Stay Girl Stay Pure
Story8


「リック。涼さんは、秀吉のところにいるっていうのか?」
「恐らく、そうだと思います」
「どうして、秀吉が…」

パーティー嫌いのイアンがワールド・バンクの創立記念パーティーに出席していることをどこで聞きつけたかは知らないが、なぜ彼が涼を保護してくれたのだろうか?

「その辺の経緯はよくわかりませんが、それより涼さまをどうされますか?」
「そうだな。まぁ、あいつが涼さんにどうこうするとは思えないが、このままっていうわけにもいかないだろう。すぐに車を用意してくれ」
「わかりました」

リックはすぐに車を呼ぶとイアンを乗せて、涼のいるであろう秀吉の元へと走らせた。

+++

「ねぇ。秀吉は、イアンとどういう関係なの?」

すっかりお腹も一杯になった涼は、気になっていた秀吉とイアンの関係について聞いてみる。
秀吉はハーフのようだけど、よ〜く見ればイアンと似ていなくもない…。

「俺とイアンが、似てるって思っただろう?いわゆる、従兄弟ってやつだよ」
「従兄弟?」
「あぁ。イアンの父親の妹が俺の母親で、親父は日本人だからこの顔でこんな名前がついてんだよ」

なるほど、だからどことなく似てたのね。
それより何であたしは、誘拐なんかされたのかしら?

「あたし、どうして誘拐なんてされたの?」
「そうだな、まずそっちを説明しておかないといけなかった。イアンは、今回重要な契約を結ぶために来日したんだよ。このことについては、俺のロからは言えないんだけど。それを阻止しようっていうやつらがいて、あんたを連れ去ったってわけだ」

重要な契約の内容について涼にはさっぱりわからなかったけれど、それをよく思わない人間が涼を誘拐して阻止させようとしていたらしい。

「あいつらも命まで狙うつもりはなかっただろうが、ヘタをすれば大変なことになってたかもしれないんだぞ。日本人は危機感があまりないけど、むやみにドアを開けたらダメなんだ。たまたま俺がホテルの近くを通りかかったからいいようなものの、さっきお前スタイルよくないとかなんとか言ってたが、そんなことないぞ?可愛いからそれこそどこかに売り飛ばされてたかもしれないな」
「え?」

あの時はイアンが呼びに来たものだと思い込んでいたから、相手を確かめずにドアを開けてしまった。
ほとんど記憶もないし、助かったからいいようなものの、秀吉の言うように最悪の事態になっていたかもしれない。
でも、最後に言われた言葉に思わず涼は聞き返すが、それを誤魔化すように秀吉が話しを続ける。

「そろそろ、あいつが迎えに来る頃じゃないかな」
「あいつって、イアンのこと?」

と話しているのと同時に誰かが部屋をノックする。
秀吉がドアを開けると使用人なのか、そこには年配の女性が立っていた。

「思った通り、イアンがあんたを迎えに来たってさ」
「秀吉、助けてくれてありがとう」
「何、改まった言い方してんだよ。俺は別に…」
「でも、あたしを助けてくれたことに変わりはないでしょ」

もしかしたら、秀吉にだって危険が及んだかもしれない。
イアンが連れていたと知っていたからかもしれないが、それでも助けてくれたのだから、お礼を言うのは当然だと涼は思った。

「なぁ、また会えるか?」

秀吉自身、自分のロからこんな言葉が出てきたことに驚いた。
女にそれほど興味もないし、困ってもいない。
それなのに自分から、もう一度会いたいなどと思うとは…。

「うん。あたしも、改めてお礼がしたいから」

涼には秀吉の思っていることなど気付くはずもなく、素直にお礼がしたいからもう一度会いたいと言ったのだが…。
再びドアがノックされ、先ほどの女性がイアンを連れて来た。

「涼さん、大丈夫でしたか?怪我は?」

イアンは、部屋に入って来るなりそう言うと涼をぎゅっと抱きしめた。

「ちょっ、イアン?!」

いきなりのイアンの行動に涼は、どうしていいかわからない。
すぐそばにいた秀吉と後から付いて来たリックまでも、目の前の光景は想像すらしていないものだった。

「ごめんね、心配かけて。でも大丈夫、秀吉が助けてくれたから」
「そうですか、よかった…。涼さんに何もなくて」

イアンは、涼の存在を確かめるように頬に手を添えると額に軽くくちづける。
涼にしてみれば、イアンは外国人だからこうするのは普通なんだろうと顔を赤らめながらもそれを受け入れていたが、周りの二人は逢う。
女性が苦手なイアンが、事が事だからといっても人前での抱擁に額とはいえ、キスするなんて…。

「私が付いていながら、涼さんを危険な目に合わせてしまい申し訳ありません」
「もう、いいって。イアンが悪いんじゃないもの。あたしが、相手をよく確認しないでドアを開けたりしたから…」
「なぁ、お二人さん。俺達もいるんだし、愛の囁きなら他所でやってくれないか」

見るに見かねた秀吉が、間に割って入る。
さすがに彼とて、これ以上は見ていられない。

「そうでした。秀吉、涼さんを助けてくれてありがとう」
「まさか、イアンに礼を言われるとはな。そんなにそのお嬢さんが大事なのか?」

秀吉は、まさかイアンに礼を言われると思ってもみなかった。
話し口調からもわかるように秀吉とイアンの関係は、あまりいいものとは言えない。
それほどイアンにとって、この涼という子が大事だと言うのだろうか?

「涼さんを私のせいでこんな目に合わせてしまったのですから、それを助けてもらって礼を言うのは当然です。そして涼さんは、グループの大事な人材ですから」
「ふううん、大事な人材ねぇ。まぁ、俺にとってはどうでもいいけど」
「この礼は、別途させていただきます。希望があれば、リックに言って下さい」
「礼?希望ねぇ、何でも聞いてくれるのか?」
「事と場合によりますが」
「だったら、そのお嬢さんを俺にくれないか。ちょうど、秘書を探していたところだし」
「そ…れは…」

秀吉の表情から、何かよからぬことを考えているとは思っていたが、涼をくれと言い出すとはイアンとて思いもしない。

「気に入っちゃったんだよ、それにさっきそのお嬢さんも俺に礼がしたいって言ってたし」

―――は?
確かにお礼はするって言ったけど、あたしはモノじゃないんだから、くれとかそういうことを言われても困るわけで…。


「事と場合によると言ったはずです。それに涼さんはモノではありませんし、そんな理不尽な要求には応じられませんね」
「へえ、いいんだそういうこと言って。あいつら、まだそのお嬢さんを諦めてないぜ」
「それは、どういうことだj
「さあねぇ」

秀吉の意味深な態度は気に入らないが、彼の言うことにほぼ間違いはないだろう。
こんなことで、諦めるような連中ではないはずだ。
だからと言って、秀吉に涼を渡すなどという話を受け入れることなど到底できるはずがない。

「お前に涼さんを守れる保証があるのか?」
「相手が誰か、見当はついている。それに少なくとも俺だったら、大事なお嬢さんをこんな目に合わせることはしなかっただろうな」

こう言われるとイアンも返す言葉がないが、秀吉にだけは絶対に涼を渡すわけにはいかない。
しかし、今後の涼のことを思えば、自分の側にいるよりも秀吉の側にいる方が安全なのではないだろうか…。
イアンが答えに迷っていると今まで黙っていた涼が、口を開く。

「イアン言ったじゃない、側から離れなければ大丈夫だって。それにあたしは、イアンのお世話をするためにここにいるんでしょ?」
「涼さん…」
「もう勝手に部屋のドアを開けたりしない、言う通りにするから…だから…」

仕事だからという理由もそうだが、なぜか涼はもう少しイアンの側にいたかった。
秀吉に助けてもらった恩は、忘れないけれど…。

「あ〜、あんたもやっぱりイアンがいいのかよ」

どっかとソファーに足を投げ出すようにして座る、秀吉。
―――いいところは、みんなイアンが持って行っちゃうんだよな。
なぜか、イアンには敵わない。
悔しい気持ちとより一層涼を自分のモノにしたいという想いが募る、秀吉だった。


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