Symbiosis
Story20


次の日は二日酔いの父と共に4人で街に出掛けることにしたが、久しぶりの一家団らんに祐樹は加わっていいものか、少々気になった。

「僕が来て、良かったのでしょうか?」
「どうして、そう思うんだい?」
「なんだか、お邪魔ではなかったかなと思いまして…」
「そんなことはないよ。実はね、男1人だとなかなか肩身が狭くてね。祐樹君がいてくれると非常に心強いんだ」

この年頃の娘というのは父親と距離を置きがちだが、若菜に限ってそのようなことなない。
可愛い上にとても仲がいいのだから、世間から見れば恵まれている方ではないだろうか?
しかし、2対1となれば女性陣が強いのは一目瞭然。
だから、父としては祐樹がいてくれた方が何かと都合がいい。

「そうなんですか?」
「やっぱり、女性は強いからね。私なんて、ずっと母さんの尻に敷かれっぱなしなんだ。あっ、これは内緒だよ」

口元に指をあてて笑ってみせる父だが、男の祐樹から見てもとてもカッコいい。
まだ40半ばという年齢も若いのだが、180近い身長に中年太りなどという言葉は無縁の鍛え上げられた身体。
逆にあんな大きな娘さんがいるというのが、驚いてしまうくらいだった。

「若菜もそうなんじゃないのかい?一見おっとりしているようだけど、母親に似たのかあれで意外に気が強いんだよ」

そう言われてみれば、そう思えなくもない。
若菜はおしとやかなお嬢様に見えるが、予想に反してはっきり言う時は言うし、行動にも出る。
祐樹も新しい発見だなと思うことが、度々あった。

「祐樹君も私と同じで尻に敷かれるタイプに見えるから、しっかりしないと大変だな」
「はぁ」

友達にも貴史にもそんなことを言われていただけに、実体験者の父に言われると駄目押しされた感じがして益々そんな気になってくる。
若菜の尻に敷かれる姿は想像できないが、もう少し年齢を重ねるとそうなるのだろうか?

「まぁ、女性は少しくらい気が強いくらいの方が男は幸せなんだから、祐樹君も覚悟するんだね」
「覚悟、ですか…」

現実を突きつけられたようで、祐樹はすっかり落ち込んでしまう。
そんな二人の元へ若菜が呼びに来た。

「お父さんも、祐樹さんも何を真剣に話してるの?」
「いや、男は辛いって話さ」
「ん???」

若菜には、さっぱり父の言っている意味がわからない。
―――男の人の何が辛いのかしら?

「若菜は、わからなくていいんだよ」
「変なお父さん。それより、祐樹さん早く行きましよう」

「早く早く」と祐樹の腕を引っ張る若菜を見て、既に尻に敷かれているなと思う父だった。



「えっ…あれが、マーライオン?!」

写真で見ると結構大きく見えるものだが、実際はとても小さい。
世界の三大がっかり(ちなみに他の二つは、コペンハーゲンにある人魚姫とブリュッセルにある小便小僧〉と呼ばれているくらいなのだ。

「みんなそう言うんですよね。私は子供の頃に見たので身体も小さかったから、そんなに違和感もなかったんですけど」
「そうなんだ…」

想像と違うだけでなんとなくがっかりしてしまうのは、なぜだろう?
そんな祐樹の姿が若菜には、とても可愛く見えた。

後は適当に観光を済ませると、若菜お待ちかねのショッピング。
女性は、どうしてこう買い物が好きなのか…。

「若菜ちゃんに付き合わなくていいんですか?」

『今なら、欲しい物何でも買ってもらえるわよ?』の母の言葉通り、さっそく若菜は父にその話をして欲しい物を買ってもらう約束をしていたのだった。

「あぁ、私が必要なのは支払いの時だけなんでね。今くっ付いて行こうものなら、センスが悪いだなんだって言われるだけだから。父親なんてそんなものだよ」

苦笑する父を見て、祐樹には女の子の兄弟がいないから娘を持つとこうなのかなと思った。

「若菜、父さんは祐樹君とあそこの店で休んでるから、母さんとゆっくり買い物して来なさい」
「は〜い」

とても短い時間で済むとは思えないから、父の選択は当たっていたように思う。
二人は、近くにあったティーショップで母と若菜がショッピングを終えるまで暫くの間待つことにした。

「いやぁ、とてもあの二人には付き合いきれないんでね」
「でも、娘さんっていいですよね。うちは男ばかりなので、母親が寂しがってますよ」
「そうかもしれないけど、一人娘だからね。あとどれだけ一緒にいられるかわからないし」
「婿を取るのではないんですか?」

一人娘となると安西家は、婿を取るのではないだろうか?

「今時、そんな男性はいないだろう?それに私は次男なんでね。安西家は長男が継いでくれるから。祐樹君が婿に来てくれるって言うなら話は別だけど」
「はい?」
「ははは、冗談だよ」

こう言われて本気にする人間はいないと思うが、いきなり言われると案外動揺するものである。

「祐樹君には、きちんとお礼を言っていなかったね。今まで、私達の代わりに若菜の面倒を見てくれてありがとう」
「いっ、いえ。こちらこそ、何から何までお世話していただいて、お礼を言うのは僕の方ですから」

面倒を見るどころか見てもらっていると言ってもいいくらいなのに、父にこう言われると正直困ってしまう。

「そんなことないよ、君には感謝しているんだ。長い間、不自由かけて申し訳ないと思ってる」
「いいえ、そんな…」

本当は若菜の両親に自分の気持ちを伝えるために来たのだが、ここでそれを口にしたらどうなるのだろうか?
きっと自分を信用しているに決まってる…。

「こういうことは親としてなかなか聞きにくいんだが、その…若菜とはどうなのかな?」

言いにくそうにしている父だったが、エレベーターでの二人の様子や祐樹を見れば、何もないとは思わないだろう。

「誤解しないでもらいたいんだが、変な意味で聞いてるんじゃないんだよ。ただ、同じ家に住んでるわけだしそういうこともあるんじゃないかなと思ったのと、まぁ、二人を見ているとかなりいい雰囲気なんでね」

父は、特に二人の仲についてどうこう言うつもりは全くなかった。
むしろ、何もない方がおかしいとさえ思っていたのだ。
いくら会社で親しくしている人の甥とはいえ、大事な娘を若い男性に預けて海外赴任する親はそういないだろう。

「僕の話を聞いてもらっても、いいでしょうか?」

祐樹は姿勢を正すと、今の自分の素直な気持ちを父に聞いてもらおう。
そう決心したのだった。


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