Snow White
Story4


もえに少し元気がないことを気にかけていたのは、友人の真里だけではなく芹沢もそれは同じだった。
やっと自分にも、あの笑顔を向けてくれるようになったというのに…。
新人として芹沢の下に配属されてきたもえを見た時、なんと可愛い子なのだろうというのが第一印象だった。
可憐で可愛らしく、まさにもえという名がぴったりの子だった。
こんな子が、自分のところに配属されたとなると周りからなんと言われるか…特に仲のいい達彦など、『どうしてお前ばっかり、いい思いしやがって!』と怒鳴り込んで来るのは目に見えている。
しかしもえは可愛い顔を隠すようにいつも俯いていて、芹沢が話しかけても小さな声で返事を返すだけ。
何かしたわけではないが、もしかして嫌われている?そう思った時にはひどく落ち込んだものだった。
自分がいい男だとは思わないが、なぜか芹沢が声を掛けなくても女性の方から寄ってきてくれる。
好きにこそなられても嫌われることなど、今まで一度もなかったのだ。
それに、これから共に仕事をしていく仲間だというのに初めからこれではどう接していいかわからない。
そんなことを考えながらも知らず知らずのうちに彼女を目で追っていると、同期の女子と話している時だけは今まで見たこともないような笑顔を向けていることに気付く。
それは同じ同期でも、男子に向けられることは決してない。
芹沢と話をするように、やはり俯いているのだ。

―――もしかして…男が苦手?

そんなふうに思っている時に上原課長の面倒に巻き込まれそうになって、慌てて書庫に避難した時があった。
普段誰もいない場所だったから芹沢も面倒なことが起きるとそこへ行くのだが、その日は珍しく先客がいた。
それが、もえだった。
芹沢が急に名前を呼んだのに驚いたのか、もえは持っていたファイルを床に思いっきりぶちまけた。
見ればそれは全て芹沢が怠慢で溜め込んでいた書類ばかり、悪いなという気持ちと逃げの口実にもえを手伝うと言ったのだが、彼女はなかなかうんとは言ってくれない。
やっぱり嫌われているのか…そうも思ったけれど、このまますぐに戻ったのでは上原課長に捕まってしまう。
ついそれを口に出してしまったのだが、予想外にそれを聞いたもえが笑ったのだ。
初めて自分に笑顔を向けられたというのもあったが、それはあまりに眩しすぎるほどの笑顔だった。
勢いでからかうように『どうせ、子供みたいだとか思ってるんだろ?』と言うと、図星だったのか顔を両手で覆ってしまった。
思わず『可愛いね』と言ってしまったが、もえは顔を真っ赤にしてしながらも顔を上げた。
その時自分が嫌われているわけではないのだと確信して聞いてみれば、やはり男が苦手だったらしい。
ずっと女子校で兄弟もなく周りに男の人がいなかったからだと言っていたが、それは今時にしては珍しいことだろう。
逆に女子校の方が男関係はすごそうな気がするが、彼女を見ればそれは間違いなく本当なのだと実感させられる。
きっと、周りの人達に大事に守られてきたのだろう。
同期の真里は会社に入ってからの付き合いだとは思うが、既にもえのボディガードをやってのけていたし…。
それは芹沢自身もそう思ってしまったくらいだから、もえにはそう思わせる何かがあるのかもしれない。
『話し掛けるのも辛い?』と問うと、慌てて『主任は…、そんなっ……こと……ないです』と否定するもえが可愛くて、そして自分だけはもえにとって特別な人間のような気がしてすごく嬉しかった。
それからはもえを誘うヤツがいるとそれとなく仕事を頼んだりして、うまくかわすようにしていた。
自然に、彼女に目がいってしまう。
だから最近の元気のない彼女が、心配でたまらない。
これは兄という立場とも違う、彼女を一人の女性として意識し始めている瞬間だった。


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