ASPHALT☆LADY
Story14


あたし達の当てが外れたのか、篠島は一向に動いてこない。
もしかして、あたしのこと諦めちゃった?
そんなことを考えながら、もう寝ようかなって思った時に携帯が鳴り出した。
―――えっ、矢野くん?

「もしもし、矢野くん?」
『あっ、永峰さん。ごめんな、こんな時間に』
「うん、どうしたの?」
『それが、大変なんだよ。遼哉が、警察に連れて行かれて』
「警察―――」

何がなんだかさっぱりわからなかったけど、「とにかく今から出て来られる?」と言うので慌てて着替えて家を出た。

警察なんて一度も来たことがなかったから、何も悪いことをしていなくても緊張する。
すぐに矢野くんが、あたしを見つけて近寄って来た。

「矢野くん、篠島は?」
「永峰さん、こんな時間に申し訳ないね。遼哉は今、事情を聞かれてるところ。でも、大丈夫だから」

矢野くんから話を聞くと篠島は考え事をしていて、運悪く性質の悪い連中の1人にぶつかって因縁をつけられたらしい。
ちょっとした喧嘩になったところで巡回中の警官に見つかり、署まで連れて行かれたのだという話だった。
篠島が手を出したわけではないし特に抵抗しなかったから、相手が100%悪いと判断されてお咎めはないという。

「遼哉」

矢野くんの声に視線を向けると警官に付き添われて篠島が、出てくるのが見えた。
顔を殴られたのか、口元が切れて血が滲んでいるのと目元が少し腫れている。
いつも掛けている眼鏡はそこにはなくて初めて素顔を見たが、こんな時になんだが意外に可愛らしい顔をしているのだなと思った。

「ごめん、心配かけて」
「大丈夫なのか?」
「俺は、無実だから。まぁ、相手は傷害の現行犯で逮捕されたけどな」

そう言って笑って見せる篠島だったが、もしものことを考えたら笑って済まされることじゃない。

「もうっ、篠島何やってんのよ!心配したんだからね。警察連れて行かれたって、言うし―――」

あたしは今まで張り詰めていたものが一気に溢れ出して、篠島の側に駆け寄ると胸元を力いっぱい両手の拳で叩く。

「おいっ、永峰。どうしたんだよ」

篠島もあたしの行動にびっくりしたようで、浩介に助けを求めるように視線を向けるが、浩介はニヤニヤしながらまったく他人事という顔だ。

「永峰、痛えなぁ。それにお前、何泣いてんだよ」
「馬鹿、馬鹿っ!もう、篠島が悪いんでしょ。あたしを泣かせるようなことするからっ!」
「なんで、永峰が俺のこと…」

あたしは矢野くんと付き合っていると思っている篠島には、あたしが何で泣いているのかわからないようだ。

「…き…だ…から」
「え?」

篠島には、憂の言葉をはっきりと聞き取ることができなかった。

「篠島が、好きだからっ!」
「え?…で…も…永峰は、浩介と」
「付き合ってないよ」
「はぁ?」

浩介の一言に篠島は、素っ頓狂な声を上げた。

―――だって、そうだろう?なんなんだよ、この展開は…。

「永峰さんと俺は、付き合ってないよ。ごめんな、ちょっと冗談がすぎた」

篠島はようやっと意味を理解したようで、ふっと全身の力が抜けたような気がした。
まさか、騙されていたとは…。

「そういうことだから、邪魔者は退散するよ。後は、お二人さん仲良くどうぞ」

浩介は後ろ手に片手を軽く挙げて、そのまま出て行ってしまった。

―――ったく浩介の奴、かっこつけやがって。
さて、このお嬢さんをどうするかな…。

「永峰、ごめんな。だから、もう泣き止んでくれよ」

篠島は、あたしを優しく抱きしめると背中をゆっくりと摩ってくれた。
それが心地よくて、ようやくあたしも落ち着きを取り戻してくる。
そして篠島は、誰もいない廊下に置いてある長椅子にあたしを腰掛けさせた。

「なぁ、さっき言ったこと本当か?俺が、好きって」

篠島はあたしの頬を伝う涙を指でそっと拭いながら、優しい笑顔でそう言った。

「うん」
「俺も永峰が、好きだよ」
「篠島…」

あたしは嬉しさのあまり、また涙が溢れ出してくる。

「おいおい、もう泣くなって。俺は、涙には弱いんだよ」
「だって…」

「ったく泣き虫だな、永峰は」と篠島は、そう言いながらあたしを再び胸に抱き寄せた。

どれくらい、そうしていたのだろうか?
ようやく泣き止んだあたしは、顔を上げると篠島の痛々しい顔が目に入る。
そして…手を触れようとして…引っ込めた。

「痛い?」
「これくらい、たいしたことないよ」

強がってる篠島だけど、さっきよりもだいぶ腫れてきているみたいだ。
あたしは、篠島の唇に羽が触れるか触れないかというようなキスをおとした。
篠島は、そんなあたしを射抜くような目で見つめながら、囁くように言う。

「憂―――」

初めて篠島に名前を呼ばれて、また涙が出そうになった。
好きな人に名前を呼ばれるって、こんなにも特別で素敵なことだったのだと改めて感じた。

「愛してる」

今度は、篠島からあたしにくちづける。
切れた口元が痛んだのか一瞬離れたけれど、再び戻ってきてそれは深いものへと変わっていく。
長い長いくちづけに体が溶けてしまいそうで、名残惜しむように唇が離れた時には思わず篠島の肩にもたれてしまったくらいだった。


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