「今度の金曜日、憂は何か予定入ってる?」
お昼に一緒に食べている村上 愛香ともう1人同期で仲のいい岡田 里穂が、思い出したように言った。
彼氏もいないあたしには、週末に予定など入っているわけもなく。
「特にはないけど」
「上山(かみやま)くんが本社に戻って来たから久しぶりに同期で飲み会しようって、佐々木くんに言われてたのよ」
上山くんというのは、確か2年くらい前にどこかの支社に転勤になったがつい最近戻って来たと聞いていた。
同期で飲むのも久しぶりだったから、ちょっと楽しみかも。
「うん、いいよ」
「愛香もその日は、大丈夫だったわよね」
「うん、平気」
「じゃあ、佐々木くんにはあたしから言っておくね」
+++
週末の金曜日、料理屋の座敷に数人の若い男女が集まっていた。
「上山くん、久しぶりだね。元気だった?」
あたしはビール瓶を片手に上山くんのところに行って、それをグラスに注ぐ。
「やぁ永峰さん、元気だったよ。そう言えば、相変わらず篠島とはやってるらしいね」
―――げっ、どうして上山くんが知ってるわけ?
篠島と仕事で関わるようになったのはあたしが主任に昇格したつい一年ほど前からの話、なのにどうして支社
にいた上山くんが知ってるのよ。
「上山くん、どうしてそれを?」
「まぁ、色々噂は聞いてるからね」
色々って、なによ。
なんか、気になるわね。
「もう、あいつったらあたしばっかり目の敵にしてすっごいムカつくんだから。上山くんからも、なんとか言ってやってよ」
「あはは、そうか。う~ん、でも篠島の気持ちもわからないでもないしなぁ」
「どういうこと?」
「永峰さんイジメルと面白いってね」
「うわぁっ、上山くんそういうこと言うわけ?信じらんない」
上山くんは結構あたしと話が合うから、こんなふうに冗談も言い合える。
だけど、イジメルと面白いってどうなのよね?
「よぅ、篠島」
―――え?
上山くんの向く方に視線を向けるとそこには、篠島が立っていた。
相変わらず表情を変えない銀縁メガネの奥の瞳には、何が映っているのかさっぱりわからない。
そして、篠島の隣には矢野くんがいた。
「あっ、矢野くん」
「あぁ、永峰さん」
あたしは、篠島には見向きもせずに矢野くんに空いている隣の席に座るように手招きする。
矢野くんはちらっと篠島のことを見て、『悪いな』とでも言うようにあたしに言われるままに隣に腰を下ろした。
残された篠島は、上山くんの隣に腰をおろす。
「矢野くんとは、あんまり話す機会ないよね」
矢野くんにグラスを持たせてビールを注ぐ。
調達部にはよく行くが、あたしの部の担当は篠島だったから矢野くんとの関わりはほとんどなかった。
「そうだな、職場ではよく見かけるけどな。遼哉と楽しそうに話してるところはね」
「どっ、どこが楽しそうなのよ」
―――また矢野くんったら、意味不明なこと言ってくれちゃって。
「あれ?違った?」
「もう、冗談きついって。あたしは、ちっとも楽しくないよ。矢野くんが担当だったらいいのにって、いつも思うもん」
「あぁ、それは俺もそう思うよ。なんで遼哉ばっか、いい思いしてんのかってさ」
矢野くんはわざと篠島に聞こえるように言って、視線を向ける。
篠島は、何言ってるんだって顔してるし。
「そんなことないよ。きっと篠島もあたしが相手なんて、嫌なんだと思うし」
「え?」
あたしがこんなことを言うとは、思いもしなかったのだろう。
矢野くんだけでなくて、それを聞いていた篠島も握っていた箸を止めた。
―――だってそうでしょ?あたしがもう少し可愛い性格だったら、篠島だってあんな態度を取ったりしないのかもしれないし…。
いつものあたしならこんなこと思ったり口にしたりしないんだけど、お酒が入っているせいかなんだかハイな部分とセンチメンタルな部分が両方あたしの中に現れる。
「何、暗い顔してるんだ?永峰さんは、そのままでいいんだから。ほら、グイっと飲んで飲んで」
矢野くんは、あたしにグラスを空にするようにビールの瓶を掲げる。
それに答えるようにあたしは、一気にグラスを空にした。
それからは他愛もない話で上山くんも交えて盛り上がったけど、あたしは一回も篠島の顔を見なかった。
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