Symbiosis
Story6


週末を挟んで月曜日、いよいよ若菜の通う学校の新学期が始まる。
一週間ともなれば朝、祐樹を起こすこともすっかり手慣れたもの、これからは自分の支度もしなければならないので少し大変だが、今日は始業式だけなので楽な方。
明日からは自分のお弁当も作らなければならないので、前日にある程度準備を済ませる等の対策を考えないと大変かもしれない。

「おはよう」
「おはようございます」

いつもなら朝の挨拶を済ませた後、祐樹は洗面所に行くのだが、今日はボーっと突っ立ったままで動こうとしない。

「祐樹さん、どうかしました?」
「あっ、ごめん。制服姿、見るの初めてだったから」

祐樹は、3日前に貴史から言われたことを思い出していた。
『あのセーラー服姿が、堪らないんだよなぁ』
まさしくその言葉の通り、若菜のセーラー服姿は一際目を引くものがあった。
紺色のプリーツスカートは普通だが、襟の部分に3本の紺色のラインが入っている以外、全部白というのは初めて見たからだった。
そして少し明るい青色のスカーフは、胸元でリボンのように結んである。
スカートの丈は今では田舎でも当たり前になった膝上でパンツが見えてしまいそうなくらい短いものではなく、膝下丈のものでスラットした足が逆に印象的だ。
清いというか、眩しいとさえ感じられる。

「早く、顔を洗ってきてくださいね」

若菜に言われて、慌てて洗面所へ向かう。
―――何、見惚れてんだ…俺。
水で顔をバシャバシャと洗うと鏡を見つめながら、段々と自分の中で大きくなる若菜の存在に戸惑いを隠せなかった。

それから朝食を取って、二人一緒に家を出る。
若菜の通う聖愛女学園は家から30分ほどのところにあるが、祐樹の勤める会社とは反対方向にある。
それに学校は8時20分から始まるので、余裕をもつと祐樹よりもかなり早く出なければならないのだが、彼がどうせ支度したからと駅まで一緒に行くと言ったのだ。

「祐樹さん、会社にすごく早く着いちゃうんじゃないですか?」
「まあそうだけど、別にいいよ。若菜ちゃんと一緒に行きたかったしさ」

祐樹の何気ないひと言に若菜は、微笑を返すと少しだけ顔を赤らめた。
駅までは歩いてたった5分、そしてお互い反対方向の電車に乗るのだから、あまり一緒に行く意味がないのだけど。
それでも祐樹は自分でもわからなかったのだが、何となく制服姿の若菜と一緒に歩きたかったのだ。
若菜の彼氏はいない発言を信用すれば、今は父親以外に唯一隣を歩ける男ということになる?!
そんな優越感に浸りながら、駅までの短い道のりを今日の夕飯は何がいいか、などの他愛のない会話をしながら歩いて行った。

駅に着くと若菜の乗る電車の方が、先にホームに入って来た。

「じゃあ、祐樹さん行って来ます」
「行ってらっしゃい。気をつけてな」

「はい」と手を小さく振って、若菜は扉が開いた電車の中に吸い込まれるように入って行った。
いつも乗る場所を決めていると言っていたが、どうやらそこには同級生の友達が何人か乗っているからだったようで、若菜が乗り込むと「若菜、おはよう。久しぶり、元気だった〜」などの声が聞こえてくる。
どうやら、彼女は同級生にもかなり人気のようだ。
―――あれじゃあ、男が通学途中で声を掛けられる状況じゃないよな。
あれだけ可愛いのだから、時間を合わせて同じ電車の車両に乗る男だっているはずだろう。
それが一度も声を掛けられたりしたことがないというのはおかしいと思ったが、これが原因なのだと祐樹は思った。
まぁ、そのおかげで変な虫がつかずに済んでいるのだろうけれど。
電車の扉が閉まり若菜が窓越しに祐樹を見て、微笑むのが見える。
それを見送ると反対のホームに入ってきた自分が乗る電車に乗り込んだ。


「みんな、元気だった?」

中山 幸、金田 美咲、真下 茜の仲良し4人組の中で、若菜が一番最後にこの電車に乗って来る。
若菜は中等部2年の時に香港から帰国して編入したが、それ以外の3人は初等部から聖愛女学園に通っていて、高等部に進級してからもずっと同じクラスだった。
というか中等部から高等部に進級時以外に基本的にうちの学校はクラス変えというものをしない。
帰国子女の受け入れは随時行っているが、高等部では外部募集をしないのと能力別授業を取り入れているために授業毎に教室を移動する。
他のクラスの生徒達との交流も図れることから、敢えてクラス変えはしないとの学校方針だった。

「「「元気だったよっ」」」

3人が口々に、元気だったと若菜に告げた。

「若菜は?ねえ、さっきの人彼氏?」

幸はホームに祐樹と若菜が一緒に居たのを見ていたようで、真っ先に若菜に聞いてきた。

「ええ?!」
「何?若菜にも、とうとう彼氏ができたって?」

幸の隣に立っていた茜が、顔を突き出すようにして問い掛ける。

「さっきのって、ホームに若菜と一緒に立ってた人?何か、すごくカッコよかったような気がしたけど」

一番奥に立っていた美咲は隣の茜の肩に手を置いて、更に顔を突き出した状態で少し興奮気味に言う。
幸同様、美咲も祐樹のことを見ていたようだ。

「ちっ、違うよ。彼氏なんかじゃないって」

若菜がそう言ったところで、みんな信じていない様子。
―――うっ、みんな顔が怖いって…。
ホームには人がたくさんいたので、見られていないと思ったのが間違いだった。
祐樹とのことは隠すつもりではないが、やはり一般的に言えば賛否両論の関係と言えなくもない。
父が担任にはきちんと話はつけてあると言っていたので学校には問題ないが、若菜は仲良しの3人にだけはこのことは話しておく方がいいと考えた。

「実は、春休みの間に色々あってね。後で、みんなには話すから」

その言葉に3人は一応に納得したようで、その場でそれ以上聞いてくることはなかった。


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