be yourself
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「神谷さん。早速だけど、釣りやってみる?」

すぐ側に川が流れていて、そこは絶好の釣り場になっていた。

「やるっ」

藍はまったくの初心者だったけれど、笠原の誘いに二つ返事でOK、彼に教ええてもらって釣りをやってみることにした。
笠原は持ってきた釣竿のうちの一本を取り出すと藍に渡す。

「駄目だって、笠原一人でやっちゃあ」

小さな箱を開けて、用意してきた餌のミミズを藍の針に付けようとしたところを止められた。

「え?だって、神谷さんこういうの触れる?」

笠原が手にしていたのは、小さなミミズだった。
指先でくねくねと元気に動き回っているのが見える。

「大丈夫、私こういうの全然平気。自分でやってみたいから、笠原教えて」

藍の意外な申し出に少し驚いた笠原だったが、こんなふうに平気でミミズを触れてしまうところが何となく藍らしいなと思いながら餌の付け方を教える。
その真剣な表情にこっちまで背筋をピンと伸ばしてしまうが、竿の投げ方を教わって川に糸を垂らすも、なかなか魚は食いついてこない。

「なかなか、釣れないなぁ」
「まぁ、こんなもんだよ。気長に待ってれば、いつかはかかるって感じかな」

そういうものなの?と藍は思ったが、こんなのんびりしたところも笠原っぽいなと一人微笑んだ。

「藍ちゃんは、釣りとかやっちゃう人なんだ」

真由子も意外という顔で藍のところへ様子を見にやって来た。

「いいえ、これが生まれて初めてですよ」
「そうなの?」

隣にいた百合も驚いた様子で藍を眺めている。

「はい、でもなんか面白そうじゃないですか。それに今やらなかったら一生やらないかもしれないし、何でもやれる時に経験した方がいいかなって思って」
「おい、百合聞いたか?お前も少しは藍ちゃんを見習ったらどうだ?餌のミミズが気持ち悪〜いとか言って、ちっともやろうとしないでさ」

女性陣のやり取りを聞いていた仁が会話に入ってきたが、自分と藍を比較された百合は機嫌が悪い。

「何よ、聞いてるわよ。だって、気持ち悪いんだからしょうがないじゃない、ねぇ真由子」
「そうそう、女性はそういうの苦手なのよ」

助けを求めた真由子も百合に同意したものだから、真由子の彼氏の一哉は何も言えなくなってしまったよ
うだ。

「確かに。私なんてこういうの全然平気だから、昔から可愛くないって言われてましたよ」

藍は女の子が嫌がりそうなことは大抵平気だったから、外見は可愛いのにどうして?ってよく言われたものだ。
元々、可愛いとか言われるのが好きでなかったから、そういう反動も自分の中にあったのかもしれないと今となってはそんなふうに思うこともある。

「そういうのは人それぞれだからさ、川上さんや宮沢さんのように餌のミミズが気持ち悪いって思う人もいれば、神谷さんみたいに平気な人もいる。俺はそれでいいと思うけどな。ただ、それで神谷さんが可愛くないって先入観を持つ方がおかしいんじゃないかな」

笠原のひと言にみんな呆然として言葉が出なかった。
彼の言うことは最もなことだったが、今までこんなふうに口に出して言ってくれた人はいなかったし、藍は改めて笠原の心の広さに感心していた。

「あっ、神谷さん。糸引いてるっ」

笠原の言葉に感動してボーっとしている隙に魚が糸を引いていたようだった。

「どうしようっ、笠原!!」
「落ち着いて、俺の言う通りにして」

慌てて笠原が駆け寄ってきて、背後から竿を押さえると藍にリールを回すように言った。
その時も決して手を出すことなく、適切に指導してくれたおかげで藍は無事魚を釣り上げることができた。

「うわぁ、すごいすごい。ねぇ笠原、これなんて魚?」
「これは、ヤマメだよ」
「ヤマメ?って、食べられるんでしょ?」

「もちろん」と答えた笠原の前でやった!!やった!!と本当に子供のようにはしゃいでいたが、そんな笠原と藍を見ていた4人はあまりに微笑ましい光景に思わず笑みを溢していた。
それから益々、ヤマメ釣りに夢中になった藍は周りのことなんて気にも留めず、夢中で没頭し続けた。


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。


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