ASPHALT☆LADY
Story10


完全に失恋モードに入ってしまった篠島は、仕事でもミスを連発していた。
そして、仕事に関しては完璧なまでの篠島が壊れたという話は、憂のところまで届いていた。

「篠島さん、どうしたんですかね?なんか、あったんでしょうか…」

奈々ちゃんも話を聞いて、少し心配のようだ。
いつもは、虐められているのにね。
こういうところが奈々ちゃんのいいところだなって、あたしは思う。

「どうしたのかな」

この前、あたしのことを気にしてうちの部まで来てくれたのに…。
一体、どうしたというのだろう?

「永峰さんっ、大変ですっ…」

そんな時に裕紀くんが、何やら青い顔をしてあたしのところへやって来た。
大変なことって、一体何?!

「どうしたの?顔色、悪いみたいだけど」
「S社向けの今月末の納期で発注していたはずのものが、さっき確認したら発注されていないって言うんです。僕は間違いなくしたつもりなんですが、どうしましょう…」

え?
発注したはずのものが、されてないってどういうことよ。
あたしは、急いで裕紀くんが発注したというデータをパソコン内の発注システムで調べてみる。
データには間違いなくこちらからの発注はされている、じゃあどうしてこんなことになったのだろうか?

「おかしいわね。うちからは、ちゃんと発注はされてるのに…。ちょっと、調達部に行ってくる」

あたしは、急いで調達部の篠島のところに事情確認に行ってみることにした。

「ねぇ、篠島。これ、うちが今月末の納期で発注したんだけど、確認したら発注されてないって言うのよ。発注システムで見ると間違いなく発注はされているんだけど、どういうこと?」

やはり少し元気のない篠島だったが、何かに気付いたのか急いでパソコンで調べ始める。

「あっ…」

そう声をあげた後に篠島は、その場に頭を抱えてしまった。
一体、何があったというのだろうか?

「篠島?」
「悪い、俺が発注を保留にしたままだった」
「はぁ?保留って…。まさか…発注されてないの?」

うそ…でしょ…。
どうするのよ、今更発注してませんでしたじゃ済まされないのよ…。

「ごめん。すぐになんとかする」
「なんとかするって、篠島ならわかるでしょ。あれは、納期が最低でも一ヶ月はかかるのよ?だから急いで発注したのにそんなの今から間に合うわけないじゃないっ」

なんてことなの…。
大口の発注で短納期だったから、あたしは裕紀くんに頼んでなんとかギリギリセーフで発注をかけたはずだった。
それなのに…。

「それでも、なんとかするしかないだろ」
「何があったか知らないけど、仕事とプライベートを混同するのはやめてくれないっ、こっちが迷惑するの。もし、間に合わなかったら、篠島のせいだからねっ。責任取りなさいよ!」

ここまで言ってしまってから言い過ぎたとは思ったけれど、これは子供の遊びではない。
何千万円という金額もさることながら、会社全体の信用にも関わる1人の責任では済まされない大事なのだから。
あたしはそれだけ言うと今後の対応をするべく、自分の部署へ足早に戻って行った。

「遼哉、何があったんだ?永峰さん、ものすごい剣幕で怒ってたけど」

いつものバトルは見慣れていたが、あんなに怒っていた憂を浩介も見たことがなかった。

「俺が、永峰が発注してたものを保留にしたままだったんだ。短納期で、ギリギリの発注だった」
「はぁ?」

仕事に関しては、完璧なまでの篠島がこんなミスを犯すとは…。
こんな時に公私混同してはいけないのだろうが、憂のことが余程篠島にダメージを与えていたのだろう。
しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。
なんとかなるものなら、しなければ…。

「で、どうするんだ?」
「一応、ダメもとで聞いてみるよ。全部とは言わなくても、何台かは揃うかもしれないし」
「そうだな。俺も、手伝うよ」
「いや、これは俺の責任だから」
「馬鹿だな、俺は同情でこんなことを言ってるんじゃないんだ。同じ部員として、お前だけに責任をかぶせるわけにはいかないんでね」

そう言って微笑む浩介に篠島は感謝しつつ、急いで担当者に電話を掛けた。

+++

「なんとか頑張っても、半分しか揃わないな」

今回の発注は全部で30台分、浩介の力を借りても半分しか揃いそうにない。
さっき憂に確認したところ分納というわけにはいかず、どうしても全台数を揃えて納入しなければ上層部まで巻き込む事態に発展することは、ほぼ間違いない。

「まいったな…」

今回ばかりは、さすがの篠島もお手上げ状態だった。
そんな時に情報技術部の課長である清水が、篠島のところにやって来た。

「篠島君。部の違う俺がとやかく言うことじゃないんだが、こっちのルートを使ってみてはどうかなと思って」

清水が言っているのは、通常篠島が発注する正規ルートとは違うもので言わば裏ルートである。
こっちは在庫があるはずだから、手配すればなんとかなるかもしれない。
が、これを一主任である篠島の権限で行うことは、まず無理である。

「これは…」
「篠島君さえいいと言うのであれば、俺がなんとかする」
「え?」

どうして、無関係の篠島に清水が、そこまで手を貸そうと言うのだろうか?
これを使えば確かに篠島は救われるかもしれないが、反対に清水にリスクがかかってしまうのに…。

「大丈夫だよ。俺だって、自らの首を絞めるなんて馬鹿な真似はしないさ」

自信あり気に笑う清水に篠島は一瞬迷ったが、今はこの方法しか事態を回避する方法はまず見つからないだろう…。
篠島は、ワラをもつかむ思いで清水にすがることにした。


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