Stay Girl Stay Pure
Story13
それからというもの、イアンは常に涼と一緒だった。
彼はほとんど仕事ばかりしていたけれど、それでも空いている時間があれば涼を外に連れ出してくれた。
「涼さん、今日はどこに行きましょうか?」
「そんなに出掛けてばかりじゃ、イアンが疲れちゃうでしょ?」
「でも…ホテルの中ばかりでは、つまらないのでは」
確かにね、一日中ここにいてもすることないって言えばないんだけど…。
だからって、出掛けてばかりじゃイアンの身体がもたないでしょ?
「そうだ。家に行かない?」
「家と言うのは、涼さんのご自宅という意味ですか?」
「うん、家でパーティーしよう。凛ちゃんもメールを出したら休みだって言ってたし、俊ちゃんやじゅんさん も呼んでパーっとね。でも、言っておくけどイアンに連れて行ってもらうような豪華のものじゃないから」
涼が自宅にいた頃は、週末となれば仲のいい友人を招いてホームパーティーを開いていた。
それ程広い庭ではないけれど、外にテーブルと椅子を用意してバーベキューとかね。
じゅんさんが即席のカウンターでカクテルを作ってくれたり、俊ちゃんがギターの弾き語りをやってくれたり、すっごく楽しいのよ。
季節もいいし、そうだっ!秀吉も呼ばなきゃ。
あの時のお礼もしていなかったし。
「いいんですか?」
「もちろん。あと秀吉を呼んでもらってもいい?会う約束をしたのにずっとそのままだったから。 それにお礼もまだでしょ?」
「秀吉…ですか…」
涼の口から秀吉という言葉が出てきて、イアンの顔は一瞬曇る。
「ダメ?」
「ダメということはありませんが…」
「じゃあ、OKね。やった−、なんかすっごく楽しみ」
喜んでいる涼に反して、イアンは少しだけ憂鬱だったが、そんなイアンに気づくはずのない涼は姉の凛にメールを入れるとすぐに返事が返ってきた。
THE JUNEも日曜日はお休みなので、じゅんさんやそこでバイトをしている俊ちゃんもみんな喜んで集 まってくれるという話。
「涼さん。少し遅れるそうですが、秀吉も来るそうです」
「ほんと?」
「はい…」
「イアン?」
あまり乗り気でないのか、イアンの返事はとても曖昧なものだった。
「ごめんね。イアンは、こういうの好きじゃなかった?」
「そんなことはありませんよ」
「でも…なんかイアン、乗り気じゃなさそうなんだもの」
「いえ、そういうことではないんです。ただ…」
「だた?」
なんだかいつもと違う歯切れの悪さに、涼は益々迷惑だったのではないかと思ってしまう。
「秀吉も来るのだと思うと」
秀吉が来るとマズイのだろうか?
そう言えば、涼が何者かに連れ去られて秀吉に助けられた時、そこに迎えに来たイアンの彼に対する口調が今まで聞いたことがないくらいきつかった。
秀吉とイアンは親戚なのにどうして?とその時思ったのだった。
「イアンは、秀吉のことが好きじゃないの?」
「好きじゃないというか、はっきり言いますと嫌いですね」
「え?」
あまりにはっきり言い切るイアンに正直驚いてしまう。
イアンは、とても温厚で口調も優しい。
そんな人が、彼を嫌いだとはっきり言うなんて…。
「どうして?イアンは、秀吉のことが嫌いなの?」
聞いていいものかどうか迷ったが、なぜだか涼はその理由が知りたかった。
「なぜでしょう。自分にないものを持っているからでしようか?」
「自分にないもの?」
涼にしてみれば、イアンこそ持っていないものなど何もないように思えた。
容姿も地位も申し分ないはず。
なのに秀吉は、イアンが持っていないものを持っているというのだろうか?
「そうです。思ったことを自由に言えて、何でも好きなようにすることができる」
「イアンだって、そうじゃないの?」
「私ですか?確かにお金の面ではそうかもしれませんね。でも、立場的なものから自由なことは言えませんし、代々受け継いだ今の会社を維持していかなければならないという使命があります」
そうだったの…。
言われてみれば、ゴージャスなホテルに泊まったり、パーティーに出席したりと一見華やかな世界に見えるから涼のような凡人は憧れるけれど、当人にしてみればそうはいかない。
パーティーだって仕事のためだし、CEOという立場から言いたいことも言えず、生まれた時から将来の道は決まっていたに違いない。
涼はよく知らないが、イアンの言い方だと秀吉はそこまで束縛されてはないのだろう。
「でも、秀吉はあたしのことを助けてくれたのよ?もしかしたら、自分も危ない目に合ったかもしれないのに…それに彼は、あたしがイアンと一緒にいることも知ってたもの」
秀吉は多分、イアンが彼のことをよく思っていないこともわかっているはずで、それを全部知っていて涼を助けてくれたのだ。
「わかっています。涼さんを助けてくれたことは、とても感謝していますよ」
イアンだってそれはそれ、割り切っているつもりだった。
しかし、彼はイアンから涼を奪おうとしている。
あの時は諦めたように見えたが、実際は違う。
涼だけは、譲れない。
今までどんなことにも従ってきたが、涼だけは…。
例え全てを捨てることになっても、彼女だけは絶対誰にも渡さない。
イアンは、そこまで考えてふと我に返る。
―――私が、こんなことを思うなんて…。
自分にないものを持っている秀吉が、確かに羨ましいと思ってきた。
それで彼を嫌いになったことは事実だが、だからといってそれを変えたいと思ったことは一度だってなかったのだ。
仕方がないと諦める反面、それでいいと思う自分がいた。
なのに今は、涼さえいてくれれば全てを捨ててもいいと思っている―――人間変われば変わるものだ。
こんな自分を秀吉に知られたくないという部分もある。
だから、できるだけ顔を合わせたくはなかった。
「あたしは、イアンと秀吉が仲良くしてくれればいいなって思う」
「え?」
「だって、絶対似てるもん。イアンと秀吉って」
「秀吉と私がですか?」
それを聞いて意外だという顔のイアン。
秀吉はハーフなんだけど、血が繋がっているだけ、どことなく似ているのは確かだが…。
自由奔放に生きる秀吉と決められた道筋を歩くイアンでは、接点などないように思える。
「まぁ、親戚なんだから外見が似てるのは、当たり前よね。でもそれだけじゃなくて、何だろう全然違う二人のように見えるけど、本当は同じような気がする。そんな二人が組んだら、きっと何でもできちゃうってあたしは思うな」
涼に言われるとなんとなくそう思えてくるから不思議だった。
イアンだって彼を認めている部分もあったわけだし、単にそれを素直に受け入れられないだけ。
「涼さんには、敵わないですね」
さっきまでの憂鬱な気持ちは、どこかへ飛んでいってしまった。
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