Symbiosis
Story8


あれから、店に2時間も粘って色々なことを話し、夕食の買物を済ませて家に帰った頃にはだいぶ時間が経っていた。
急いで夕飯の支度を済ませて待っていると玄関のブザーが鳴る。
相手は祐樹だとわかっているのだが、もしもということもあるから念のためにインターホンに出てからドアを開けるようにと祐樹に言われていた。

「はい」
『祐樹です』
「お帰りなさい。今、開けますね」

パタパタとスリッパの音を立てながら、玄関に行ってドアを開ける。

「ただいま」
「お帰りなさい」

若菜は、祐樹の鞄を受け取って奥のリビングに向かう。
これは小さい頃から毎日父親が帰って来るとやっていたことなので、若菜の癖になってしまっていた。
初め無意識に祐樹の鞄を持ってしまってひどく驚かれたのだが、それを話したら遠慮しながらも鞄を渡してくれるようになっていた。

「すぐ、ご飯にしますか?」
「うん、お腹ペコペコなんだ。今日は何かな?」

祐樹は、毎晩若菜の作ってくれる夕食が楽しみだった。
メニューを考えるだけでも大変だろうと思うのだが、毎日違うおかずが出てきてそのどれもがすごく美味しい。
本当は一般の高校3年生のように受験しなくてもいいとは言っても、学校に行きながら食事の世話までしてもらうのは心もとなくて土日や休みの日は適当に済ませるから休んでいいよと言ったのだけど、どうせ自分の分も作らなきゃならないからとついその言葉に甘えてしまっていた。

「祐樹さんの好きな、肉じゃがですよ」
「やった!若菜ちゃんの肉じゃがは、最高だからね」

若菜は、ニッコリ微笑むとキッチンに消えて行った。
こうやっていつも祐樹の好きなものを作ってくれるところもすごく嬉しい反面、もっと他に食べたいものがあるのに自分のために我慢しているんじゃないかと思ってしまう。
祐樹は、2階の自分の部屋に行って着替えるとすぐダイニングに降りて来た。

「美味そう」

我ながら他に言葉がないのかと自分のボキャブラリーのなさを疑ってしまう。
祐樹は、いつものように手を合わせて「いただきます」というと肉じゃがに箸をつけた。
相変わらずの美味しさに本当にこんな子が、奥さんだったら文句ないなと思う。

「どうですか?」
「すごく美味いよ。これもお母さんの味?」
「そうですね。でも、ちょっと私なりの工夫もあるんですよ」

「秘密ですけどね」というところも、う〜めちゃめちゃ可愛い過ぎる。
―――俺は、ロリコンか…。
人の心の中が見える何かがあったとしたら、自分は真っ先にそういう目で見られるだろう。
などと、どうでもいいことをまた考えてしまった。

「祐樹さん。ちょっと、お願いがあるんですけど」
「お願い?」

祐樹は若菜に何かを依頼されることがなかったので『お願い』という言葉が、なんだか妙にそそられる。

「実は、学校の友達が家に遊びに来たいって言うんです。それも金曜日の夜から泊まりで」
「友達って、もしかして今朝電車に乗ってた子達のこと?」
「見てたんですか?」

幸や美咲が祐樹を見ていたようにまた、祐樹も3人のことを見ていたようだ。

「あぁ、何か若菜ちゃんが電車に乗ったら、キャーキャー言ってたからね。仲良しなのかなって、思ってさ」
「はい。いつも4人で学校に行ってるんですけど、すごく仲がいいんです」
「そうなんだ。俺の方は全然構わないから、いつでも遊びに来て。あっ俺が、居ない方がいいかな?言ってくれれば、会社のやつの所にでも泊めてもらうけど」
「いえ。祐樹さんが居ないと困るって言うか、みんな祐樹さんに会いたいって言うんです…。ダメですか?」

『ダメですか?』って可愛く言われて、ダメですって言えるわけがない。
祐樹の思うには今朝、駅のホームで若菜と一緒に居るところを見かけて、あの男は誰だ?という話にでもなったのだろう。
若菜のことだから祐樹との同居の経緯を話したのだろうけど、もしかして友達として祐樹の品定めにでも来るつもりなのかもしれない。

「いいよ。でも何か俺、怖いな。若菜ちゃんの友達に睨まれそうだし」

祐樹は、その時のことを想像して苦笑した。

「そんなことないですよ。みんな祐樹さんのことかっこいいって言ってたし、一目見たいだけだと思います」
「それなら、いいんだけどね」

女の子同士の仲間内のことは祐樹にはよくわからないが、若菜を見ていると宝塚的な女性が女性に憧れるそんな感じを受けていた。
だから、祐樹のことを快く迎え入れてくれればいいのだが…と思わずにいられなかった。


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