ふたりの夏物語W
3


この時期の海は、朝早くから場所取りで砂浜は既に人人人でいっぱいだ。
あぁ、でも海なんて来るのは何年振りだろう。
暑いけど、気持ちいい。

「女の身支度はどこまで時間が掛かるんだ」相変わらず文句の多い男だと思いながら、「遅くなって、ごめんなさ〜い」可愛らしく言ってみたが聞いちゃあいない。
しかし、パラソル片手の芹澤君は想像以上の肉体の持ち主だった。
もちろん、お腹も割れてるし。
なんて、感心している場合じゃない。
相手も同じように見ていることに気付かなかったとは。

空いている場所を選んでパラソルを立てるとピーチタオルを敷いて早速、日焼け止めを塗る。
そろそろシミが気になり始める年頃、日焼けは大敵だから、しっかり日焼け止めを塗らないとっ。

「深耶(みや)ちゃん、お願い。背中に塗って」
「ほら、貸せよ」
「えっ、何で芹澤君?」

手を出す彼に驚いて、私は50cmくらい前に跳んだ。

「あの二人ならとっくに海に入っていったよ。ほら、早く渡さないと焼けるぞ」
「だって」

日焼けするのは嫌だけど、芹澤君に塗ってもらうのはどうかと…。

「俺はいいんだぞ?日焼けして困るのは雨宮さんなんだから」
「わかったわよ。ちゃんと塗ってよね」
「それが、人にものを頼む態度か」

「背中向けろよ」言われるままに背中を向けると、冷っとした後に上下する彼の手の感触が妙にリアルで変に体がこわばってしまう。
あぁ〜やだ。
何で、芹澤君にこんなことをしてもらわなきやならないの〜。
もちろん彼だって、どうして俺がこんなことをと思っていたわけだが、毀れんばかりの胸にきゅっと締まったウエスト、あまりにセクシー過ぎる彼女の身体に実は手が震えていたなんて。

「しっかし、よくもこんなに真っ白くいられるもんだな」
「外に出てないからだって言うんでしょ?日焼けは女の敵なんだから、がっちりガードしてるんです」

この紐を外せば、ふくよかな胸が…いかんいかん。
俺は何を考えてるんだ。
まったく、ビキニなんてもんを考えたヤツは男を拷問にかける気かよ。
あんなに楽しみにしていた水着姿だったが、いざ目の当たりにすると普段とは違う彼女の魅力に平常心ではいられなくなってくる。
できるだけ意識しないように努めたけれど、この手の感触は当分忘れることなんてできないだろう。

「終わったぞ」
「ありがと。芹澤君は塗らなくていいの?こんなに日差しが強かったら皮とか剥けちゃうかもしれないわよ?」
「雨宮さんが、塗ってくれるのか?」
「高いわよ?」

笑いながら芹澤君の手から日焼け止めを取ると彼に背を向けるように促す。
男の人の肌に触れるのは初めてではないけれど、それが芹澤君となると話は別。
背中にも筋肉がつくとこんなにも綺麗なんだと感心するほどだったが、適度に日焼けしていて何かスポーツでもやっているのだろうか?

「芹澤君って、何かスポーツをやってるの?」
「俺?週末は、だいたいジムに行ってるから」

へぇ、ジム?
なるほど、モテ男は日々肉体改造にいそしんでいるってわけね。
これで、何人の女性を。
おっと、私ったらなんてことを考えているのっ。

「ふううん。そうなんだ。ところで芹澤君、彼女は?」
「いたら、ここで雨宮さんに肌に触らせてはいないだろう」
「触ってって。私は日焼け止めを塗ってあげてるだけじゃない」

今更、何をという感じなのだが、この人ほどの人に彼女がいないとは。
いや、単に特定の彼女を作らないだけかもしれないし。
実を言うと入社した当時から浮いた噂を聞いたこともなかったし、確かに可愛い彼女がいたら誘いに乗るはずもないわけで。

「そういう、雨宮さんはどうなわけ?」
「私?いたら、こんなことしてないわよ」
「特定の男は作らない主義とか」
「その言葉、そっくりそのまま返すわよ。芹澤君こそ」
「俺?俺はそんな男とは違うさ。一人の女性を一途に愛する真面目な男だって知らなかった?」
「全然、知らなかった」

へぇ、意外。
芹澤君が、一途に一人の女性を愛する男だったなんて。
一体、どういう女性なんだろう?そんなふうに想われるのは。
それは、私ではないことは確かだけど。

「雨宮さんは?どういう男がいいわけ?」
「私はやっぱり優しい人がいい。芹澤君みたいに顔はいいけど、意地悪な人は嫌いだもん」
「悪かったな意地悪で───いってぇ」

「終わったわよ」思いっきり背中を叩かれて、大の男が情けない声を上げた。
赤く手形が付いていたとは知る由もない。


「雨宮さ〜ん、芹澤さんも早く早く」

深耶(みや)ちゃんが浮き輪片手に手を振りながら呼ぶ声が聞こえ、二人は一斉に海に向かって駆け出した。

「深耶(みや)ちゃん、何?この浮き輪」
「これですか?ペア用なんですよ。はい、これ二人で使って下さいね」

泳げないわけじゃないけど、海で浮き輪は必需品。
しかし、深耶(みや)ちゃんが持っていたのは、なぜか輪が二つある見かけない浮き輪。

「二人でって…。芹澤君とぉ?」

「そうですよ。私は近藤さんとペアを組みますから」さっさと二つ穴の開いた浮き輪にそれぞれすっぽり納まって、気持ち良さそうに海にプカプカと浮かんでいる。
いつの間にあの二人。
ちょっと待って!!何で、私が芹澤君とこんならぶらぶカップルが使うような浮き輪にっ。

「へぇ、おもしろそうだな」

「ほら」芹澤君は浮き輪に私の体をすっぽり納めると海の中へとグイグイ引っ張っていく。
あぁ、楽チン。
なんて思ってる場合じゃなくて、どうしてこの人と二人なのぉ。
それもこんな近くに。
まるで、世界は二人だけみたいな。
本当の恋人同士なら、ここで愛を語り合ったりするのだろうか?
いやいや、彼とはそんなことには絶対ならないし。

「ねぇ、何で深耶(みや)ちゃんを誘わなかったの?近藤君に先を越されちゃったじゃない」

私だって、近藤君と。

「雨宮さんは、蓮が良かったのか?」
「え?そういうわけじゃないけど」

芹澤君が私なんかといるより、深耶(みや)ちゃんと一緒にいる方がいいと思っただけ。
だって、素直で可愛い子の方が楽しいでしょ?

「なら、いいんじゃないの?俺達、二人で仲良くすれば」
「はっ!?仲良くって」

「ほらほら、もっとくっ付かないと」って。
こらっ、人の肩に勝手に触るなぁ。


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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