Stay Girl Stay Pure
Story11


『ふぁ〜』
―――よく寝たぁ。
あれ?でもあたし、昨日の夜はベットに入った覚えがないんだけど…。

うん?!
なんか…生暖かいものが、あたしの身体に感じるのは…。
ちょとっ!!何コレ?!

「うわっぁぁっ!!」

「涼さん、どうしたんですか?そんな大きな声を出して」
「だっ、だだだだだって…」

そう、身体に感じた生暖かいものというのは、イアンだったのだ。
涼は、しっかりイアンにひっついて眠っていた。
―――だいたい、あたしは何でイアンとこんなふうに寝てるわけ?!

「何でっ、あたしがイアンとここで寝てるのよっ!!」
「何でと言われましても、涼さんが私から離れてくれないものですから、こうするしかなかったのですが…」
「あっ…」

―――そうだった…。
あたしは、普段寝る時に抱き枕っていうのがないと眠れないのよ。
お酒を飲んだ後は、あんまり記憶がないからそれがなくても平気なんだけどね。
ということは…あたしは、イアンに抱きついて眠ったということ…。
はぁ…やっちゃったかぁ…すっかり忘れてたわ。

「ごめんね。あたし、抱き枕がないと眠れないの。今日、家に帰って取って来るから」

涼は急いでイアンから離れようとしたが、彼がそれを許さない。

「まだ、起きるには早いですよ。もう少し寝ていましょう」
「え?だって…。このままじゃ、イアンだってよく眠れないでしょう?」
「そんなことないですよ。私は、抱き枕というのは使ったことがありませんが、涼さんはふわふわしていて気持ちいいんです。こんなにぐっすり眠れたのは、久しぶりですよ」

―――まぁねぇ。
あたしは、見かけによらずポチャポチャしてるから、みんなから『気持ちいい』なんて抱きつかれることはシバシバだけど、これってどうなの?
あたしが、抱き枕なわけ?!
って、そこが問題なんじゃないのよね。
やっぱり、どう考えてみてもこの状況はマズいでしょ。

「だけど、これって―――」

話を続けようとしたが、イアンは既にスゥスゥと寝息を立てて眠っていた。
昨夜は、彼が何時に眠ったのかわからないけれど、きっと遅かったに決まっている。
―――そう思ったら、無理には起こせないなぁ…。
眠っている彼の顔をマジマジと見てみると男の人なのに肌なんかものすごくきめが細かく綺麗で、あたしなんかよりよりよっぽど白い。
それにうわぁっ、何このまつ毛!!本物?!って思うくらいに長〜いし。
極めつけは鼻よね。
やっぱり外人さんだけあって、ものすごく鼻が高い。
外人さん同士でキスをしたら、鼻と鼻がぶつかっちゃうわね?なんて心配も幸いあたしは、鼻が高くないからなかったんだわ。
ふと昨日のキスを思い出して、胸の奥がカーッと熱くなる。
いきなり恋人になるなんて…。
涼は暫くの間、イアンの寝顔を眺めていたが、いつの間にかまた自分も眠りについてしまっていた。



「うわっぁぁっ!!」

再び、涼の声が部屋に響き渡る。
というのも、イアンにもう少し寝ていましょうなどと言われて二度寝をしたばかりに思いっきり寝坊したかたらだった。
そう言えば、洋服の着替えがなかったと仕方なくイアンに用意してもらった、普段絶対に着ないようなネグリジェのまま部屋を出る。

「イアンのせいで遅刻じゃない!どうしてくれるのよっ」
「涼さん、おはようございます。どうしたんですか?そんなに慌てて」
「慌ててじゃないわよ。なんで起こしてくれなかったの?会社に遅刻しちゃうじゃない!まだ入社したばかりの新人なのに…『今度は寝坊かね?』なんて、また課長に怒られちゃうわ…」

のんきなイアンに今更ジタバタしても遅いかぁ〜と涼は、ソファーにどっかと腰掛けた。

「涼さんは、会社に行く必要はないんですよ」
「ほえ?」

会社に行く必要がない?
あっそっか、あたしはイアンのお世話をするんだものね。
でも、会社に行かなくていいってどういうこと?!

「涼さんには私の世話をしてもらいますから、当分の間は会社に行かなくてもいいんですよ」
「でも、イアンはどこで仕事をしているの?」
「私はここで全ての仕事をするようにしていますから、涼さんもここにいていいんですよ」

あぁ、そういうこと?
なんだ、会社に行かなくってもいいんだ。
早く言ってよ、また課長に怒られるって思ったじゃない。

「そうなの?」
「はい。それより、朝食にしましょうか。あと着替えは適当に用意しましたが、足りなかったら言ってください」

と手で指し示された先には、有名ブランド店の名が刻まれた箱の山。
あぁ、また?と思いつつも、ほんとどこまでお金持ちなのかしらね?
取り敢えず、一番上にあった箱の中から取り出したブラウスとスカートに着替える。
イアンの趣味なのか、店の店員の趣味なのか、微妙に自分には似合わない上品な装い。
何も用意してきていないのだから、この際文句は言わないことにする。
ホテルの朝食は朝から豪華なものばかり、こんなものを毎日食べていたらブタにならないのかしら?と涼は思ったが、イアンの姿を見る限りではそうでもないのだろう。
それに一流ホテルだけど、イアンの入れてくれた紅茶の方が断然美味しいし。

「涼さん、あまり食欲がないのですか?」
「ううん、そんなことない。でも、こんなに食べたらブタになっちゃうなって。それにイアンの入れてくれた紅茶の方が、全然美味しいなって思ったから」

涼のことだから無意識に言葉に出しているのだろうけど、こんな可愛いことを言われてイアンが嬉しくないはずがない。
でもそれを素直に言葉に出せなくて、至って普通に返事を返す。

「そうですか?私には、変わらないと思いますが」
「そんなことない。香りも全然違うし、味だって」
「では、明日からは私が入れますよ」
「ほんと?でも、面倒よね」

イアンは、仕事だけでも大変なのに紅茶を入れたりなんて…本当ならあたしがその役を引き受けなければならなにのに…。

「面倒なことはありません。紅茶を入れることくらいなんでもありませんよ」
「そうだ、あたしにも教えてくれる?そうすれば、イアンにばかり手間を掛けさせることもないでしょ?」
「わかりました。では、後で時間の空いた時に一緒に入れましょう」
「うん」

なんだか仕事をしに来てるんだか、わからなくなってきたわね。
それでもイアンはうまくいっているって言ってたけど、信じていいのかしら?
あたしがここに居ることで迷惑をかけているのでは…。
ふとそう思ったけれど、イアンがあたしを見つめる目はそんなふうには感じられなかった。
それって、あたし、かなり自惚れてる?
でも、秀吉が言っていたけど、あたしはまだ狙われているのよね?ってことは、それがイアンに及ぶこともあるのでは…。
今も目の前でにっこりと微笑む彼は、そんな心配は無用だと言っているように思えるが…。
何事もなく、無事に仕事を進めて欲しいと願う涼だった。


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