矢野くんと永峰さんが、付き合ってるらしいよ。
そんな噂を篠島が耳にしたのは、次の日の午後だった。
―――浩介と永峰が、付き合ってる?
憂には好きな人がいるとだけ聞いていたし、清水からはその相手とは両想いだとも…それが浩介だと言うのか?
益々、篠島は落ち込むしかなかった。
憂が浩介を好きだったとしても、そういうこともないとは言い切れないわけだし…しかし、浩介は篠島が憂のことを好きだと知っているのに付き合っているのだとしたら…。
「いやぁ、なんだか勝手に噂が広まってるよな」
昼休みに食堂で食事をしている時、浩介が照れたようにそれでいて少し自慢気に言う。
これに対しては篠島もおめでとうなどと口には出せないし、かと言ってお前は俺の気持ちを知ってて…とも言えない。
「何も、聞かないんだな」
浩介と憂が付き合っているという噂も耳にしているはず、それなのに何も言わない篠島に少々苛立ちを覚えつつわざとそういう言い方をしてみる。
「なんと、言えばいいんだ?おめでとうか、それともコノヤロウか」
「あはは、面白いこと言うな」
「お前なぁ、俺をおちょくってるのかっ」
さすがの篠島も今の浩介には、少し腹が立ってきていた。
「お前にとやかく言われる筋合いはない。彼女は、俺を好きと言った。俺は、それに答えたそれだけだ。文句あるか?」
浩介の言っていることは、何一つ間違ってはいない。
憂は、篠島でなく浩介を選んだ。
でもそれだけで割り切れるものならそうしたいと篠島も思うのだが、そんな簡単なものじゃない。
ずっと、5年間想い続けた彼女をあっさりと親友に持っていかれたんだ。
平静を装っているだけでも大変なことだったのだから。
篠島は、それ以上何も言わずに食事も半分以上残したまま、先に席を立った。
そんな篠島を見て浩介は、内心『やり過ぎたかな…』という後ろめたさもあったが、これくらいしなければ篠島が動かないことを知っていたから。
心を鬼にして掛けに出た。
+++
「ちょっと憂、あんた矢野くんと付き合ってるって本当?」
噂を聞きつけた愛香が、あたしの元へすっ飛んで来た。
そうなることはわかっていたからあたしは、愛香を連れてフロアを出る。
「ちょっと、なんで矢野くんなの?」
「まぁ、落ち着いてよ」
あたしは、愛香を落ち着けるために自販機でカフェラテを2つ買った。
愛香もあたしと同じで、カフェラテが好きなのよね。
座ろう?とあたしが言うと愛香は、大人しく椅子に座る。
「実はね、これは偽装なの」
「偽装?」
「そう、矢野くんに言われてね」
あたしは、昨日の矢野くんとのやりとりを愛香に説明した。
愛香は、わかったようなわからないような複雑な表情でじっと話を聞いていた。
「憂は、篠島くんが好きなのよね?」
「うん」
「そっか…でも、ちょっと篠島くんかわいそうかも」
篠島が壊れたのは、あたしが好きな人がいるって言ったからだって矢野くんに聞かされた。
あたしは本当のことを言っただけなんだけど、篠島は勘違いしたみたい。
だから、篠島もあたしのこと好きなんだって…。
これが本当だったら、すごく嬉しいんだけれど…。
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