Snow Blue
Story16


それから暫くした週末、もえと和也、美好と雄斗のカップルは温泉旅行へと出発することになった。
その日は秋晴れで、絶好の旅行日和。
和也の車で行くことになった4人は、まずもえの家に寄ってから、美好と雄斗を乗せることにした。

「和也さん、おはようございます」
「おはよう、もえ。えっと、ご両親は?」

もえの家に車で送って来ることはあっても、和也が両親の前できちんと挨拶したことはまだなかった。
黙って和也の家に泊ることを許してくれる両親に感謝しつつ、今回のような泊りの旅行となれば挨拶はしておくのが筋と言うものだろう。
そのために、少し早めに家を出てきたのだった。

「はい、いますよ」
「じゃあ、ちょっと挨拶してもいいかな」
「わかりました。でも、びっくりしますね」

旅行に行くことはもちろん親に話していたが、突然挨拶したいと言ったらものすごく驚くに違いない。

「俺は、ここで。また、改めて来るつもりだから」
「少し、待っていてもらえますか?」

さすがに家の中に上がるわけにはいかず和也は玄関先で待っていたが、やはり緊張しないはずがない。
―――大丈夫かな…。
付き合いを黙って見守っていてくれている様子からしても、反対されているわけではないと思うが…。

少しして出てきたのは思ったよりもずっと若々しいご夫婦で、父は背も高くスラッとしていて中年太りもなく温厚そうな感じ。
対して母親はと言うと、もえが初めて和也の家に泊るという時に赤飯を炊いたくらいだから、余程太っ腹の女性だろうという和也の予想に反してとても線の細い女性だった。
母親の方が主導権を握っているように思えたが、どうなんだろう?
それにもえはどちらかというと、母親よりも父親似のように思える。

「まぁ、和也さん。もえが、いつもお世話になっております」
「さぁさぁ、どうぞ中へ」

和也が心配する必要がないくらい、満面の笑みで迎え入れてくれた二人。
緊張が少し解けたようだった

「いえ。今日は、こちらで失礼します。出発前にひと言ご挨拶に伺っただけですし、同行者を待たせておりますので」
「そうですか」

母親は、とても残念そう。

「はい。また、日を改めてご挨拶に伺わせていただきます」
「もえをよろしく頼みます」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

深々と頭を下げる和也に、父親も安心した様子。
本当に安心したのは和也の方だったけれど、あまりここで時間を取るわけにもいかず、早々にもえと車に乗り込むと美好と雄斗の宿泊先のホテルに向かった。

「いやぁ、緊張した」

堂々とした対応にもえにはちっともそんなふうには見えなかったが、実際は違ったようだ。

「大丈夫ですよ。私が和也さんのことをとっても素敵な人だって話してますから、両親もそう思ってます」
「話していても、実際は違うんじゃないかな。もえを誘惑した男とか」
「誘惑なんて…」

そんなつもりはないが、可愛い娘をたぶらかした男とか内心では思われているかもしれないし。

「取り敢えず大丈夫みたいだから、今度はきちんと挨拶に行くよ」
「特にお母さんはもっとお話したかったみたいなので、ゆっくり来て下さい」

もえの母は、いい男には目がない。
よって、気に入らないはずがないのである。
もちろん顔だけではなくて、しっかりした会社に勤めていることや本人を前にすればそれは大体わかること。
もっとゆっくり話をしたかったようだが、旅行前だから仕方がない。

少し車を走らせるとホテルに到着し、もえがロビーに美好と雄斗を迎えに行く。
既に二人は並んで、ソファーに座って待っていた。

「美好さん、犬丸主任。お待たせしました」
「あっ、もえちゃん、おはよう。芹沢主任は車?」
「はい、待ってますから。行きましょう」

4人が車に乗り込むと、いざ出発。
初めての旅行に、もえは少し興奮気味。

「もえちゃん、嬉しそうね」
「はい。旅行、すっごく楽しみだったので」
「芹沢主任と温泉に入るのが?」
「えっ…ちっ、違いますよっ。美好さん、なっ何を言うんですかっ」

あまりに嬉しそうにしているもえをついからかってみたくなった美好だったが、冗談で言ったつもりなのにこの反応はおもしろ過ぎる。

「聞き捨てならないな。もえは、俺と風呂に入りたくないのか?」
「かっ、和也さんまでっ」

和也は、もえとお風呂に入るのを密かに楽しみにしていたのにこの返答は少々腑に落ちなかった。
―――せっかく、マイ露天風呂のある部屋を予約したのに…。
もえの希望?!だった、各部屋に露天風呂が付いた部屋を奮発して予約したのだ。
もちろん、二人っきりで誰にも邪魔されずに入るために。

「そんなに木下さんをイジメたら、かわいそうだよ」

手を差し伸べたのは雄斗だった。
美好と和也の気持ちはわかるが、ちょっとかわいそうになったから。
もえがあまりに可愛くて、実のところは雄斗もこの中に加わりたかったのだけれど…。

「そうですよね。犬丸主任は、優しいですぅ」

―――犬丸主任は、優しいなぁ。
雄斗に助けてもらって、もえはホッとしたもえ。
和也ももちろん優しいが、たまにイジワルなところもあったりするのだ。

「でも、美好は俺と風呂に入るのを楽しみにしていたんだろ?」
「え…」

―――雄斗ったら、こんなところで何言ってるのよ…。
そりゃぁ、楽しみにしてたわよ?
だけど、いくら公認だからってこんなところで言わなくても。

「違うのか?」
「そんなこと、ここで言わなくてもいいでしょっ」

後部座席で、思いっきりバシッと叩く音が聞こえる。
その後に雄斗の『痛ってぇなぁ』という声が聞こえて、前に座っていたもえと和也が思わず笑ってしまう。
会社での美好と雄斗はクールな関係に見えるが、実際はこんな感じなんだろう。
ふと鏡を見ると頬を薄っすらと染めた美好、テレながらもそれはとても嬉しそうに思えたのは気のせいだろうか?
二人きりの旅もいいが、こうやって複数で行くのもまた別の楽しさがあるもの。

―――それよりも、どうやってもえと一緒に風呂に入るか…。
そのことで頭がいっぱいの和也だった。


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