ワゴン一杯に見たこともないような南国のフルーツや、特別に作られた美味しそうなデザートの数々。
これは全部、未来のために用意されたものだったが、実はスィーツ男子だった大和が密かに楽しみにしていたもの。
ダイニングテーブルからソファーへと移動した二人。
突然、暗くなった部屋の中でパティシエがらせん状に切ったオレンジの皮にフランベしたアルコールが伝っていくと、何とも言えない幻想的な青い炎。
「わぁっ、綺麗」
思わず、未来が感嘆の声を上げた。
窓ガラスに映し出された夜景をバックに興奮の度合いは一気に高まっていく。
一通りデザートをローテーブルの上にセッティングし終わると、照明を落とした部屋の中でこれからはいよいよ大和の出番である。
「未来は何もしないで。俺が食べさせてあげるから」
「え?」
───食べさせるって…。
一体、何をもくろんでいるのやら。
考える間もなく、大和に差し出されたスプーンの上にはパティシエ自慢のキャラメルソースが掛かったクレープとバニラアイス。
───あぁ、もうこの誘惑には勝てないわ。
目を鼻を刺激する甘い誘惑。
抱かれたい男No.1だけでなく、名実共にトップを行く俳優の吉原 大和にデザートを食べさせてもらえる女性はこの世界でたった一人しかいないだろう。
こんなことをしたら罰が当たるんじゃないかと思うが、唯一神様から許されている未来には存分にゆっくり堪能する権利がある。
「はい、あ〜んして」
「何だか、恥ずかしい」
「いいから」
「ほら、あ〜んして」と言われて誰も見ていないのをいいことに勇気を出して口を開くと、魅惑のデザートが一瞬にして未来の全身を駆け巡る。
───やだぁ、もうっ。
すっごく、美味しいんですけどっ。
「すっごく、おいひぃ」
その表情を見ただけで、未来のことを即行いただきたい衝動に駆られている大和。
そこを何とか堪えてホスト役に徹するが、本心はかなりヤバイ。
…くそっ、この場で今すぐ押し倒してぇ。
計画の上ではお風呂をじっくり二人で味わって、その後、ベッドで過ごす甘い夜だったのだが、そこまで持つかどうか。
「今度は大和君に。はい、あ〜んして」
酔っているからなのか、未来のテンションはヤケに高い。
この場の雰囲気もあっただろう、普段なら絶対こんなことはしないはずなのだが、未来はキャラメルソースが掛かったクレープとバニラアイスの乗ったスプーンを大和の口元に差し出した。
「すごく美味しいのに私ばっかり食べたら、もったいないでしょ?。大和君、甘いの好きだし」
「じゃあ、遠慮なく」
「いただきます」とパクっとスプーンごと口の中に咥えてしまった大和。
コンビニのスィーツもまんざらではないと思っていたが、そんなものは比にならない美味しさに加え、愛しい彼女が食べさせてくれる至福の瞬間となれば、これ以上のことはあり得ない。
「美味しいでしょ?」
「うん、でもこっちの方がもっと美味しいと思うんだ」
「きっと」と大和は狙いを定めて未来の唇を奪う。
甘さと柔らかさを持った彼女の唇はどんなデザートにも勝るとも劣らない、大和にとってこれ以上のものはこの世に存在しない。
「っん、大和君…まだ…」
「ダメだ。もう、我慢できない」
今夜はカッコよく決めるはずだったが、やっぱり恋するただの男だったということだろうか。
景のデザインセンスの良さは誰よりも認めているつもりでも、返って大和には逆効果だったかもしれない。
彼女をソファーに押し倒すと、ゆっくりと唇を重ねて深く堪能すると自然に大和の首に回された腕。
時折漏れるくぐもった声に下半身はあっという間に反応してしまう。
そのまま、一つに融け合うことは簡単だったが、自身の欲望だけで満たされるのではなく、お互いが至福の時を味わうためにはここでダメなのだ。
「ここじゃダメだ。ベッドに行こう」
大和は未来を抱き上げると、彼女のために飾られた色とりどりの薔薇の花で埋め尽くされたのベッドの端に腰掛けさせた。
「大和君、これ」
「本当は、ベッドルームにはもう少しロマンティックに連れて来るはずだったんだけどな」
彼にとっては予定が狂ってしまったことがちょっと不満だったのだろうが、既にこれまでのことを思い出しても未来には十分過ぎるくらいだ。
はしゃぎながら薔薇の花を両手ですくっては宙に投げる。
こんなところもすかさず画像に収めるあたり、さすがというより用意周到過ぎる気が…。
「わーすごい。新婚さんみたい」
薔薇のいい香りに包まれて思わず口走ってしまったが、自分で言っておきながら赤面している未来。
K’s-1のファッションショーでもウエディングドレスを着たことがあるし、今回だって彼が色々考えてくれたこと。
なのについ、錯覚してしまう。
「その時は、もっと未来が喜ぶようなことを考えるって」
「その時?」
「そっ、その時ね」と意味深な言葉を言い残し、大和はタキシードのジャケットを脱ぎ捨て横たえた未来の上に覆いかぶさると、本能に駆られた獣のように彼女の柔らかくて甘い唇をただ夢中で貪り尽くす。
息もできないほどに。
彼女のドレープになっている背中が大きく開いたドレスの下には膨らみを覆うものはなく、これはデザイン上だけでない大和の密かなお楽しみではあったが、肩の布をほんの少しずらすだけで呆気なくピンク色の薔薇の蕾が露になった。
下半身に纏わり付いたドレスが、まるでミロのヴィーナスのようにも見える。
…いや、それ以上に綺麗だけどっ。
さすがに画像に収められない分、大和自身のレンズで彼女を捕らえるとしっかりと脳裏に焼き付けた。
「じっと見ないで」
「何で?」
「何でってっ」
───真面目に聞き返さないでよっ。
いくら目で訴えたところで、大和は嬉しそうに微笑むだけ。
悔しいけど、そんな彼に見惚れてしまう。
せっかく二人のために作ってくれた景には悪いが無造作に着ていた服を脱ぎ捨てると、一糸纏わぬ姿でお互いの体温を感じあう。
ずっと、このまま時間が止まればいい。
彼女を自分の側に一生縛り付けておきたい。
そして、今度こそ一つに融け合った時、大和の中でそれが確信に変わる。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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