「礼っ、待ってっ」
探し求めていた愛しい相手から名前を呼ばれた礼は、急いで声の方へ振り返った。
「伊万里!」
伊万里は、我も忘れて礼の元へ軽け寄る。
もう自分には、彼しかいないのだから。
「礼、ごめんね。私…」
「良かった。どこに行ったのかと思ったよ。俺こそごめんな、あんな言い方して」
礼は、伊万里の存在を確かめるようにそっと抱きしめた。
それを受けるように伊万里も彼の背中に腕を回す。
二人はそのまま暫くの間、何も言わず抱き合ったままだったが、礼がそっと体を離すと伊万里の肩を抱くようにして自分達の部屋に戻った。
「私が悪いの。誤解を招くような軽率な行動を取ったりしたから」
「伊万里の言うことを信じることができなかった俺も悪いんだ」
お互い冷静になって話をすれば、こんなふうにすれ違うことはなかったのだろう。
「ちゃんと話すから、最後まで聞いてくれる?」
「あぁ」
寄り添うようにソファーに腰掛けると伊万里は、ゆっくり話し始めた。
「ジュリアンに連れて行かれたのは、彼の家だった。そこには彼のママが、ご馳走を作って待っていてくれたの。私、知らなかったからジュリアンのママに会えたのがすごく嬉しくて時間も忘れて話してたわ」
あの時は、ジュリアンの存在も忘れてしまうくらいママとの会話に夢中だった。
それでも、伊万里の頭の中には礼のことが離れなかったのは事実。
「名残惜しかったけど、明日は帰国しなければならないからとそこでママと別れたの。送ってもらう途中でジュリアンに少し話がしたいからって言われて、車を降りた。ジュリアンは、子供の頃の話をしてくれたわ。彼のママはル・フォール家の出身で前社長の妹だったんだけど、駆け落ち同然で家を出たこと。その後ジュリアンのお父様が亡くなって、でも家には戻れないそんな時に私と出会ったのね。だから名前が違ったの」
礼は、黙って伊万里の話に聞き入っていた。
「同じ頃に当時、セルフォンの社長だったジュリアンのお祖父様が亡くなって、ジュリアンとママを気に掛けていた伯父様が呼び寄せたんですって。伯父様には子供がなくて、ジュリアンを後継者にしたらしいの。今は、伯父様夫婦の養子になっていいるって言ってたわ」
「そうだったのか」
セルフォン社は代々家族経営で、特に表立ったスキャンダルなどは聞いていない。
しかし、裏にはこんな複雑な家庭事情があったのだなと礼は改めて思った。
「今はジュリアンもママも幸せに暮らしているようで、それだけは安心したんだけど…」
その後のジュリアンの自分への想いを聞いた時は、伊万里もどうしていいかわからなかったが…。
「ジュリアンね、私が初恋の人だったらしいの。そんな話初めて聞いたんだけど、いきなり言われて驚いたわ。離れ離れになっても、ずっと想っていたって…」
これには礼もなんと答えていいものか、わからない。
ジュリアンの伊万里に対する想いは、この時からあったのだと…。
「でも彼は、礼と私のことをちゃんとわかっていたわ」
「え?」
―――わかっていた?
「だから最後にって抱きしめられた。でも、ここははっきり言わせてもらうけど、キスはしていない。そういう雰囲気になったのは事実だからそれは私も認めるし、謝らなければならないんだけど、でもキスだけは絶対してはいけないと思ったの。だって、私には礼がいるんだもの」
もしも、礼が伊万里の立場だったら…。
多分、キスしていただろう。
伊万里を責めるどころか、自分はそれ以前の問題だ。
「私には、礼しかいないの。今、私が愛しているのは、誰でもない礼ただひとりだから」
「伊万里…」
礼は、伊万里の肩に回していた腕の力をより一層強めた。
自分は、どうして彼女の『信じて』という言葉を素直に受け入れられなかったのだろう?
こんなにも想ってくれているのに…。
「俺にも伊万里だけだから。大人気ないって言われてもしょうがないんだけど、ル・フォール社長に嫉妬してた。伊万里を持っていかれるんじゃないかって」
「そうなの?なんか嬉しい」
「え?かっこ悪いだろ」
「そんなことない。だって、礼ってそういうこと表に出さない人だったじゃない」
学生時代を知る伊万里は、礼があまり女性に対して自分の気持ちを表に出すようなことはなかった。
そのために別れるようなこともあったように思う。
「それは、伊万里以外の女性に対してだろう?俺は、伊万里が付き合ってる男にはいつも嫉妬の塊だったし」
伊万里は初めて知る事実だったが、かっこ悪いと自分で言う礼がやっぱり好きだし、そう思っていてくれたことが嬉しかった。
その意味を込めて、伊万里は礼に自らくちづける。
不意を食らった礼だったが、黙って伊万里にされるままに唇を預けた。
「そんな挑発的なことをされると俺、もう止められないぞ?」
「いいわよ」
「本当に?」
伊万里が頷いたのを確認すると礼は、彼女を抱き上げてベットに運ぶ。
自分のために選んだのだと言っていた淡い花柄のワンピースを身に纏った伊万里は、とても美しくてそれだけでも礼の気持ちは最高潮へ達していく。
「伊万里、愛してる」
礼は、伊万里の耳元でそう囁くように言うと深くくちづける…息もできないくらいに…。
今は、お互いの存在しか感じない。
伊万里の背中に手を回して、ワンピースのファスナーを最後まで下げると身体からゆっくりと引き抜く。
そして、ストラップレスのブラを外すと程よい大きさの胸が姿を現した。
さすが、ジムに通っているだけのことはあると礼は思う。
伊万里の身体は、無駄のない均整の取れたそれでいて女性らしさを失っていない。
つい、見惚れてしまうくらい綺麗だった。
「礼、そんなに見ないでよ」
「こんなに綺麗なんだ。仕方ないさ」
「恥ずかしいでしょ?私ばっかり」
何度となく身体を重ねてきたはずなのにこうやって恥ずかしがるところは、少しも変わらない。
まだ、スーツのジャケットも着たままだった礼は、ネクタイを外してワイシャツまでも脱ぎ去ると上半身裸になる。
少し日焼けしたその身体は、伊万里以上に鍛えたものだった。
「これでいいでしょうか?お姫様」
ワザとおチャラけるように言う礼だったが、もしもあのまま喧嘩別れするようなことになったら…。
伊万里の瞳から涙が溢れていた。
人前では絶対泣かない伊万里だったが、今だけはどうにも止めることができなかった。
「伊万里、どうしたんだ?何で泣くんだよ」
突然泣き出してしまった伊万里に礼は、どうしていいかわからない。
「ごめんね…泣いたりして」
「謝らなくていいから、涙の理由を教えてくれないか?」
「…うん…あのまま、礼と別れるようなことになったらって思ったら…私、どうしていいか…」
「もういい…何も言わなくて」
礼は、伊万里を強く抱きしめるとそれ以上何も言わなくていいのだという想いを込めてくちづける。
大切な彼女にこんな想いをさせて、泣かせるなんて…。
男として失格だ…。
「俺が、どれだけ伊万里を想っているか。この身体に刻み込んでやる、覚悟しろよ」
「覚悟って…っぁ…ん…やっ…」
伊万里の形のいい胸の突起を舌で転がしながら時折、甘噛みする。
そして、自分のモノだという印の赤い薔薇をいくつもその辺りに咲かせた。
『こんなにつけて!』って、後で言われるのはわかっていたが、今日だけは譲れない。
誰にも渡さない。
「もっと声を出して、伊万里の声が聞きたい」
「…なっ…っん…やぁ…」
腰のラインにそって手を下にずらしていって、大腿をゆっくりと撫でる。
ショーツ越しに中心に触れるとそこは、既にしっとりと濡れていた。
本当ならここは焦らすところだが、礼にもその余裕がない。
「…っあぁぁぁ…っん…やぁっ…」
一気に身体から抜き去り、秘部に指を入れて内面を掻き回すようにすると伊万里の口からは一層甘い声が漏れた。
「伊万里、俺のこと愛してるって言って」
「…んっ…れっ…い…愛して…るっ…」
礼は、その言葉を聞くと自分の身に纏っていたものを全て脱ぎ去り、そのまま伊万里を一気に貫いた。
子供ができてしまうかもという心配もあったが、それでも礼には構わない。
今は、伊万里との間にほんの少しの壁もあってはならなかったから。
「伊万里、もっと俺を感じて」
「…はぁ…っあぁぁ…礼っ…あぁぁぁ…」
激しく突き上げられて伊万里はすぐにイってしまったが、それから暫くして礼は彼女の中で自身を解き放った。
◇
礼は、まどろんでいる伊万里をしっかりと抱きしめて頬を撫でる。
既に涙の跡は消えていたが、あんなふうに泣かれるとは思ってもみなかった。
一刻も早く自分のモノにしなければ、身が持たない。
しかし、その前にセルフォンとのプロジェクトを成功させなければ…。
改めて思う礼だった。
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