Stay Girl Stay Pure
Story15
「俺さ、イアンがあんなことやってるの初めて見たよ。でも、意外に様になってるなあ」
「こういうのは男性がするものだからって、言ってたけど」
「ふううん」
「秀吉も一緒に手伝ってよ」
「はぁ?俺は、お客様じゃないのかよ」
招待されたのだから何もしなくてもいいと思っていた秀吉だったが、どうもそうではないらしい。
「うちはイアンや秀吉みたいなお金持ちじゃないわよ。それにせっかくだもの、イアンと話したら?」
「何で、あいつと」
「じゃあ、何で来てくれたの?」
「それは、涼が誘ったから…」
「でも、イアンから連絡をもらったんでしょ?」
「そうだけどさぁ…」と秀吉の声が、段々小さくなってしまう。
確かに今日のことは、イアンからの直接の電話だった。
通常ならリックを通してすることだろうし、まして秀吉のことを避けているイアンがいくら涼に頼まれたとはいえ、電話を掛けてきたことにひどく驚いたのは事実。
「イアンだって、秀吉と話したいんだと思うけどなぁ」
「あいつが俺と?」
いつだって全部ひとりで抱えてしまい、誰の手も借りようとしない。
涼が連れ去られた時も秀吉に声を掛ければすぐに解決できたはずなのに手間取ってしまった。
結果的には、その場をたまたま通りかかった秀吉が、涼を救ったのだけれど…。
「涼ちゃんも秀吉さんも話してないで、手伝ってよぉ」
いつの間にか庭に出ていた凛の秀吉と涼を呼ぶ声が聞こえる。
ついつい話しに夢中になってしまい、すっかり他のみんなに準備を任せっぱなしだった。
「は〜い。ごめんね、凛ちゃん」
そう返事を返すと秀吉は「それでもまだ俺はお客様なのに…仕方ないな」って、渋々来ていたジャケットを脱ぐとイアンと同じようにシャツの袖を捲くった。
大きな木製のテーブルを庭の真ん中に置いて、ギンガムチェックのクロスを掛ける。
その横には小さなカウンターとじゅんが店から持って来た色々なお酒を並べると、庭園パブのできあがり。
そして、最後に涼お得意のアレを用意すれば準備OK。
「涼さん、これはなんですか?」
「これ?イアン、たこ焼き食べたことないの?」
「たこ焼き、ですか??」
ホテルのルームサービスや一流レストランでの食事がほとんどのイアンには、この丸い食べ物など見るのも初めてだった。
「そっか、イアンはたこ焼きを食ったことないんだな」
「そういう秀吉は、あるんですか?」
「そりゃあるだろ。これでも俺は、日本人なんだから」
―――たこ焼きを食べたことがあるくらいで、この自慢げな態度はなんなのかしら?
だいたい、イアンはイギリス人なんだからね?
涼もみんなも小さく笑いが洩れる。
しかし、たこ焼きをきっかけにして、二人の会話が始まったようだからヨシとしよう。
「じゃあ、作ったことは?」
「こんなもん、自分で作るもんじゃないだろうが」
「そんなことないわよ?関西の家庭では、マイ・たこ焼き器が家にあるもの」
「あぁ?」
秀吉の素性はよくわからないが、一度だけ行った彼の家やイアンの親戚だということから相当なお坊ちゃまなのだろう。
「そうだ!イアンと秀吉のどっちが上手くできるか勝負して?」
「はぁ?」「え?」
これまた、とんでもないことを涼が言い出したなと二人は思ったが、既にギャラリーは集まっていた。
特にリックは、普段絶対に見られない光景に興味津々という様子だし。
「勝った人は、何かもらえるの?」
「だったら、負けた人には罰ゲーム」
すっかり盛り上がっている涼と俊太郎。
―――そうよね?こういうゲームには、商品はつきもの。
だけど、何がいいかしらねぇ…。
「勝った人には、涼ちゃんのキス!」
「うぇっ?!ちょっ、じゅんさん何をっ」
「それ、賛成っ」
「俺も」
「私も」
あのねえ…俊ちゃんはまだしも、リックまでってどうなのよ…。
「おっしゃっ、その勝負乗った!!」
「秀吉ったらっ」
自分から言い出したことだったけど、まさかこんな展開になるとは…。
予想もしていなかった涼は、ガックリと肩を落とす。
―――だいたい、何で秀吉はそんなに嬉しそうなわけ?
ふと視線を上げると、複雑な表情を浮かべるイアンと目が合った。
「イアンさんは、どうします?この勝負受けますか?」
凛の質問にイアンは少し考えていたが、遊びだとわかっていてもここで勝負を受けないわけにはいかないだろう。
相手が秀吉となれば、尚更のこと。
「わかりました」
「イアンまでぇ…」
この場はこう答えるしかないにしても、涼の身にもなって欲しい。
イアンが勝ってくれれば何も問題ないが、もし秀吉が勝ったりしたら…。
「で、負けた人の罰ゲームは?」
「そうねえ。じゅんさん、後片付けなんてどう?」
「賛成。どうせ片付けるのは女性陣になっちゃうものね」
俊太郎が言わなければすっかり罰ゲームのことを忘れるところだったが、準備するのはいいが後片付けをしてもらえるなら女性陣にとってはありがたいことだった。
「ねえ、イアン。大丈夫?」
「大丈夫と言われましても…こればかりは、やってみないことには」
そこそこ何でもできるイアンであっても、これは難しい。
涼が手本に作ってみたが、彼にはどうすればあんなふうにクルっとひっくり返せるのかがわからない。
ただ、涼が秀吉にキスする姿だけは見たくないそれだけだった。
「えっと、では制限時間は30分。上手くできた方を勝者とします」
俊太郎の「スタート!」の言葉を合図に二人は小麦粉を溶かしたものを型に流し、小さく刻んだたこを入れていく。
なんとなく、秀吉の方が手つきが慣れているようにも思えるが…。
そこまではなんとかできるものの、ようは綺麗に丸くなるかどうか。
大の男がこの姿というのはかなりの見物、イアンに限っては正真正銘外国人で、秀吉は日本人だがハーフである。
「ねぇ、涼ちゃんはどっちに勝って欲しいと思う?」
「やっぱり、イアンさんよね?」
凛もじゅんも涼の気持ちはわかっているのだが、イジワルな質問だと思いつつ、やはり聞かずにはいられない。
「うん…」
「そっか。涼ちゃんは、イアンさんが好きなのね?」
「でも、秀吉さんも涼ちゃんのこと好きみたい。モテモテねぇ、涼ちゃん」
果たして涼のキスをもらえるのは、イアンなのか秀吉なのか?
恋の勝者は、さあ、どっち!!
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