Stay Girl Stay Pure
Story12
「涼さん、今夜もある企業の社長就任のパーティーがありまして、出席をお願いしたいのですが」
「うん、いいけど…この前みたいなことになると迷惑かけちゃうから…」
イアンはたくさんの人達と会わなければいけないから、四六時中、涼と一緒にいるわけにもいかない。
かといってこの前のこともあるし、涼は今回行かない方がいいのではないだろうか?
「涼さんがいなければ、私が出席する意味がないんです。今度からは、リックにも同伴してもらうことにしました。ですから、私が離れる時は彼が涼さんの側にいますので」
「そう、なら…」
リックが側にいてくれるなら、安心かもしれない。
部屋で1人で待っていても、つまらないし。
「ドレスの方は、デパートから届くと思いますので、好きなものを選んでおいて下さい」
「うん。わかった」
―――でも、イアンはこんなに仕事ばかりしていて、身体は大丈夫なのかしら?
朝から夕方まではホテルの部屋でほとんど休みなくずっと仕事をして、夜はパーティーに出席する。
それから深夜までは海外との間でやり取りをしなければならないから、寝るのはかなり遅くなってしまう。
涼はイアンの仕事が終わるまで待っているけど、いつも最後まで起きていられなくてソファーでクッションを抱きしめてウトウトしている。
そして朝、目覚めるとイアンにしっかりとくっついて眠っているのだ。
あの日からそれは続いているが、彼がそれ以上手を出すようなことは決してない。
キスだって、朝晩の挨拶程度に額にするだけ…。
それを寂しいと思ってしまうのは、なぜだろうか?
よく考えてみれば、イアンが日本に滞在するのは3ケ月の間だけ、仕事がうまくいけばイギリスに帰ってしまうのだ。
なのに恋人になるという話自体、あり得ないことなのでは…。
別れが来るのを知っていながら、このままイアンのことを本気で好きになってしまったら…。
+++
デパートからいくつか届いたドレスの中から、イアン好みの淡い色合いの物を選ぶ。
サイズはこの前行った時に測っていたので、どれも涼の身体にぴったりだった。
「涼さん、すごく似合ってます」
「そう?この前も思ったけど、なんかあたしにはこういうのって似合わない気がする」
「そんなことないですよ。これでは、また人目を引いてしまいますね」
イアンは涼の姿を見て、またパーティーでみんなの注目を浴びてしまうなと思ったが、当の彼女は全くその意識がない。
秀吉が見たら、尚更だろう…。
そう思ったら無意識のうちにイアンは涼の腰に腕を回すと自分の胸に抱き寄せて、唇を重ねていた。
「…っん…」
それは、今までの彼からは想像できないくらい熱く激しいもので、涼は戸惑いを隠せなかったが、段々と慣らされていって最後にはそれに応えるように彼の背に腕を回していた。
「パーティーになんか行かないで、涼さんとこのままずっとこうしていたいくらいです」
名残惜しむようにイアンは唇を離したが、それでも頬と頬は触れたままだった。
「イアン?」
「すみません。あまりに涼さんが、可愛らしいので…つい」
「ねぇ。イアンは、あたしのこと―――」
「好きなの?」そう聞こうとして、涼は言葉を途中で止めた。
答えを聞くのが怖かったから。
「好きですよ」
「え?」
「どうしようもないくらいに…」
初めてイアンは、涼への想いをロにした。
自分の気持ちがよくわからなかったのだが、秀吉のことを考えたらそれが一気に噴出したのだ。
完全な嫉妬だった。
ただでさえ、大事な彼女を助けてもらったという恩がある。
温厚なイアンが、なぜ秀吉にだけ態度が違うのか…それは、彼がイアンにないものを持っているからだった。
自由奔放で、自分の気持ちを素直に言える。
そう難しくないように思えることが、どうしてもイアンにはできなかった。
大企業のトップを背負っていかなければならないということ、それは生まれた時から決まっていたことで、小さい時から大人でなければならなかった。
どこかで我慢するということが、身に付いていたのかもしれない。
それが、今回だけは違っていた。
涼だけは、誰にも渡したくない。
「涼さんは、私のことを好きとかそういう気持ちはまだないですよね」
これについてはどう答えていいか、涼にはわからなかった。
イアンのことは、もちろん嫌いじゃない。
キスされるのも、一緒に眠るのも嫌じゃないから。
でも好きかという明確な気持ちは、まだ涼の中に存在していないように思う。
「好きになっては、もらえませんか?」
「でも…イアンは、3カ月経ったらイギリスに帰っちゃうんでしょ?なのに好きになんて…」
「忘れてしまったんですか?私は、涼さんの側にいると言ったことを」
「絶対、あたしの側からいなくなったりしない?」
「しませんよ。約束します」
イアンは、小さく頷くと再び涼を抱き締めた。
「もう、時間ですね。リックが、そろそろ呼びに来る頃です」
その直後に部屋のブザーが鳴った。
まるで、どこかで見ていたかのようなグッドタイミングに涼は思わず笑みを漏らす。
「イアンったら、まるで見ていたみたい。一体、目がいくつ付いてるの?」
「目は二つですが、でもリックの行動はわかるんですよ。さぁ、行きましょう」
涼はしっかりとイアンに寄り添って、部屋を出た。
◇
今夜のパーティーは、前回と同じかそれ以上に華やかだったが、イアンは片時も涼から離れることはなかった。
これじゃぁ、リックが一緒に来た意味がなかったんじゃないかと思うくらい。
「涼さん、踊りませんか?」
「えぇ?!」
どうやら、これから始まろうとしているのはダンスタイムとでもいうのだろうか?
楽器を手にした女性は白いブラウスに黒のロングスカート姿、男性はタキシードを着用した人達が入って来た。
しかし、涼はダンスなど踊ったことはない。
踊れるとすれば、せいぜい盆踊りくらいである。
「無理無理、絶対無理!あたし、ダンスなんて踊ったことないもの」
「私に任せてください」
「でも…」
「ほら、行きましょう」
涼の言葉など無視してイアンは、ホールの中央に歩いて行く。
―――やだっ、みんな見てるじゃない。
何組かのカップルは、イアンと涼のように中央に出てきていたが、他の人達はギャラリーと化して周りで見ているだけ。
もし、こんなところでイアンに恥をかかせるようなことになったら、それこそ大変なことになる。
「イアン、やっぱりやめよう?あたしには、無理だって…うわぁっ」
楽団の演奏が始まって、イアンが涼の腕と腰を取ると踊りだす。
こうなってしまったら、途中で投げ出すわけにもいかない…。
曲がスローなものだったのでかろうじてイアンについていけたが、危うく彼の足を踏みそうになった。
「涼さん、じょうずですね」
「そっ、そんなこと…ないっ…」
イアンに耳元で囁かれるように言われたが、涼にとってはそれどころではない。
そんな涼がイアンには可愛らしくて、周りに見られていることも忘れて頬にくちづける。
気持ちを口にしてしまった今、イアンには抑えるすべはなかった。
不意の行動に抗議と共に顔を赤らめた涼が尚愛しくて、イアンは暫くの間彼女を離すことができなかった。
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