ピンポーン、ピンポーン
ピンポーン、ピンポーン
「はいはい、今出ますって。もう、うるさいなぁ」
「近所迷惑でしょ」朝っぱらから、玄関のブザーを鳴らしまくる嫌味なヤツ。
「1回鳴らせば、わかるわよ」
ドアを開けると雲一つない晴天とは打って変わって無愛想な男の顔。
「遅い。この家は、どんだけ広いんだよ」
「挨拶がそれ?おはようくらい爽やかにいいなさいよ。だいたいねぇ、こっちだって色々あるんだから。すぐに出られなくても男のクセにイチイチうるさいのよ」
何で、朝からこんな言い合いをしなければならないの?
だから、一緒になんて行きたくなかったのに…。
「外で待ってるから」
「すぐ行く」
私は戸締りを確認して荷物を持つと部屋を出る。
『それにしても愛想のないヤツ』呟くように言う。
あれで、もっと優しかったら文句ないのに。
彼は多分、180cmを超える長身で、痩せて見えるがTシャツ越しからも筋肉質な体が容易に想像できる。
きっと、お腹なんて割れちゃったりしてるんだろうな。
それになにより、悔しいかないい男なのよ。
そんなどうでもいいことを考えながら、待たせると何を言われるかわからないと急いで階段を下りる。
白いワゴン車の前に寄り掛かる彼は、さながら白馬の前に立つ王子様のように見えた。
「荷物は、それだけか?」
「女性にしちゃあ少ないな」返事を言う間もなく私が手にしている荷物を芹澤君が取って車に積み込む。
どうせ、おしゃれなんてするつもりもないし、荷物なんていらないじゃない。
「何で、後ろ?」
「俺は雨宮さんのお抱え運転手かよ」後部座席のドアを開けて乗り込もうとした私を呼び止める芹澤君。
「だって、助手席は深耶(みや)ちゃんが座った方がいいでしょ?」
「その深耶(みや)ちゃん家がわかんないから、隣に座って教えてくれなくてどうする」
「前に座れよ。ほら、ドア開けてやるから」どうして、命令調なわけ?
あなたの車には、今どきカーナビってものは付いてないの?
仕方なく助手席に座ったけれど、どうにも落ち着かない。
私より先にお友達の家に寄ってくれば良かったのに。
二人きりで何を話していいか、わからないじゃない。
「お友達は?」
「あぁ、蓮(れん)は最後」
芹澤君の大学時代からの親友という近藤 蓮(こんどう れん)君はどういう人なのかわからないけど、この人と友人っていうところがどうにも引っ掛かるのよ。
まぁ、恋の予感とかそんなことは毛頭期待してなんかいないが、深耶(みや)ちゃんじゃないけど、顔は期待できそうかも?
それっきり、案の定、二人は何も話すことなく深耶(みや)ちゃんの家に到着すると彼女は律儀にも自宅門の前で待っていてくれた。
「深耶(みや)ちゃん、おはよう」
「雨宮さん、芹澤さん、おはようございます」
「よう」と控えめに挨拶する芹澤君。
私には挨拶すらしなかったのに。
深耶(みや)ちゃんとは初対面だから、少し緊張しているのだろうか?
私と違って、彼女は可愛いからねぇ。
「深耶(みや)ちゃん、助手席でナビお願いね。この車はオンポロだから、付いてないみたい」
「あのなあ、どこがオンポロなんだよ。ナビくらいあるだろ。どこに目が付いてんだ」
「あら、これ飾りじゃなかったの?だったら、どうして私を助手席にわざわざ座らせたのかしら?別荘の場所を知ってる深耶(みや)ちゃんが隣にいてくれた方がいいじゃない」
「ねぇ、深耶(みや)ちゃん」私が言うと「はい」と嬉しそうな声が返ってきた。
彼女はこの男のことが前々から気になっていたらしく、楽しみにしていたので協力してあげなきゃ。
今度こそ私は後部座席に乗り込むと芹澤君は私の時と同じように彼女の荷物を受け取り、助手席のドアを開けてあげた。
最後に近藤君を乗せるといざ、海に向かって出発!!
彼は芹澤君と同じくらい長身のなかなかのイケメンで、そして、あの男と違って爽やかで優しい上におもしろい。
まったくもって親友というのは信じられないが、並ぶと絵になるのは確か。
後部座席の二人は妙に気が合って、私にとっては想像以上に楽しい旅になりそうだった。
海に着くと早速、海の家を借りて水着に着替える。
あいつが“ビキニ”なんて言うもんだから、絶対着てやるもんか!!と誓ったのに今時はどのショップに行ってもビキニ以外のものなんて見当たらない。
はっきり言って下着とどこが違うのか、あんなに肌を露出していいの?と思いつつも、ついショップのお姉さんの口車に乗って買ってしまったホルターネックとビキニショーツの両脇に付いているリボンがポイントで、紺地にショッキングピンクの水玉模様が印象的なビキニ。
「雨宮さんの水着、可愛いですぅ」
「それに胸、大きいんですね。羨ましい」と何気なく手で揉んでくるあたり、どうなんだろう?
相手は女性だから変な気は起こさないんだけれど…。
「深耶(みや)ちゃんだって、十分デカイと思うわよ。あいつなんかに見せたら鼻血もんじゃない?」
「あいつって、芹澤さんのことですか?雨宮さんと芹澤さんって仲良いんですね」
「はぁ?どこが仲良く見えるの?ぜ−んせん、仲良くなんかないでしょ」
あの男はイチイチうるさいし、あー言えばこう言う。
ほんとっ、ムカつくわ。
「だって、芹澤さんったら、雨宮さんの話ばかりしてるんですよ?」
「え?何、私の話って」
「妬けちゃいます」
いつ、そんな話してたのよ。
「後ろで雨宮さんが近藤さんと盛り上がってる時、雨宮さんの声が大きいとか、あいつは年中しゃべってるとか」
声がデカくて悪かったわね。
はいはい、おしゃべり好きでよく口から先に生まれたって言われますよ〜だ。
だけど、影でそんなことを深耶(みや)ちゃんに話さなくてもいいじゃない。
「あの男、そんなこと言ってるワケ?後で文句言ってやる」
「雨宮さんは芹澤さんのこと、好きじゃないんですか?」
「見てわかるでしょ」
誰が、あんな男を好きになるもんですか。
「お似合いなのにもったいないですよ」
「いや、全然お似合いじゃないから。それより、早く行かないとまたあの男にグチグチ言われちゃう」
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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