Symbiosis
Story10


「お前さぁ、確か妹いたよな?」

あれから毎日若菜は祐樹の弁当を作ってくれて、会議室でそれを食べている時、おもむろに祐樹が口にした言葉だった。
貴史は、家から弁当を持ってはこなかったが、というかそんな優しい女性は彼の家には存在しない。
しかし、社食は込んでいるからと出掛けにコンビニに寄って来るようになっていた。
若菜の作ったお弁当を羨ましく思いつつも、おかずを少しちょうだいするというのもあったけれど、そこは優しい彼女のこと少し多めに入れておいてくれるのだ。
本題に戻ると若菜から、週末に泊まりで友達を連れて来てもいいかと言われて快く受け入れたものの、祐樹はどう対処していいものか正直わからなかった。
自分をチェックしに来るのだということが、わかっているだけに尚更気が重い。

「なんだ、いきなり」

貴史には、祐樹の唐突な質問の意味が理解できなかった。
確かに年子の妹がいるが、それがどうしたというのだろうか?

「じつはさ、週末に若菜ちゃんが友達を連れて泊まりに来るんだよ。俺、女の子の兄弟はいないし、どうすりゃいいと思う?」
「なんだ、そんなことか」

貴史は、さして気にもとめていない様子。
というか、祐樹の悩みが嫌みにしか聞こえないと言った方がいいかもしれない。
聖愛女学園に通う超お嬢様達に囲まれるなどという、最高のシチュエーションを味わえるというのに何が心配なのだろうか?

「そんなの普通にしてりゃ、いいんじゃねぇの」
「その普通が、問題なんだろ」

貴史の適当な受け答えにムっとしながらも、真剣にどうすればいいのか悩む祐樹。
と、そこで名案がヒラめいた。

「なぁ、お前も家に来ないか?」
「はぁ?何で俺が」
「どうせ、暇だろう?」
「暇は余計だ。つうか、お前に言われたくねぇな」

と、ここで強がってみてもロンリー野郎の貴史が週末に予定など入っているはずもなく…。
願ってもいない誘いに貴史の顔も思わず緩みそうになったが、同じロンリー野郎の祐樹にだけは言われたくない言葉だった。

「だったら、いいだろう?」
「まぁ俺は、ともかく勝手に決めて若菜ちゃん達が、困るんじゃないのか?」

鼻の下が緩みそうなのを辛うじて押さえながらも、貴史は冷静を装って答える。
向こうだって、いくら祐樹の友達でも知らない男が泊まりに来るというのはどうなんだろうか?
その前においしい話というのもあって貴史も強く言えないところが、しょうもないのだけれど…。

「今日帰って聞いてみるから、それでOKならいいだろう?」
「それなら、仕方ないな。そこまで言われたら、うんというしかないだろう」

さも仕方ないというような口ぶりの貴史に祐樹は、思わず苦笑をもらす。

―――本当は、来たいくせに。

早速その日の夜に若菜に話したところ、すぐに友達にメールを入れてくれて、みんなは貴史が来ることを快く歓迎してくれた。
話し好きの貴史が来てくれることに祐樹は、一安心だった。
が、それ以上に貴史は、つまらない週末が最高の週末に変わると密かにほくそ笑んでいたことを祐樹は知らない。

+++

「ねぇ、祐樹さんのお友達の貴史さんって、どんな人かな?かっこいいのかな」

お昼にみんなでお弁当を食べているとおもむろに美咲が、口を開いた。
今夜、ここにいる3人が若菜の家に泊りがけで遊びに来る予定だったが、祐樹のことよりも美咲はその友達の貴史のことが気になる様子。
彼氏がいるのにと周りは思っていたが、本人にしてみれば彼氏がいるからこその余裕の会話であった。

「どうかな?私もその辺は、よくわからないんだけど」

若菜も祐樹から貴史の話は聞いていたものの、写真を見せてもらったわけではないのでその辺のことはよくわからない。
ただ、祐樹の話では男の自分から見ても結構いい線いってるんじゃないかとは言っていたけれど。

「祐樹さんは見てるけど、お友達私も気になるなぁ」

茜も興味津々という顔で、話に入ってきた。
お年頃の女の子というのはみんなこんな感じなのだろうが、幸だけは少し違ったようだ。

「祐樹さんが誘ったって言ってたけど、ホイホイ乗ってくるなんて下心見え見えじゃない。どうせ、女子高生に囲まれたところを想像して、鼻の下を伸ばしてるに決まってるわ」

いつになく毒舌の幸にみんなが、箸を止めた。
電話で話した時には、快くうんと言ってくれたのに一体どうしたと言うのだろうか?

「どうしたの?幸。まぁ、気持ちはわかるけど、男なんてみんなそんなもんじゃないの?」

若菜も茜も二人の会話がいまいち理解できていなかったが、鋭い美咲には幸がどうしてこんな言い方をしたのか、すぐにわかったようだ。

「そうだけど…」

表には出さないが、幸にはただでさえ祐樹と同居しているという若菜が気がかりだったのにそこへ貴史が新たな火種になりはしないか、心配だったのだ。

「心配し過ぎだって、私達もついているんだから大丈夫よ」
「ねぇ、何が大丈夫なの?心配って?」

会話が見えない茜は、我慢できなくて間に入ってきたが、若菜にはなんとなく幸の思っていることがわかったような気がしていた。

「ところで今晩の食事は、何がいい?」

それを察した若菜は、何もなかったかのように話題を切り換えた。

「うんとね、私はパスタがいいな。あとは〜」

幸の心配など、今の茜にはすっかり夕食のメニューによって消え去ってしまった。

「茜は、食べることばかりね」
「だって、みんなで作って食べるの楽しいもん」

美咲も幸のことは気になるものの、茜の屈託のない笑顔に心が和む。

「じゃあ、メインはパスタにして、他にサラダとスープを作るっていうのでいい?あと、多分祐樹さんと貴史さんは、今日は泊りだからお酒も飲むかな?」

何かお酒のおつまみになるようなものも、作った方がいいのかしら?
普段は家でお酒を飲むようなこともないし、ほとんどが和食の祐樹だったが、やはり女の子達の好きなものと言えばパスタなどの洋食系になってしまう。
貴史の好みはわからないが、よく祐樹のお弁当のおかずをつまみ食いするらしく、どれも美味しいと言ってくれているのは聞いていた。
だから、少しだけあっさりした和食も作っておこうなどと考えているとさっきまで神妙な面持ちだった幸も会話に入ってくる。

「若菜に任せる。私は、洗い物担当になるから」

料理とか全然できないというか、日頃からする気もないと言っている幸は、初めから洗い物担当を宣言しておく。

「相変わらずね、幸は。まぁ、どうせ最後は若菜任せになると思うし」

少々呆れ気味の美咲だったが、幸のこういうところがさっぱりしていて憎めないのだと思う。
それに最後は若菜がやることはになるのは、他の誰もが思っていることだったから。

「しょうがないわね」

それを妙に納得してしまう、若菜だった。


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