Stay Girl Stay Pure
Story18
現状何が起きているのかわからない涼は、取り敢えず戻って待つしかないとひとり部屋に帰る。
―――でもさっきリックさんは、あたしに向かって『誰かに連れ去られたのでは、ないんですか?』って聞いたけど、あれってどういうことかしら?
心配しながら暫く待っていると、電話が鳴った。
「もしもし、リック?」
『涼か?俺だよ、秀吉』
「秀吉?」
てっきり、リックからの電話だと思った涼は、相手が秀吉だと知って驚きもあったが、この状況で頼れるのは彼しかいなかったのだと今になって気付いた。
「秀吉っ、あのね」
『イアンのことなら心配するな。今からリックとそっちに行くから、絶対部屋から出るなよ?』
「秀吉はリックと一緒なの?心配するなって、イアンに一体何があったの?」
『詳しいことは、そっちで話すから』
そう言い残して、電話は切れた。
今の電話で秀吉とリックが一緒にいることはわかったが、イアンはどこに…。
心配するなと言われると余計心配になってきて、涼はソファーに浅く腰掛けると頭を抱えた。
20分ほど経った頃だろうか?部屋に秀吉とリックが入って来た。
「秀吉、リック」
「今度は、ちゃんと部屋にいたな」
嫌味とも取れる秀吉の言葉だったが、今はその話をしている場合じゃない。
「イアンはどうしたの?何があったの?」
「落ち着けって、言う方が無理か」
秀吉は、空いているソファーに腰を下ろすとゆっくり話し始めた。
「涼を狙ったやつらが、今度はイアンをターゲットにしたんだ」
「え?じゃあ、イアンはその人達に連れて行かれたの?」
「連れて行かれたっていうか、正しくは連れ出されたかな。コンビニに行っている間に涼を預かっていると嘘の電話を掛けてきて、イアンを誘い出したんだよ」
―――そうだったの?あたしが、勝手に出掛けたりしたからイアンがこんなことに…。
「言っとくけど涼のせいじゃない。これは、仕方がないことなんだ。遅かれ早かれ、こういうことになっていたはずだから」
秀吉には、涼が言おうとしてることがわかったのか、そうではないのだということを先に言ってしまう。
「でも…あたしが、ひとりで外に出掛けたりしなければこんなことには…」
「涼さんを黙って行かせた責任は、私にもあります」
「今は、責任とかそういうことを言ってもしょうがないだろう?GPSを持って行ったのは、正解だったな。ある程度、居場所は特定できると思うんだ」
秀吉の言うように今ここで、自分が悪いと責めても仕方がない、それよりイアンを助けることが先決だろう。
「そうね。で、場所はわかったの?」
「それを今から調ぺるところ」
リックはどこからかシルバーのアタッシュケースを持って来てそれを開けると、そこには小さなモニターのようなものが付いていた。
さながら、スパイものの映画を見ているようだ。
横に付いているスイッチを入れると、地図が表示されて赤い×印が点滅している。
動いている様子はないので、恐らく目的の場所に着いたのかもしれない。
「ここは、どこだ?」
「はい。今、拡大してみますので」
「なんか、妙にせせこましい所だな」
「そうですね。住宅街のようですが」
拡大画像では小さな四角がたくさん並んでいるのが見えるが、どうやらそれは住宅だったようだ。
「住宅街か」
「怪しまれないようにそういう場所を指定したのでしょうか?」
「そう考えるのが、妥当だろうな」
相手はどういう人物かわからないが、住宅街ならあまり人目につかないし、怪しまれることもないと思ったのだろう。
「イアンは、そこにいるんでしょ?早く助けに行かないと」
「まあ、そう焦るなって」
秀吉は、焦る涼の肩を落ち着かせる意味で、ポンっと軽く叩く。
「ところでリック、イアンはマイクロフィルムを持って行ったのか?」
「いえ、あれはここにはありませんから」
「ということは、イアンが危ないかもしれないな」
マイクロフィルムって、何?イアンが危ないって…。
涼には、秀吉とリックの会話が全く見えない。
「ねぇ。マイクロフィルムって、イアンが危ないってどういうこと?全然わからないんだけど」
「あぁ、詳しい話はできないんだけど、あいつらが欲しいのはマイクロフィルムに収められた情報なんだよ。多分、涼を人質にそれを奪うつもりだったんだろう。でも、イアンがそれを持っていかなかったということになると少し厄介かもしれない」
マイクロフィルムをイアンが持っていないことを知った相手が、どう出るか?
すぐにイアンに対してどうこうということはないだろうが、次はイアンを人質にフィルムを持って来るよう要求するのは、ほぼ間違いない。
「居場所はわかったからリック、誰か監視役の人間を出してくれ。俺の方で、なんとかして黒幕を突き止めるから」
「はい、わかりました」
リックはどこかに電話を掛けると急いで部屋を出て行った。
「秀吉、あたしはどうすればいいの?」
何かしたいという思いはあるものの、何もすることができないことが無性に歯がゆい。
「涼は、何もしなくていい。ただ、イアンが帰ってきた時に笑顔で迎えさえすれば」
「何もって…あたしは、イアンのために何もしてあげることができないの?」
今にも泣き出してしまいそうな涼の肩を秀吉は、そっと抱き寄せる。
本当なら思いっきり抱きしめてあげたいところだが、この状況とはいえ許されることではない。
それができるのは、イアンただひとりだけだから。
「大丈夫、俺が必ずイアンを助ける」
「信じていいの?」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってるんだ?」
秀吉は偉そうに言うと、涼のおでこを指でデコピンする。
―――ところで、秀吉は何をしている人なのかしら?
あたしを助けてくれた時もホテルの前を偶然通りかかったとか言ってたけど…。
「秀吉は、何者なの?」
「俺か?さぁ、何者でしよう?」
「もうっ、ちゃかさないでっ!」
わざとおちゃらけたように言う秀吉に、こんな時だけどちょっとだけ腹が立つ。
―――でも、本当に何者なのかしら?
お金持ちだっていうことはわかるんだけど、イアンのように会社経営をしているようには見えないし…。
さっきも『俺の方で、なんとかして黒幕を突き止めるから』って、もしかして警察の偉い人とかなの?
「ここで言ってもいいんだけどさ。今知ったら、つまらないだろう?イアンが帰ってきたら、わかるから」
結局、秀吉が何者なのかはわからなかったけど、きっとイアンを助けてくれる。
そう、信じるしかない涼だった。
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