の頃だから、もう覚えてないわよ」しれっと言いのける未来に呆れ顔の大和…。
…おいおい、そういうことはしっかり覚えておいてくれないと、それに例えあったとしても簡単に言わないでくれよ。
麗ちゃんまでもそうだっていうことは、案外、今時の女子大生にとっちゃ普通のことだったりするのだろうか?

「だから、私も負けないわよ」
「え?」

…『負けないわよ』って。

「さぁ、これからが本番。誰が一番強いか、勝負しましょう」

ビールの缶を手に一気に飲み干す未来。
今まで付き合ってきて、こんな彼女を見たのは初めてだったが、これはこれでまた違った意味で楽しいかもしれない。

「よっしゃ!!じゃあ、みんなで飲み比べだ」

「大和君まで調子に乗らないでくれよ」と消極的だった景も、嬉しそうに「私も今日は飲んじゃいます」と麗ちゃんが言うものだから、今夜だけはまぁいっか。

「俺も負けないぞ」
「では、僕も」

未来にCM出演してもらうためには、絶対に負けられない湊。
この一見、無謀にも思える飲み比べ大会に5人は童心に返った様に我を忘れて夢中になっていた。

+++

「未来ちゃん、ありがとう。CM出演をOKしてくれて」

思ったよりあっさり出演を承諾してくれた未来に米澤は疑問を感じつつも、何があったかは特別詮索することなく結果オーライということで納得していた。
しいて言えば、大和が快く受け入れてくれたことが少々気になるところではあったけれど…。

「それなんですけど、一つお願いがあるんです」
「お願い?」

「何かしら」と首を傾げる米澤。

「誰かわからないようにして、大和君も出演させて欲しいんです。ほんの一瞬でいいので」
「大和君を?」

大和が、未来と素人とはいえ男性がCM出演することに二つ返事で賛成するとは思えなかったが、そこに彼も出演させるというのはどうなのか。
スポンサーの意向もあるしだろうし、米澤個人の見解としてはとてもおもしろい発想ではあると思うけれど。

「大和君が、そう言ったの?」
「いえ、これは私の希望です」

「無理を言っているのは、わかっているんですけど」と未来自身も我がままを言っているのは承知の上で、敢えてお願いしているのだ。
飲み比べの結果はというと最後は全員酔いつぶれてしまい、目が覚めたらヒドイ二日酔いに悩まされただけ、結局、誰が一番強かったのかというのはわからず仕舞い。
そこでどうしたものかと全員で話し合った結論が、CMには出演する方向で、でも未来の意向で湊だけでなく、大和にもわからない程度に出演してもらうというもの。
彼もそれならと言ってくれたのと、もちろん衣装担当は景を推薦するつもりだ。

「スポンサーさんにも聞いてみるけど、私個人としてはおもしろいと思うわ」
「是非、お願いします」
「大和君も、それなら安心だものね」
「えっ」

「いい男、二人に囲まれる未来ちゃんが羨ましいわ」と米澤は羨望の眼差しで未来を見つめていたが、もしこれが実現すれば今回のCMも大当たりするに違いない、そう確信するのだった。


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