Stay Girl Stay Pure
Story14
自分の家に帰るのは、どれくらいぶりだろう?
実際は、それ程経っていないはずなのに何年も帰っていないような気になってしまう。
「家、小さいでしょ?」
世間一般で言えば涼の家は結構というか、かなり大きい方だと思う。
祖父の代からずっと住んでいる家だったが、10年程前に立て直していたので外観はわりと新しい。
父親の仕事上、自宅でミニコンサートのようなこともできるようにと防音設備の整った小さいけれどホールも備えてあるし、ホームパーティーをすることも多いからリビングもそれなりに広い。
しかし、イアンから見れば、どんなlこ大きな家でも小さく思えてしまうに違いない。
「いえ、そんなことはありませんよ」
確かにイギリスにあるイアンの家は、いわゆる城と呼ばれるものだから大きいのは当たり前なのだが、そういうことよりもここが涼の育った家なのだといことの方が、イアンには感慨深いものがあった。
「もう俊ちゃんは、来ているみたい」
玄関先に止めてあった軽自動車は、俊太郎のもの。
中に入ると涼は、いつものように大きな声で叫ぶ。
「ただいまっ〜」
これくらい大きな声で叫ばないと誰も気付いてくれないからと、涼は小さい時から家に帰ると第一声がこれになっていた。
それがイアンには可笑しかったようで…。
例のごとく、クスクスと笑っている。
「もうっ、イアン笑わないでよ!」
「すみません。あまりに涼さんが可愛らしいので、つい…」
「そういうこと言っても、ダメなんだからっ」
今の涼が何を言ってもイアンには可愛く見えてしまうのだから、どうしようもない。
恥ずかしかったのか、頬を赤らめた涼のそこにすかさずキスを贈る。
その行動に側にいたリックも、視線をどこへもっていっていいものやら…。
「イアンったらっ!!」
「どうしたの?涼ちゃん」
そんなところに涼の声を聞いて、凛と俊太郎が玄関までやって来た。
少し興奮した様子の涼とニコニコと微笑むイアンの間に一体何があったのか?!
「凛ちゃんっ」
イアンにひとこと言いたいところだったが、それよりも凛に会えたことの方が涼には嬉しかったようだ。
それが、ちょっとだけ寂しいと思ってしまうイアンだった。
「涼ちゃん、元気だった?」
「うん、元気だったよ」
ものすごく離れて暮らしているわけでもなく、会おうと思えばいつでも会えたし、メールのやり取りも頻繁にやっていたのにとても懐かしく感じる。
「4人とも玄関じゃなんだから、中に入ったら?」
「俊ちゃんったら、自分の家みたいね」
一緒にいた俊太郎が、まるで自分の家のような言い方に素早く凛が突っ込みを入れる。
「やっぱり?」とか言いながら髪をかき上げる彼は、まだ二十歳そこそこの大学生。
年上の凛には、頭が上がらないのかもしれない。
「そうね。イアンさんも、リックさんもどうぞ中へ入ってください」
「はい。その前にこれを皆さんで、口に合うかどうかわかりませんが」
大事そうに持っていたリックからイアンが受け取ったのは、わりと大き目の縦に長い四角い箱。
「お気使いなく、涼ちゃんがお世話になっているのに」
「いいえ、ご迷惑をおかけしているのはこちらの方ですから」
親同士の会話のようになっていたが、涼はその中身がとても気になる様子。
「イアン、それなぁに?」
「これですか?ドン・ペリニョンですよ」
「ドン・ペリニョンって」
「「「ドン・ペリ〜?!」」」
やることが違うとは思ったけど、ドン・ペリとはね。
それもマグナムボトルとかいう通常の2倍サイズ。
庶民の口には到底入らない代物だわ。
取り敢えず、4人は家の中に入る。
凛と俊太郎が買い物に行ってくれたので、ある程度のものは揃っていた。
といっても火を通すだけなので、準備と言っても切るだけなのだが…。
じゅんは、30分ほどで着くとさっき連絡があったらしいが、秀吉はどうなんだろう?
「イアン、秀吉は?」
すっかり忘れていたイアンだったが、彼からの連絡は今のところ特にない。
「特に連絡はありませんから、来ると思いますよ。彼は、時間に正確なので」
「そう、ならいいんだけど」
涼は、この場でイアンと秀吉が仲良くしてくれればいいなと思っていたので、彼が来ないなんてことにならないかちょっとだけ心配だった。
「涼ちゃん、秀吉さんって誰なの?」
「そっか、凛ちゃんには言ってなかったんだ。あのね、あたしが連れて行かれたところを助けてくれた人で、イアンの従兄弟なの」
「あら、そんな大事な人がいたなんて。ちゃんとお礼を言わなきゃ」
凛がハワイから戻った時には、既に涼は戻って来ていた後だったのとてっきりイアンが助けたものとばかり思っていたのだ。
それが、イアンの従兄弟だったとは…。
そんな時に玄関のブザーが鳴った。
「きっと、じゅんさんだな」
俊太郎が、玄関に出迎えに行ってくれた。
「じゃあ、涼ちゃん。手伝ってもらっていい?」
「うん」
「では、私も」
その間に凛と涼の二人で準備をしようとしたのだが、イアンが自分も手伝うと言ってシャツの袖口のボタンを外し始めた。
「え?イアンは、お客様でしょ?そんなことしなくてもいいのよ」
「そうですよ」
「いいえ、こういうのは男性がするものですから」
外国では男性がもてなす、確かにそんなことは聞くかもしれないが…。
だけど…本来ならものすごく偉い人なのよ?イアンは。
そんな人に炭を熾す(おこ)したりなんて、させられないわよね?
「でも、俊ちゃんもいるし」
「大丈夫、任せてください」
イアンはひとり庭に出ると慣れた手つきで用意してあった炭に火を熾し始めた。
凛と涼とでそんな彼の姿を眺めているところへじゅんを迎えに出た俊太郎が戻って来た。
「じゅんさん、いらっしゃい」
「こんにちは、凛ちゃん涼ちゃん。今日は、お招きありがとう。えっと今、外で彼に会ったんだけど」
「よぉ、久しぶり」
じゅんの背後からひょっこり顔を出したのは、秀吉だった。
「あっ、秀吉。来てくれないかと思った」
「色々野暮用があってな。ところで、イアンはどうしたんだ?」
周りを見てもイアンの姿はない。
大事な涼を置いて、一体どこに行ったのか?
「イアンなら、庭にいるわよ」
「庭??」
秀吉は、涼の視線の先にいるイアンを見て驚いた。
イアンが庭で、なにやらやっている。
じゅんは店からカクテルを作るための道具を持って来ていたので、俊太郎がそれを庭に運んでいるところだったが、炭を熾しつつそれを手伝っていたのだ。
いいところのお坊ちゃまで何もできないとばかり思っていた秀吉だったが、目の前にいる彼は全くそんなふうに見えない。
―――あのイアンがねえ。
涼を抱きしめた時の彼といい、今といい、秀吉が知らないイアンの一面を知った気がした。
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