Snow Blue
Story14


和也の家に行くという蒼の後を追って付いて来たもえだったが、果たして彼はわかってくれるだろうか?
そんなことを考えていると、あっと言う間に彼の家の前に着いていた。

「蒼くん…」

心配そうなもえに蒼は大丈夫という意味を込めて頷くと、ブザーを押す。
暫くして、和也の声が聞こえた。

『はい、どちら様でしょうか?』
「夜分すみません。さっき電話に出た、もえの従弟の蒼です」

―――え?
さっき電話に出たって…、もえの従弟?!
驚いた和也は慌ててドアを開けると、そこにいたのはもえが二人?!

「もえ?」
「和也さん、ごめんなさい」

一瞬どっちがどっちかわからなかったけれど、声は後ろの方から聞こえてきたが、その顔は今にも泣き出してしまいそう。
和也は、とにかく中に入るようにと促した。
取り敢えずソファーに二人を座らせて、話を聞くことにする。

「えっと、君はもえの従弟だって」
「はい。もえの従弟で、木下 蒼と言います。さっき、もえの電話に出たのは俺なんです。もえに男なんて思ってもみなかったから、ついあんなふうに言ってしまって。誤解させるようなことを言ってしまって、すみませんでした」

二人は家が近所ということもあって、昔からとても仲が良かった。
蒼はこの春から地方の大学へ通っていて、今日はたまたま高校時代の友達に会うために帰って来たついでにもえのところにも顔を出したことを聞いて、和也もようやく理解できたのだった。

「そうだったんだ。でも…」

もえに従弟がいる話は初めて聞いたけれど、声とはあまりに違う容姿に和也もどう聞いていいものか。
それに…。

「言っとくけど、俺これでも男だから」

先に思っていたことを言われてしまい、和也は少々バツが悪い。

「みんなそうだから、気にすることないよ」
「いや、ごめん」

和也はつい謝ってしまったが、蒼は声や話し言葉こそ間違いなく男なのに顔は女性にしか見えない。
というか、もえにそっくりなんだけど…。

「和也さん、ごめんなさい。蒼くんが変なことを言って…私、嫌われたんじゃ…」
「もえのことを嫌いになったりなんかしないよ。ただ、俺の方こそ…ごめん。もえがそんな子じゃないって、わかってるのに…」

ほんのちょっとでも、もえのことを疑ってしまった自分が恥ずかしい。

「じゃあ、俺のせいでもえのことを嫌いになったりしない?」
「あぁ、もちろん」

蒼もここへ来る前は和也がどんな人かわからなかったから、『本当にもえに相応しい男なのかどうか確かめてくるよ』なんて言ったけれど、彼を見ればそんなことは一目瞭然だった。
男の蒼から見ても和也は悔しいけどいい男だし、だからといって遊んでいるようにも見えない。
それに、さっきから視線はもえにばかりいっている。
多分、今ここに蒼がいなかったら、彼はもえを抱きしめているところだろう。

「良かったな。もえ」
「うん」

もえの肩をポンポンと叩く蒼を見ていた和也は…。
―――しかし、似てるな。
こうしていると姉妹にしか見えないんだよな。

「もえと蒼くんって、姉妹みたいだな」
「よく言われるんです。私も蒼くんのことは、あまり男の子って気がしなくて」

男性が苦手なもえが唯一、蒼とだけ気兼ねなく話ができたのは彼の女顔にあったかもしれない。

「もえ、それってちっとも嬉しくないぞ」

女顔を気にしていた蒼にしてみれば、もえにまでそんなふうに思われていたのが納得できない様子。

「ところで、もえと芹沢さんは付き合ってるんだよな。ってことは、キスはもちろん済んでるよな。もしかして、その後も?」
「え?」「えっ…」

蒼の不意の質問に、もえと和也は声を上げてその場に固まった。
―――何を言い出すのかと思えば…。

「ちょっ、蒼くんっ。そんなことっ、ここで聞かなくても…」
「もえの従弟としては、きちんとそういうところは確かめておかないとな。もえが遊ばれてるかもしれないし。まぁ、芹沢さんに限って、そういうことはないと思うけど」

電話での対応といい、和也はまだ蒼に警戒されているよう。
きっと彼ももえのことを心配して、年下ながらも今まで守ってきたのだろう。

「俺達はもう大人だし、お互い愛し合っていればキスもその先もそれは自然なことだと思っている。もちろん、本気の付き合いだし将来のことも考えていることは、ここできちんと言わせてもらうよ」

真っ直ぐ蒼の目を見つめながら話す和也に、彼の本気を感じずにはいられない。

「そっか…。そうはっきり言われると何も言えないけど、俺としては複雑だなぁ」

男性が苦手で話すことも、ましてや付き合うことなど程遠いと思っていたもえに彼氏ができて、既に大人の付き合いをしているなんて…。
蒼にとっては、嬉しいような悲しいような…。
しかし、ここへ来る前のもえの言葉を思い出せばそれは喜ばしいことなんだと思う。

『和也さんは、男の人が苦手な私を守ってくれて…初めて好きになった人なのに…』

彼ならこれから先もずっと、もえを守っていってくれるだろう。

「芹沢さん、もえを頼んだから」
「わかった。もえのことは俺に任せて」

男と男?!の約束だ。

「じゃぁ、俺は帰るわ。後は、お二人さんでごゆっくり」

気を利かせたのか、蒼は自分の家に帰って行った。
もえも久し振りに会ったのだからもう少し話したい気持ちもあったが、今は和也と一緒にいたいという気持ちの方が大きかった。

「和也さん。私のこと、本当に嫌いになったりしませんか?」

玄関先で蒼を見送ったもえは、和也にもう一度尋ねる。
そんなことはないと思うけれど、やっぱり心配だから…。

「嫌いになるどころか、もえのことが好きなんだって確信した」
「和也さ…っぁ…」

和也はもえを抱きしめると唇を塞ぐ。
こんなに好きで愛しくて…。
ずっと、腕の中に閉じ込めておきたいくらい。
今日はもう会えないと思っていたから、触れることもないと思っていた彼女。
その存在を確かめるように、いつまでも唇を離すことができなかった。


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