ASPHALT☆LADY
Story8


あんなことを言われても、だからといってすぐに嫌いになれるものでもない。
なんてあたしって、健気なのかしら。
あの時はあんなふうに怒ってしまったけど、よく考えてみればやっぱりあれは篠島の優しさなんじゃないかと思ってしまう。
こんな都合のいい解釈をしてしまう自分がおかしいのだけど、惚れた弱みってやつなのだろうか?
その反面、篠島が自責の念にかられていたとは憂は知る由もないけれど。

「遼哉、どうした?永峰さんにフラれたのか」

そんな嫌味な言葉をかけてくるヤツは、1人しかいない。

「別に」
「そうでもないだろ、この世の終わりって顔してるけどな」

なんでもお見通しの浩介には、篠島の気持ちがすぐにわかってしまう。
まさしく浩介の言う通り、篠島はその言葉に近い状態だった。
もう、憂に嫌われたのは決定的だろう。
ただでさえ、いい印象は持たれていなかったのに。

「自分で自分の性格が、嫌になってくるよ」

篠島は、あの日のことを浩介に話した。
本当は話す気さえもおきなかったのだが、ここで黙っていても浩介はしつこく聞いてくるだろうことを長い付き合いから知っていたからだが。

「お前、ほんと馬鹿だな」
「馬鹿、言うな。自分が、一番よくわかってるんだから」
「頭はいいのにどうしてこういうところは、ダメなんだろうな」

見た目はスマートで、女の扱いも慣れている。
仕事もできるし、まさしく非の打ち所のない奴なのに憂のことになると不器用で素直じゃない。
浩介にしてみれば、これが本来の篠島の姿なのだと思う。
今までは自分を装っていたところがあったのだろう、周りがそういう目で篠島を見ていたからそうせざるを得ない。
それが憂と出会ったことで、やっと仮面を外せるところまできたというのに…。

「反論のしようもない」

今日の篠島は、妙に素直だ。
これが憂の前でもできたなら、苦労しないだろうに…。

「落ち込むのは、まだ早いだろう。まだお前の気持ちを彼女に伝えていないんだから、それでフラれたら潔く諦めろ」
「そうだな」

落ち込んでいる場合じゃない。
浩介の言うようにまだ、自分の気持ちを伝えていないのだから。

+++

「何、溜め息なんて吐いてるんだ?」

あたしは、自販機の前でボーっと突っ立っているところに話しかけられて振り返るとそこにいたのは清水課長だった。

「課長」
「どうかした?いつもの元気な永峰さんは、どこにいったのかな」

清水課長は、コインを自販機に入れてボタンを押す。
そして、出てきた缶コーヒーを「これでも飲んで」とあたしの手の上に置いた。
あたしは慌ててお金を課長に渡そうとしたが、「俺には、これくらいしかできないから」と受け取らなかった。

「すみません、課長にまで気を使わせてしまって」
「いいんだ。これは、俺のお節介だから」

「少し話そうか」と言われて、近くにあったベンチに並んで腰をおろす。

「篠島君と喧嘩でもした?」
「喧嘩っていうか…」

課長とのことを言われてというのがそもそもの原因であったから話すことは少し躊躇われたけれど、全てを話すことにした。

「そうか、でも俺も随分な言われようだな」
「ごめんなさい。そんなつもりじゃないんですけど」
「まあいいよ。なんでか知らないけど、俺ってそういうふうに見られてるんだよな」

課長が本当は真面目でとても相手を思いやる優しい人だということをあたしは知っているけれど、なぜかそういう間違った認識で取られてしまうのが残念なのよね。

「永峰さんは、そのことで篠島君のこと嫌いになったのかな?」
「いえ。悔しいですけど、嫌いになんてなれません」
「それを聞いて安心したよ。まぁ、俺としては手放しには喜べないんだけどな」
「課長…」
「そんな簡単に諦められるような相手だったら、俺だってこんなこと言ったりしないよ。大丈夫、彼もきっと同じだと思うから」


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