学校では相変わらずみんな元気な様子で、思い思いに近況を語り合った。
担任の教師も3年間ずっと変わらないので、あまり学年が変わったとかそういう感じはしない。
そして学園長の話も終わり、教室内でのHRも終わると例の仲良し3人が待ってましたとばかりに若菜のところへやって来た。
今日はこれで学校も終わりなので4人はお昼をどこかで食べようということになり、電車で何駅か乗った繁華街にあるランチバイキングの店に足を運んでいた。
ここは学生にとっては安くて美味しいというのもあるが、多彩なメニューに加えデザートの種類が豊富なことが一番の理由だった。
みんな、それぞれの品をトレーに取り分けて席に座る。
「で、若菜さん。朝の続きを話してもらいますか」
いきなり真面目な顔で、幸が話を切り出した。
他の3人も食事そっちのけで、身を乗り出すようにして若菜の言葉を待っている。
そんな3人の勢いに負けて、本当はお腹が空いていたから食事を先に取りたかったのを我慢して、若菜はアイスティーを一口飲むと話し始めた。
「実はね、急にお父さんがシンガポールに転勤になっちゃったの。初めはお父さん1人で単身赴任するつもりだったんだけど、今度は支社長だから夫婦同伴が条件だって、それでお母さんも一緒に行かなきゃならなくなったのね。でも私は高校もあと1年だし、大学に入れば独り暮らしもできるからって、1年だけの約束でお父さんの会社で親しくしている人の甥御さんが一緒に同居することになったの」
「それが朝、若菜と一緒にいた男の人なの?」
「そう、小豆沢 祐樹さんといって仙台の人なんだけど。今年地元の国立大学を卒業して、東京の会社に勤めることになったから。東京に住むのも初めてだし、私のボディガードを兼ねて同居をお願いしたんだって」
「そっか、でもいくらお父さんの親しくしている人の甥御さんでも大丈夫なの?男の人なんだし、何かされたりしてない?」
幸は若菜のお父さんとお母さんが、一人娘の若菜のことをとても可愛がっているのを知っている。
それはそうだろう、こんなに可愛くて優しくていい子なんだから、そう思わないはずがない。
そんな二人が若菜をひとり日本に残して小豆沢という人に頼んでいったのだから、余程信頼してのことだろう。
でも、やはり若い男と女がひとつ屋根の下に暮らせば、間違いが起こらないとも限らない。
幸は若菜のことが大好きなだけにそれがすごく心配で、それは茜も美咲も同じ思いだった。
「うん、大丈夫。私もそれは初めにちゃんと聞いて、祐樹さんも覚悟の上での同居だって言ってくれたし、それにすごく優しいから」
祐樹のことを見た幸と美咲は、若菜がすごく優しいと言った彼のことが何となくわかるような気がしていた。
若菜の言葉に3人は一様に安心したのか、急にお腹が空いたと言って目の前の食べ物を次から次へと食べ始めた。
まだ若い娘達の食欲は半端なものじゃなくて、周りがそんなに食べるの?っていうくらい食べまくってようやく落ち着いた。
「私も祐樹さん、見たかったな」
ひとりだけ見損ねた茜は、少し残念そうだ。
「でも、明日また見られるんじゃないの?ねえ、若菜」
幸が意味深な言い方をしてきたが、そんなことはちっともわかってない若菜は真面目に答えた。
「え?どうだろう。今日は私に合わせて一緒に出てきたけど、本当は祐樹さんもっと遅く家を出ても間に合うのよね」
「そうなの?じゃあ、一緒に来るように言ってよ。私見たい、だってすごくかっこいいんでしょ?」
「もう、茜ったら我侭言わないの」
茜と若菜のやり取りを聞いていた美咲が、間に入る。
美咲は4人の中では一番落ち着いていて、同い年だけど若菜にとっては何となくお姉さん的存在の子だった。
外見も大人っぽくてすごく綺麗で、1年の時から付き合っている大学生の彼氏がいる。
その反面、茜は小柄で可愛らしい感じ、歳の離れた兄と姉がいて末っ子だからなのか少し我侭なところがあるが、憎めなくて妹みたいに庇いたくなる存在だ。
「じゃあ今度、若菜の家に遊びに行ってもいい?そうすれば、祐樹さんにも会えるでしょう?ねえ茜」
「うん、そうしよう。行く行く」
はしゃぐ茜を尻目に美咲は幸がとんでもないことを言い出したように思えたが、すぐにこれは祐樹を確かめるための口実だとわかった。
幸は、誰よりも若菜のことを理解して、心配しているのを美咲は知っていたからだ。
「そうね。私も是非、祐樹さんと話してみたいな。金曜日の夜から泊りってのは、どう?ねえ、いいでしょう?若菜」
美咲の泊まりという一言に他の二人は益々乗り気満々だ。
「うん、わかった。一応、祐樹さんにも聞いてみてからでいい?」
3人に言われて断れるはずもなく、若菜は祐樹に聞いてから返事をすることにした。
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