楽しい週末もあっという間に過ぎて、また忙しい日々がやって来た。
「おはよう、もえちゃん。動物園は、楽しかった?」
「美好さん、おはようございます。はい、すっごく楽しかったです」
「そう、よかったわね」
―――あ〜なんて、嬉しそうに言うのかしら、もえちゃんは…。
いいなぁ、芹沢主任はこんな可愛い子が彼女で…。
それに引き換え私ときたら…いや違うわね確かに私はもえちゃんみたいに可愛くはないけど、雄斗は芹沢主任みたいに優しくないもの。
そうでも思わなきゃ、やってられないわよ。
「美好さん、どうかしたんですか?」
「ううん、なんでもないわ。また、一週間が始まっちゃったわね、頑張らないと」
美好は、そんな思いを吹っ切るように仕事に打ち込んだ。
+++
「…っあっぁぁ…っ…やぁっ…ん…」
「美好、嫌じゃないだろ。ここ、気持ちいいのか?」
「…ちが…っ…あ…っん…」
仕事で疲れているはずなのに雄斗は毎晩のように迫ってくる。
それが決して嫌というわけではないのだが、なんだか体だけと思われているようで美好はとても悲しかった。
なのに、こんなふうに反応してしまうなんて…。
「…やぁん…意地悪…しない…で…」
「美好、俺が欲しいって言って」
「…そ…んな…っんぁ…」
雄斗は美好の中に指を出し入れするだけで、なかなか自身を入れてくれようとはしない。
―――いつもそう、私が欲しいって言うまで入れてくれなくて…。
「…はぁ…っん…たけ…と…」
「何?美好、ちゃんと言ってくれないとわからないよ」
「…雄斗…が欲しい…の」
「はい、よくできました。待って、今すぐだから」
雄斗は準備を済ませると、ゆっくり確かめるように美好の中に入ってくる。
「…んっ…ぁあああ…っ…だ…め…そ…んな…」
いつも以上に激しい雄斗に、美好はすぐにでもイってしまいそう。
「美好が悪いんだよ、ちゃんと言ってくれないから。俺だって…限界だったんだ…」
「…っんぁ…あぁぁ…っ…イ…くぅ…」
「…くっ…俺もっ…」
ほとんど同時にイった二人は、暫くの間動くことができなかった。
「ごめん、ちょっとハリキリ過ぎた」
雄斗は薄っすらと汗ばんだ美好の額に張り付いた前髪をそっと指ではらうと、そこに軽くくちづける。
そのしぐさがとても優しくて、なぜだか美好は涙が出そうになる。
「どうした?」
目を瞑って誤魔化したつもりだったが、雄斗にはわかってしまったよう。
「ううん、なんでもない」
「なんでもないはずがないだろう?ごめんな、無理させて」
「ちがうの…」
―――違う…そんなんじゃないの。
ただ…。
「ねぇ」
「うん?」
「雄斗は私のこと…好き?」
「急にどうしたんだ?そんなこと聞くなんて、なんか変だな今日の美好は」
雄斗は美好に寄り添うようにして横になると、腕枕をして自分の方に抱き寄せる。
「私、雄斗に好きって言ってもらってない。雄斗は、本当に私のこと好きなの?」
今まで、聞きたくても聞けなかったこと。
彼は、なんと答えるのだろうか?
「そうだな。もしかして、美好を不安にさせてたのか?」
出張に来てからというもの、ほとんど毎日夜も共にしているが、何かいつもの美好と違っていると雄斗は思っていた。
しかし、それがなんなのかはわからなかったが…。
美好の言うように、好きという言葉を言ったことはない。
それは言わなくてもわかっていると思っていたし、行動で表しているつもりだったけれど、それが美好を不安にさせていたとは…。
「私は…雄斗のなんなの?体だけの、都合のいい女なの?」
さっきまでなんとか堪えていた涙が、一気に美好の瞳から溢れ出す。
いつだって強い女を装っていたけど、もう限界だった。
―――こんな関係、これ以上続けるなんて…無理…できない。
「はっきり言って、そうなら…私、もう雄斗とは付き合えない」
「おい、美好。ちょっ、待ってくれよ。俺は、そんなつもり全くないぞ?」
美好は雄斗の話など聞かずに床に散らばっていた自分の下着を手早く身に着けて、スーツに着替えると部屋を出ようとする。
「美好っ、待ってくれよ。俺の話は、聞かないのかよ」
「もう、いいの。聞いたら、余計惨めになるだけ。でも、大丈夫、私は雄斗の思っているような強い女だから、明日からの仕事に差し支えるようなことはしないわ」
「頼むから、話を聞いてくれよ。俺は、絶対別れないからっ」
結局、美好は雄斗の明確な答えを聞かずに部屋を出てしまった。
というより、聞きたくなかったというのが本音だったかもしれない。
自分から身を引いた方が、気が楽だから。
+++
会社での美好と雄斗は、いつもとなんら変わらないように見えた。
が、もえにはわかっていたようで…。
「美好さん、ホテル住まいばかりでは大変じゃないですか?よかったら、家に泊まりに来ませんか?」
「え、もえちゃんの家に?」
「実を言うと両親が旅行に行っちゃって、私ひとりなんです」
もえの両親はとても仲がよく、二人でしょっちゅう旅行に行っている。
だから、もえはいつも留守番を任されていた。
「だったら、お邪魔しちゃおうかな」
「はい、是非お願いします」
もえの家に泊まるとなれば、雄斗と顔を合わせなくても済む。
美好にとっては、とてもありがたい申し出である。
断る理由は見つからなかった。
1ヵ月という期間とはいえ、慣れない土地で初めて顔を合わせる人達と仕事をするのはそれなりの気苦労もあるわけで…。
まして男性の多い職場だし、それがもえとの出会いで解消されたことは運がよかったと思う。
―――そうだ、もえちゃんに芹沢主任のこととかたっぷり聞かせてもらわなきゃ。
雄斗とのことが気にならないと言えば嘘になるが、今は少し距離を置くことも必要だろう。
ちょぴり心の中が軽くなったような、そんな気がしていた美好だった。
NEXT
BACK
INDEX
PERANENT ROOM
TOP
Copyright(c)2006-2013 Jun Asahina,All rights reserved.