ASPHALT☆LADY
Story4


あの日からあたしは自分でもよくわからないんだけど、なんだかすごく変だ。
ふっと気がつくと篠島のことばかり考えてしまう。
―――はぁ。

「憂、憂ったら」
「え?」
「もうっ、何ボーっとしてんのよ。お昼の鐘、とっくに鳴ったわよ」

愛香に言われて時計を見ると12時を少し回ったところだった。
篠島のことを考えていたら、すっかりこんな時間になっていた…なんて言えるはずもなく。
あたしは、愛香と途中で待ち合わせている里穂と一緒に社食へ向かった。

「ねぇ、憂なんか変だけど。どうかしたの?」
「そんなこと…ないわよ」
「そう?」

そうよって言ったけど、今のあたしにはあんまり説得力ないかな。

「そういえばあの後、篠島くんとはどうだったの?」

ゲホゲホ―――。
急に里穂が篠島の話なんてするから、お茶が気管に入っちゃったじゃないの。

「大丈夫?」
「だっ、大丈夫じゃない」
「何、動揺してんのよ。あっ、もしかして、もううまくいっちゃったの?」

動揺なんてしてない!!
と言っても、本当はすごく動揺してる。
だけど、うまくいっちゃったってなんなのよ。
だいたいあたし1人を置いてみんなで帰っちゃって、あれってどういうことなのよね?

「言ってる意味、わかんない。それより、なんでみんなしてあたし1人置いて帰っちゃったわけ?」
「そんなの決まってるじゃない。篠島くんと憂を二人っきりにしてあげるためよ」

横からしれっと言い切る愛香の目が怖い。

「どうして、篠島とあたしが二人っきりにならなきゃならないのよ」
「だってあんた達、あんまりにもじれったいからさ。あたし達が、気を利かせてあげたんじゃない。ねぇ、里穂」
「そうよね」

二人で納得してるけど、あたしにはさっぱりわからない。
何をどうしたら、こんな会話になるのだろうか?

「別に気を利かせてもらういわれは、ないんだけど」
「何、硬いこと言ってるのよ。で、どうだったの?まさか…もう、ヤっちゃったとか?」
「そんなわけ、ないでしょ!!」

誰がヤっちゃうのよ。
その会話、絶対あり得ない。

「え〜?篠島くん、憂に手を出さなかったの?」

あたしの話を聞いて、すっごく残念そうな愛香と里穂。
あの篠島が、あたしに何かするわけがないじゃない。

「出すわけないでしょ?篠島にとってあたしなんて、一番可愛くない女に決まってるもん」
「憂、それ本気でそう思ってる?」

何、愛香ったら、マジな顔してんのよ。
当たり前でしょ?
篠島にとってあたしなんて、ううん、男にとってみればあたしなんて女の中で一番可愛くない部類に入ってる。
いくらお酒が入ってたって、あたしに手を出す男なんていないわよ。

「こりゃぁ、篠島くんも大変ね」

愛香の言葉に里穂も同意して頷いた。
一体、二人ともなんなわけ?
さっぱりわかんないわ。

鈍い憂には、二人の思っていることもそれ以上に篠島の想いなど気付くはずもなかった。

+++

「遼哉、金曜日は永峰さんとよろしくやったのか?」

呑気に耳打ちしてきた浩介に篠島は、冷たく視線だけを送る。
それだけで浩介には篠島の気持ちがわかったのか、『残念だったな』と言っているような表情を見せた。

「せっかく、二人っきりにしてやったのになぁ」
「誰もそんなこと頼んでない。だいたいなぁ、あの鈍チンだぞ?そう簡単にいくかよ」

あの日、みんなにまんまと嵌められて篠島は憂と二人っきりにされたのだが、そこで自分の気持ちなど伝えられるはずもなく…。
人の世話は焼くが、自分のこととなるとまったく無関心の憂である。
そんな憂が篠島の想いなど、知る由もない。
それでも酔っている憂を気遣って、篠島は今まで見せたことがないくらい優しく接していた。
本当はいつだって彼女には優しくしてあげたいと思っているのだが、どうしてもそれができないのは篠島自身がここまで1人の女性に想いを寄せることがなかったからだった。

「だな。彼女、お前には敵意丸出しだもんな。でも、お前とやり合うのを楽しんでるところもあるんじゃないのか?傍から見てるとまんざらでもなさそうだし」
「そうだといいんだけどな」
「なんだよ、お前らしくもない。随分と弱気だな」

篠島は、自分でもそれは自覚していたから苦笑を返すしかない。
浩介とは大学時代からの付き合いで、篠島の恋愛遍歴も全部浩介は知っている。
それまでの篠島は、来るもの拒まず去るもの追わずいわゆる典型的なプレイボーイだったのだから。
端正な顔立ち、それは見方によっては綺麗という言葉の方がしっくり当てはまるかもしれない。
そんな篠島はとにかく女性にはモテたから、それが当然のような部分もあったのだと思う。
自分に振り向かない女などいない。
そんなナルシスト的な思い込みが、憂という存在を強烈に印象付けたのかもしれないが…。
とにかく憂は、篠島に対していい印象を持っていなかった。
あからさまに嫌な顔はするし、同期の子に冗談で口説こうとしたら、他人事なのにも関わらず思いっきり突っかかってきた。
篠島も憂がどこにでもいるような平凡な子なら相手にもしなかっただろうけど、それがものすごく可愛いときたもんだから厄介だった。
なんとかしてモノにしようという男心が、働いてしまったのだ。
しかし、憂に対しては今までの篠島の持っていた女をオトすマニュアルは全くもって通用しない。
それどころか益々、憂との仲はデットヒートを増していくばかり。
それを知っている浩介は、面白がって見ているし。
半ばヤケになって、わざと嫌みったらしく接すると今度はマジに向かってくる。
段々とそれが快感になってきている自分に気付いた時は、ひどく動揺したものだ。

―――この俺が、1人の女に振り回されるなんてな。

気付いた時には、もう憂の虜になっていた。
そして、5年。
こんなにも自分が一途な男だったとは…篠島自身も驚いたのは言うまでもない。
しかし、そろそろこの状況も限界に近いのも確か。

「そう言えば、情報技術の清水課長。なにかとこじつけては、永峰さんと関わりを持とうとしてるらしいぞ?」
「清水課長が?」

清水というのは、浩介や篠島の2年先輩で、今年29歳になる情報技術部の課長である。
つい最近、どこかの支社からここ本社に戻って来て課長職に就いたと聞いている。
篠島とは正反対の性格だが、女性に関しての噂はいいものではない。
可愛い子を見れば片っ端から声をかけているという話だから、早速、憂に手を出したのだろう。
まぁ、憂はそんな誘いに乗るような軽い女じゃないことを篠島はわかっているが、やはり気にならないわけではない。

「変なことになる前に早く永峰さんを捕まえておけよ」
「言われなくてもそうするさ」

もう、待っているつもりはない。
必ず、自分に振り向かせてみせる。


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