「なぁ、何でそんなに離れて歩くんだよ」
一次会の後、二次会でカラオケに誘われて断ることもできず、美好と雄斗はだいぶほろ酔い気分で宿泊先のホテルに向かっていた。
しかし、なぜか美好は雄斗と距離を置いて歩いていたのだった。
「何でもありません」
目も合わせないし、どうも引っかかる言い方に雄斗はその場に足を止めて、美好が追いついて来るのを待つ。
「どうしたんだよ、何拗ねてるんだ?」
「拗ねてなんて、いませんが」
美好は待っていた雄斗を追い越して、スタスタと歩いて行ってしまう。
「美好」
「気安く、名前を呼ばないでください」
「おいっ、ほんと何怒ってるんだよ。理由を言ってくれないと俺、どうしていいかわからない」
肩に手を掛けられて、美好は反射的に振り返ると雄斗の切なそうな顔が視界に入る。
―――そういう顔しないで…。
でも、ここで騙されちゃいけないのよ。
「言わなくても、犬丸主任にはわかっていると思っていましたが」
「俺が、美好をここへ連れて来たことか?」
―――なによ、わかってるんじゃない。
わかってるなら、わざわざ聞かないでよ。
美好は昨日、雄斗に今回の出張の話を聞かされた時、少なからず私情が入っているとは思っていたが、さっきそれがはっきりわかったからだ。
『佐藤と二人っきりになんて、絶対できないからな』
佐藤とは美好に執拗に迫っている男で、雄斗が長期の出張に出てしまえば何をされるかわからない。
だから、美好を自分と一緒に連れて来たのだ。
仕事に生きる女を目指しているわけでも仕事がデキルとも思っていないけれど、これでも一生懸命やってきたつもりだった。
それなのにこんなことで、判断されたくはなかった…。
「美好と佐藤を二人っきりにするのが嫌だったから、というのは否定しない。これは俺の本音だからな」
よくもまぁ、恥ずかしげもなく…と美好は思ったが、彼は嘘がつけない人だということも知っている。
だからこそ、本当のことを美好に話したのだろう。
「でも、それだけじゃない。もちろん美好なら、プロジェクトの遅れを取り戻せると思ったからだよ。課長だって、間違いないって太鼓判を押してくれたんだ」
「だからって…」
「せっかくこうして一緒にいられるんだから、もう少し喜んでくれてもいいだろう?」
肩に置いてあった手が、腰に回されて強く抱き寄せられる。
「やっ、こんな人目のつくところでやめてよっ」という美好の言葉など、雄斗はまったく聞く様子もない。
「雄斗」
「やっと名前で呼んでくれた」
「たまたまよ」
こんなつっけんどんな返事であっても、雄斗にしてみれば嬉しくて仕方がない。
「早くホテルに行こう。俺、もう我慢できない」
「我慢できないって、まさか…こんな時間だし、明日だって早いのに?」
「だから、早く行こうって言ってるんじゃないか」
―――そういう意味じゃないっ!
と心の中で叫んでみても、どこかでそれを許してしまっている自分がいるのも確か…。
強がってみても、最後には雄斗の言葉を受け入れてしまう。
二人は寄り添うようにしてホテルでチェックインを済ますと、2部屋予約したうちの1部屋に足を運ぶ。
ビジネスホテルだから狭いシングルルームを想像していたが、ここはそんなこともない。
今のホテルは値段が安くても部屋はよくなってるのね、なんて思ってる間もなく、雄斗が美好の唇を求めてくる。
「…っん…ぁ…たけ…と…待っ…て…」
「待たない」
『即答かいっ!』と思ったが、それだけ雄斗には余裕がなかったということ。
唇を塞いだまま器用に自分の着ていたスーツのジャケットをベットの上に脱ぎ捨てて、ネクタイまでも取ってしまう。
そして、美好の着ていたジャケットも脱がせて、ブラウスのボタンに手を掛けた時。
「ほんとっ!待って」
やっとのことで、美好は雄斗から体を離す。
「嫌なのか?」
「そうじゃなくって…シャワーを浴びてからじゃないと」
雄斗はニヤッと微笑むと美好を軽々と抱き上げて、バスルームへと運んで行く。
「わっ、雄斗。やめて〜」
「シャワー浴びるんだろう?」
「ひとりでって、意味なんだけど」
「それは、認められないな」
『時間がないんだから』とかなんとか言って、美好の言葉など聞かずにバスルームの中へ入るとドアを閉める。
自分でできるからって言うのに着ていた洋服を全部脱がされて…さすがに下着は自分で脱いだけど。
二人で泡だらけになりながら、じゃれ合うように体を洗って…なぜかバスルームを出た時にはヘトヘトになっていた。
美好はベットの端に腰掛ける。
「ねぇ、今からほんとにヤルの?」
「当たり前だ。お前がシャワー浴びてからって言うから」
「だって、疲れちゃった」
「あぁ、疲れただと?まだ若いのに何言ってるんだ」
「だってぇ…」
「だっても、あさってもないの。ヤルったら、ヤル」
雄斗は美好の体に巻いてあったバスタオルを取り払い、ベットの上に横たわらせると上から覆いかぶさるようにして深くくちづける。
「…んっ…ぁ…っ…」
こうなってしまうと美好の口からも甘い声が洩れる。
それを雄斗もわかっているのだが…。
小さくもなく程よい大きさの形のいい膨らみに手で触れると、美好の体が少しだけ反応したのがわかる。
キスだけで、蕾は既に固く主張していた。
「…ぁ…っん…雄斗…」
「美好、もっと俺の名前を呼んで」
「雄斗、雄斗…」
『この時だけは、素直なんだよな』と思ってしまう。
そんな美好に気をよくした雄斗は、白い肌にたくさんの赤い薔薇の花を咲かせた。
酔っているからか、いつもより敏感な美好の反応に雄斗も歯止めがきかなくなる。
一方の蕾を口で含み舌で転がしながら、もう一方の蕾を親指と人差し指で摘んで弾くと一層美好の喘ぎ声が大きくなる。
「…あっ…あぁぁっ…んっ…」
「いいよ、美好。声、我慢しないで」
「…やぁっ…っ…」
手を腰のラインに沿って這わせると美好の足を割って秘部に触れる。
そこはもうしっとりと濡れていて、雄斗の指に絡みつく。
「美好、こんなに濡れちゃって。そんなに俺が欲しい?」
「もうっ、そういうこと言わないでって言ってるでしょっ!」
「欲しいって言って?」
「イヤっ」
「じゃあ、このまま止める?」
「うぅっ」
―――そんなの無理。
だけど…言えないわよ…。
「美好〜。ほら、ちゃんと言ってくれないとわからないよ?」
「意地悪っ」
「言って、美好。俺が欲しいって」
「…欲しいの…雄斗が」
「よく言えました」と額にチュッてキスをすると「ちょっと待ってて」と急いで自身に準備を施す。
「入れるよ」
小さく美好が頷くとゆっくり雄斗が入ってくる。
「…っあぁぁぁっ…っ…」
我慢できなかった雄斗は、入ってくると激しく挿入を繰り返す。
ベットのスプリングが軋む音とぴちゃぴちゃという音が、部屋に響き渡る。
「美好、気持ちよ過ぎっ」
「…ダ…メ…あっぁぁぁ…っ…イっ…ちゃう…」
「俺も…」
雄斗の「美好、愛してる」の言葉の後に自身を解き放つと、ぐったりと美好の上に倒れこむ。
二人同時にイったようだった。
+++
「おはようございます」
「もえちゃん、おはよう」
「あれ?美好さん、首のところどうかしたんですか?」
「え…こっこれね、蚊っ蚊に刺されたの…あはは…」
ベタな言い訳と思ったが、咄嗟のことで他の言葉が思いつかなかった。
でも、もえには疑う様子はない。
「そうなんですか?もう、そういう時期なんですね。薬は、持ってます?」
「うっうん、大丈夫」
今朝、起きて鏡を見た時に美好は声が出なかった。
―――まぁ、派手に赤い花を咲かせてくれたこと…。
その後、雄斗がどうなったかはご想像に任せるとして…それにしても、もえは気づかないとは…。
まさか、そういう経験がないなんてことはないわよねぇ…。
こっちを見ている雄斗を睨みつつ、もえと和也を交互に見つめる美好だった。
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