「竜ちゃん、遅いっ!!」
「何分、待たせるのよ」と、相変わらず時間にルーズな兄の竜生(りゅうせい)に向かって怒りをぶつける我が妹の頭に角が生えて見えるのは気のせいだろうか?
…自分の妹ながら、可愛いのに怒ると怖いんだよな。
「ごめん、ごめん。嫁がなかなか、出掛けてくれなくて」
最愛の妻に贈るクリスマスプレゼントを選ぶために今日、妹と会うことは内緒の話だったから、彼女が運良く友達と出掛けてくれるというので、その後でこっそり出て来ようという計画が、そこは似たもの夫婦、やっぱり時間にはルーズだということだろう。
「お義姉ちゃんには、バレなかった?夫が浮気してるかも、なんて思われたら大変なんだから」
「大丈夫だろ。バレても妹だからな」
暢気な兄は、はははと笑いながら、妹の背中を押したが、ららと竜生が並んで歩いているのを見て、周りの人は二人をどういう関係だと思うだろうか?
似ているといえば似ているし、似ていないといえば似ていない。
この年齢になって兄妹で出掛けるというのはあまりないから、知らない人が見れば恋人同士に見えなくもないかも。
「で、プレゼントを何にするかは、決めてきたの?」
「全然」
「全然って…。もしかして、何も考えてないの?」
「いつものことだろう」と、平然と言う兄に呆れて言葉もみつからないが、その通りだから余計に始末に終えない。
そうなのだ、兄はお義姉ちゃんと付き合っている時から、誕生日とクリスマスのプレゼントにホワイトデーのお返しは妹に任せっきりだったのだ。
とはいっても、こうやって付き合ってあげる度に食事や欲しいものを買ってもらえたりするので美味しい話ではあったが、せっかくのプレゼントなのだからちゃんと自分で考えなければダメじゃない。
「ららが選んでくれたものは、嫁も喜んでくれるからな」
「なら、いいけど。でも、いつまでもって訳にもいかないんだからね?」
―――これから先もずっとなんて、それはそれで大変なんだからね?
「男か」
「は?どこから、そういう」
「いや、ほら。お前もいい歳だしさ、そういう男がいてもおかしくないだろ。休みの日まで兄貴に付き合わせてたら、彼氏にも悪いしな」
可愛くてしっかり者の妹は、恋愛に関しては臆病なところがあるのか、あまり男を寄せ付けないところがある。
付き合っても、思い切って胸に飛び込めない。
いや、妹を包み込む懐の大きな男が、今までいなかったということなのだろう。
「心配しなくても、そんな男性(ひと)いないから大丈夫だって」
「なんだ。また、今年も一人のクリスマスを過ごすのか?」
「いいんだって、私のことは。それより、お腹空いちゃった」
痛いところをつかれて、ららはワザと話題を逸らす。
「男より、食い気か…。その前にちゃんとプレゼント選んでくれよ?嫁が帰って来る前に俺は家に帰ってなきゃならないし、あんまりゆっくりもしていられないんだからな」
「はいはい」と、ららは兄の言葉を受け流すようにしてデパートの中に入って行った。
◇
「ねぇねぇ、こっちのピアスが可愛い。私の今日のワンピースにピッタリぃ」
「あのなぁ、お前の好みで選んでどうするんだ」
あっちこっちと見て周り、結局はお手頃で可愛い物が並ぶと評判のアクセサリーショップに落ち着いたが、ららはまるで自分の物を選んでいるかのごとく、ハイテンションだった。
―――だってぇ、誰も買ってくれる男性(ひと)がいないんだもん。
別に見るくらい、いいじゃない。
あぁ〜あ、やっぱり彼氏欲しいなぁ…。
そう言えば、竜ちゃんって白桐課長と同い年なのよね?
課長だったら、クリスマスプレゼントに何を選ぶんだろう。
竜ちゃんじゃ、絶〜対買えないような高価な外国の有名ジュエリーメーカーの物とかかなぁ。
それとも、ブランドバックとかかも。
それでもって、当日は豪華ホテルに泊まってディナーの後は、甘くて熱い夜を…。
かぁっー。
私ったら、なんてことをっ。
想像するのはタダだけど、課長の隣にいる女性は私じゃない。
タダでも、凹むわ…。
「ほら、お前のも買ってやるから、そんな顔するなよ」
「ほんとっ?やったぁ」
気遣ってくれた兄に悪いと思いながらも、単純なことで復活するらら。
『来年のことを言うと鬼が笑う』と言われたって、来年こそは素敵な彼氏を見つけるんだから。
1時間ほど、あれこれ探してようやっとプレゼントが決まった。
お義姉ちゃんには、結婚して初めてのクリスマスだからと奮発したダイヤのピアスを。
そして、ららは今日のワンピースに似合ってると言ったピンクファイヤのピアス。
「竜ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
クリスマス用に綺麗にラッピングされたそれをもらった時のお義姉ちゃんの喜ぶ顔が、目に浮かぶようだ。
「ラララ〜ラ♪ ラ〜ララ♪♪」
―――あれ、電話。
誰かしら?
ららがバックの中に手を入れようとしたその時、着うたが消え、聞き知った声が…。
「もしもし―――あぁ、僕だけど」
「課長…」
―――こんなところで、課長に会うなんて…。
それも、隣にはとっても綺麗な女性が…。
年齢的には課長と同じくらいだろうか?ららにはとても真似できない10cmくらいある細いヒールのブーツで颯爽と歩き、腕を絡ませている辺り、きっと親密な関係に違いない。
あれだけ素敵な男性(ひと)なのだから、彼女がいたってちっともおかしくないし。
「なんだ。ららの知ってる人か?」
「うっ、うん。会社の人、課長なの」
「ほぉ、会社のね。随分とまた、色男だな」
竜生は、ららの会社の上司と聞いて興味津々という様子で課長を見ている。
というより、妹の反応が気になったからというのが本音である。
傍らに随分と派手な女性を連れた色男。
…もしかして、実はあいつともう。
遊ばれているとしたら、兄として許しておけん。
「お前、あの人と付き合ってるのか?」
「はぁ?!」
―――ちょっ、ちょっと竜ちゃん!!
どこで、どう間違ったら、そういう解釈の仕方ができるわけ?
「お前という彼女がいながら、あの女性と」
「あのねぇ、竜ちゃん。課長と私が付き合うわけないでしょ?課長は将来社長になる人なんだからね。そんな偉い人と私が、どうこうなるわけないの」
『竜ちゃんだと?』
聞き捨てならない会話に白桐が振り返った。
「観月さん」
…ヤバイ。
咄嗟にへばりついている彼女の腕を振り解いたが、時既に遅かった。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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