Stay Girl Stay Pure
Story4


どれくらい、走っていたのだろうか?
静かにリムジンが止まり、扉が開く。
降りていいものか、判断がつかないでいるとイアンにニッコリと微笑まれて降りるようにという仕草をされ、あたしはゆっくりと車から出た。

「はぁ?えっ、ここ…」

そこは、高級な品々が揃うことで有名なデパートの前。
なんで、デパートなのよ?
いきなり連れて来られた先が、まさかデパー卜だとは思わなかった。
既にあたし達が来ることがわかっていたのか、ビシッと決めたスーツ姿の偉そうなオジ様が待っていて、専用のエレベーターに乗り込むとVIPルームのような部屋に案内された。
テレビで見たことがある、ここは超お得意様だけが入れるという場所に違いない。
だけど、こんなところになんであたしが?!

「この女性に似合う、ドレスをお願いします」

「可愛らしいのが、いいかな?」とか言うイアンのひと言でさっきのオジ様が、近くにいた女性店員に指示を出す。
ちょっと待って、ドレスって何?!

「ねぇ、イアン。ドレスって?」

ドレスなどを用意して、一体これから何が始まると言うのだろうか…。

「今夜、パーティーがあるんですよ」
「パーティー???」

まあ、すごい会社のCEOなんだから、パーティーの一つやニつくらいあって当たり前だろうけど…。
待って、まさかドレスってことは、あたしにも一緒に行ってくれとか言うんじやないでしょうねぇ?

「まさか…あたしも一緒になんて、言わないでしょうね?」
「もちろん。そのためにここに来たのですからね」

もちろんって…。
簡単に言うけど、あたしは自慢じゃないが、パーティーなんてものに出たことなんてないんだからね。
そんなこと急に言われても、絶対無理!!

「絶対無理っ!!あたし、そんなの行かないからっ」

仕事だってわかってるけど…子供が駄々をこねているみたいだって言われても、嫌なものは嫌なのよ。
だいいち、あたしは課長にイアンのお世話をするように言われてきたのよ?なのになんで、パーティーなんぞに出なきゃならないのよっ!

「そんな、堅苦しく考える必要はありませんよ。取引先の主催する、気楽なものですから。それに私の側に居てくれさえすれば、何も心配することはありません」
「堅苦しく考える必要ないって言うけど、こんなところでドレスを用意しなければならないようなパーティーなんでしょ?だったら、気楽なものなんてあり得ないじゃない。だいたい、なんであたしみたいなのが、そんなところに行かなきゃならないのよ」

そうよ、そうよね。
ドレスを着ていかなければならないようなパーティーに、気楽も何もあったもんじゃないわよ。
あたしは、興奮気味に一気に思っていることを吐き出すと頭の上からイアンのクスクスと笑う声が聞こえる。
あぁ、またいつもの質問攻めが可笑しかったのね。
もう慣れちゃったからどうってことないけど、それにしても意外にこの人笑い上戸?!

「わかりました。涼さんのご質問にはお答えしますが、その前に取り敢えずドレスを選んでからにしましょう」

『だ・か・ら、ドレスはいらないんだってっ!』というあたしの心の言葉なんて届くはずもなく、イアンが一目で気に入ったらしい、可愛らしいサーモンピンクのワンピースに身を纏っていた。

+++

そして、再びリムジンに乗り込むとどこへ行くともなく走り出す。

「さっきの質問の答えですが。ドレスを用意しなければならないのは、一般的なマナーというものだからです。それは涼さんが、何か特別なことをしなければならないとかそういうことではありません。それにパーティーというものは、大抵女性同伴なんですよ。生憎、私には日本での女性の知り合いはおりませんし、涼さんのような明るくて可愛らしい女性と一緒なら気分の乗らないパーティーも、きっと楽しいものに変わる。そう思ったからなんです」

涼には詳しいことはわからないが、パーティーに女性同伴はつきものらしい。
その方が、ビジネス的に見てもうまくいくことが多いらしいのだが、だからといってなぜその相手が自分なのか?
『明るくて可愛らしい』などと言われて、急に顔が熱くなる。
生まれてこのかた22年、そんなことを言われたことは今の今まで一度もない。
まぁ、外人だからそういう褒め言葉を言うのは慣れているのだろうけど…。
しかし、そういう大事な場なら尚更、あたしみたいなド素人よりも、英語も容姿も完璧な女性を選んだ方がいいのではないのかしら?

「でも、素人のあたしがそんな大事なパーティーに出て、もしもイアンに迷惑をかけたら…」
「それも、心配要りません。とにかく、私の側から離れないでいてくれれば大丈夫ですよ」

「今日のパーティーは、有名なシェフとパティシエが腕を振るいますよ」のひと言で、あたしはパーティーなんていう大層なものに出席することになってしまった。
食意地が張ってるって言われても、仕方ないわね?だって美味しいものと甘いものには、目がないんだもの。

しかし、イアンが言った『とにかく、私の側から離れないでいてくれれば大丈夫ですよ』の言葉をすっかり忘れてしまったあたしは、後でとんでもないことになるとはこの時思いもしなかった。


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