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映画Shadow city、麻薬取締法違反容疑で逮捕された女優Sの代役に新人はるかの起用決定!!

スポーツ紙の一面を飾ったのは女優Sが逮捕されたことよりも、映画Shadow cityで演じるはずだった彼女の役を誰が代わってやるのかという方にすっかり摩り替わっていた。
そして、新人はるかとは。
S企画の前には報道陣が詰め掛けて大変な騒ぎになっていたのだが、社長をはじめ米澤は顔が緩みっぱなしだった。
これだけ注目が集まるとは思わなかったが、今や伝説にまでなっている『恋の魔法』のCMに出演していた女性となれば否応なしにも気を引くのは確か。
K’s-1のファッションショーにも登場したが、名前も一切謎のまま。
いよいよ神秘のベールを脱ぐかとなれば、我先にと取材陣が押し寄せるのも頷ける。
大和からもらった電話で姓とも名とも取れる“はるか”に米澤が即OKを出し、監督の許可を取って新聞に載せたスピードはさすがと言っていいかもしれない。
悪いイメージを一瞬にして拭い去っただけでなく、話題性で一気に盛り上げる。
これで、年間興行収入1位は間違いないだろう。

「米澤さん、私はまだ承諾した覚えは…」

「それに27歳で新人って…老けてませんか?」大和はおもしろがっているとしか思えないし、勝手に“はるか”なんて名前まで付けられて。
これから、どうすればいいのよ…。
こんな大騒ぎになっちゃって。

「もう、後には引けないわね」

未来の結論を待っていたら、この映画はとっくに終わってる。
女優になるならないは別として、長年この業界に携わってきた米澤がいつも頭に置いているのはチャンスを逃して欲しくないだけ。
監督だけでなく、誰もが彼女にその才能を感じているからに他ならない。

「仕向けましたね」

呆気なく、米澤の罠にハマってしまった。

「言っちゃなんだけど、女優のSより未来ちゃんの方がずっといいもの持ってるもの。CMをやってみてわかってると思うけど、役を演じるのそんなに嫌じゃないでしょ?」
「好きでもないですけど」

大勢のスタッフに囲まれて瞬き一つ、それこそ息遣いに至るまで一部始終を見つめられるなんて、逆の立場に長くいた自分はとてもじゃないが心の奥底まで透視されるような現場で耐えられる心臓は持っていない。
そこで、誰をも魅了するような演技を要求されても応える自信が未来にはなかった。

「私達はプロなの。遊びや道楽でやってるわけじゃないことくらい、わかってるわよね?おもしろ半分に未来ちゃんに代役をさせようなんて、これっぽっちも思ってないことだけは理解してね」

米澤自身もこの仕事に自信と誇りを持っているし、未来を起用したことによって損失が出れば辞表を書いたくらいでは済まされない。
ただ、今まで培ってきた自分の目と直感は誰にも譲れない確固たる信念だ、必ず未来は素晴らしい演技を見せてくれる。
これは、米澤の一世一代の賭けでもあったのだから。

「大丈夫、大和君も付いてるんだもの。しいて言うなら、彼が役を忘れてしまわないかってことだけ?」

「二人が付き合ってることが知られるのは、まだ早いから」米澤もそれだけは避けたかった。
あくまでも謎は謎のまま、大和にはよ〜く釘を刺しておかないとっ。

+++

未来が半ば強制的に映画に出演することが決まり、クランクアップするまでの間は大和のマネージャーとして付くことはできなくなってしまったということ。
ミステリアスな女優“はるか”への取材は過熱する一方、益々一緒にいられる時間が減ることになり大和の思惑は大きく外れつつあったが、ある人物が間に入ることによって丸く納まることになりそうだ。

「えっ、米澤さんが二人のマネージャーになるんですか?」
「あら、嫌なの。未来ちゃん」
「いえ、そういうわけじゃ」

慕ってくれているとばかり思っていたのは米澤だけだったのだろうか。
未来の反応になんだか寂しい気持ちになってくる。

「だって、米澤さんにはもっと大事な仕事があるわけですし」
「他にいる?」
「そりゃ、いませんけど…」

未来が急に女優業なんぞに手を広げることになったものだから、確かにこの状況ですぐにマネージャーをやれる人を探すのは難しいだろう。
とはいっても、米澤にはもっと大事な仕事があるわけで、つきっきりで二人の世話をすることなんて無理なのではないか。

「大和君と未来ちゃんのことを知ってるのは私だけだし、二人の逢瀬に協力できるのだって他にいないじゃない。ありがたく思ってくれなきゃ」

逢瀬って…。
いつの時代の言葉?
もしかして、大和君が頼んだんじゃないでしょうねぇ。

「まさか、大和君に頼まれたんじゃ」
「あのなぁ、何でも俺が悪者かよ」

横で黙って聞いていた大和も、さすがに未来の発言には我慢ならなかったよう。
米澤は大和には甘いところがあったし、何かよからぬことを裏でたくらんでいるのではないかと未来でなくても思ってしまうのは仕方のないことなのに

「だって」
「二人とも喧嘩しないの」

米澤が大和と未来のマネージャーを引き受けようと思ったのには、もう一つ大事なことがあったからだ。

「実はね。恥ずかしいんだけど、出来ちゃって」

「もうやだぁ。恥ずかしい」言い終わるや否や顔を手で覆ってしまった米澤はとても40過ぎとは思えない可愛らしさがあった。

「出来ちゃってって…えぇっ、米澤さん。そうなんですか?」

爆弾発言に開いた口が塞がらず一瞬、固まってしまった大和と未来だったが、なんだか以前と違う雰囲気が漂っているとは思っていたものの、未来はあの日『もう一人、どうですか?』『まだまだ、いけますって。女の子もいいじゃないですか』と話したことを思い出した。
本人は『はぁ?この歳でぇ?やめてよ、それこそ恥ずかしくて会社どころか人前に出られないわよ』なんて言っていたが、いよいよ現実に近付いたということになる。

「おめでとうございます。もしかして、あの日だったり?」

そうだったら嬉しいなという思いを込めて聞いた大和、どうやら図星だったようだ。

「ありがとう。そうみたいなの、大和君に招待してもらったあの夜だと思うのよね」
「米澤さん、そんな体でマネージャーなんて無理ですって」
「産休に入る前の仕事にしたいのよ。それにマネージャーやるの久し振りだし、二人なら安心していられるでしょ?何かあったら、その時は助けてね」

この年で授かるとは思っていなかったが、これも大和があの素敵な夜を企画してくれたから。
旦那に話した時のあの嬉しそうな顔は一生忘れられないだろう。
まぁ、息子は少々微妙だったみたいだが。

「はい。任せて下さい」
「そんな調子のいいこと言って。大和君、迷惑掛けないでね」
「何で、俺がっ」
「ほらほら、二人とも大人になりなさい」

「は〜い」気のない返事を返す大和と未来。

「あなた達も、早く子供を作りなさい?」

真っ赤になった未来を他所に今度は絶対女の子よ!!米澤はそう問い掛けるようにお腹にそっと手をあてた。


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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