バカンス後、新生、吉原 大和(よしはら やまと)がリリースした最新アルバムも初登場1位を獲得し、彼の実力はやっぱり本物だった。
今回は彼の声と奏でるギターを強調するスタイルを取ったのが、これまた世の女性達だけでなく、同性をもハートをがっちり掴んだよう。
「今度のアルバムも売れに売れてるわね。このままいけば、ミリオンどころか、ダブルミリオン、トリプルミリオンも夢じゃないかも」
今日はオフということもあって大和のマンションに来ていた未来(みく)は、ラグにペタンと座ってノートパソコンに向かいながら大和の隣で少々興奮気味な様子でチャート結果に見入っている。
休みの日までと思っても、気になってしまうのは職業病と言っていいが、彼はやはり、只者ではなかったということだろう。
―――きっと、年齢を重ねる毎に渋さが増して、いい男になっていくんだろうな。
「トリプルミリオン取ったら、未来から何かお祝いしてくれるのか?」
こんなお子様なことを言っているようでは、渋い男になるまで、まだまだ遠いかもしれない。
―――何のお祝いよ…。
そうなったらお祝いしてあげたいけど、要望を丸々聞いたらどうなるかわからない。
大和君のことだから、何かよからぬ言を考えていそうで怖いんだもん。
「おめでとうって、お祝いの言葉を言ってあげるわよ?」
「言葉だけじゃなくって」
「そうそう。次回のドラマが決まったの!!大河よ、大河ドラマ」
「はぁ?時代劇ぃ?!」
…この俺が、時代劇かよっ。
仕事だから嫌とは言えないが、あのズラは勘弁して欲しいっつうの。
それも、大河って一年とかやるんだろ?
いつかはそういう話も来るかもと覚悟はしていたものの、こんな早い時期に来てしまうとは。
で、役柄は誰なんだよ。
「秀吉、天下を取った男」
「猿かよ…」
信長からは「猿」とか「禿げ鼠」と呼ばれていた秀吉。
…どうせなら男前の武将にして欲しかったよな、織田 信長とか伊達 政宗とかさ。
っていうか、俺がやったら歴史的に見ても、合わないんじゃないのか?
「あら、いいじゃない。猿でも何でも」
「良くないっつうの」
「この役は大和君以外、考えられないって、テレビ局側の人が言ってるのよ?これは引き受けるしかないでしょ」
米澤から聞いた話でも、未来が彼の担当になる前に時代劇をやったことは一度もなかったと言っていた。
初挑戦だということと国民的に注目を集めるドラマの主演となれば、すんなり受け入れられない気持ちもわからなくもないが…。
「断るつもりはないけどさ、一年だろ?これだけに打ち込まなきゃならないってことは、他のやりたいことができなくなるってことじゃんか」
最新のアルバムには、大和のある決意が込められていた。
未来に出逢ったおかげで気付いたこと。
景に語った『ギター一本で歌うってことを。飾らない方がいい場合もあるのかなって。将来、叶うなら一人で小さな会場を回ってみたいっていう夢を持ったんです』という言葉を思い出し、それを今度こそ実現させたかったから。
「まだ、撮影開始までに一年あるんだから、その間にやりたいこと全部やっちゃいましょ。米澤さんとも相談して大和君の希望を優先してスケジュールを組むようにするから」
「それなら」
渋々という表情の大和だが、これを話したらどういう反応を示すだろう?
「ちょっと困ってるのは、私も出演者候補の中に名前に上がってるのよね」
「えっ、未来もか?」
「ちょっとCMやったくらいで、こんな大層な時代劇に出演するなんてねぇ。両親やおじいちゃん、おばあちゃんは喜ぶと思うんだけど」
実を言うと、この大河ドラマの出演だけでなく、またもやCM第二弾のオファーが、それも大和を差し置いて未来に来ていたのだ。
自分は吉原 大和のマネージャーであって、女優でも何でもない。
それなのにどうしてこういう依頼が来るのかさっぱりわからないが、それで事務所に貢献できるならやるしかないのかもしれない。
しかし、そのことによって、彼に対するマネージャーとしての仕事が疎かになってしまっては元も子もないのである。
「いいじゃんか、出ちゃえば。でも、俺の妻のねね役でなきゃ許可できないな」
「そういう問題じゃないでしょ。これは、私だけじゃ決められない問題だから、事務所の方で考えてくれると思うけど」
雇われの身だから、事務所が決めたことなら逆らえない。
彼の担当になったことで、こんなふうに自分の人生が変わってしまうなんて…。
「苦しゅうない、近う寄れ」
「ほら、パソコンなんか見てないで、こっち来いって」と大和は未来の腰に腕を回すと自分の方へ抱き寄せる。
「は?何よ、いきなり。時代劇ぃ?!とか、さっきまで言ってたクセにぃ」
「これ、結構いいかも。病み付きになりそうだ」
「ならなくって、いいわよ」
―――どうしよう…。
撮影中もずっとこんな調子でいられたら、たまったもんじゃないわよ。
「そなたは、美しいのう」
大和の熱い吐息がうなじに触れるだけで、全身がゾクゾクしてくる。
戦国時代に生きた秀吉も、こんなふうに女性を愛して…。
―――って、そんなことを想像してる場合じゃないの。
「あぁっーもう、やめてぇ」
「いつもより、燃える?」
「燃えるわけないでしょ。変なことばっかり」
エスカレートした大和の手がカットソーの中に入って来て、膨らみに触れる。
―――もうっ、昼間っから何やってんのよぉ。
彼の腕の中で、もがいていながら強く振り解けない自分がもどかしい。
「着物姿だったら、尚いいかな。八丈島の時みたいに」
バシっ
「痛ってぇ。思いっきり、頭をぶつことないだろ?着物を脱がすのは、男のロマンなんだから」
「大和君が、さっきからわけのわからないことばっかり言うからっ」
「未来がねね役だったら、こういうシーンもあったりするんだろうな」
ゆっくりと大和は未来をラグの上に横たえるのと同時に唇を重ね合った。
柔らかいその感触は、何度味わってもあっという間に彼の奥底の熱いものに火を点けてしまう。
そんな大和の首にそっと腕を回して応える未来。
「秀吉なら、側室もたくさんいたんじゃないの?」
「そうだろうな。でも、俺には未来だけだから安心して」
「ちょっとは、羨ましいとか思ってるでしょ」
…げっ。
いや、俺は絶対にそんなことは思ったりしてないぞ?
心の中で首を振る。
妙に突き刺さるような視線を感じるのは、気のせいだろうか。
「思うわけないだろ」
「嘘。一瞬、目が泳いでたわよ」
「あ?」
…最近、チェックが細かいんだよな。
まぁ、それだけ俺のことを愛してくれてるってことなんだろう。
そう思うことにたった今、決めたんだ。
「わしの心の中におるのは、そなただけじゃ。未来よ」
「一人でやってて」
―――こんな人じゃなかったはず、なんだけど…。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
誤字が多く、お見苦しい点お詫び申し上げます。お気付きの際はお手数ですが、下記ボタンよりご報告いただければ幸いです。
NEXT
BACK
INDEX
PERMANENT ROOM
TOP
Copyright(c)2006-2013 Jun Asahina,All rights reserved.