千瑛(ちあき)さんの家は奇妙な形をしていて、聞くとデザイナーズマンションというものらしい。
両隣はグラフィックデザイナーと書道家で、このマンションは若い芸術家ばかり住んでいるという、なんとも彼らしい気がする。
「うわぁっ、お部屋の中もおっしゃれー」
住み心地がいいのかどうかは、まぁこの際別にして、玄関を入ると目の前に広がっている円形のリビングは、一段低くなっている部分にたくさんのクッションが並べてあるところを見るとソファーとして使っているようだ。
その一面を窓が覆い、天気が良ければ景色はとても良さそう。
「ファブリックから全部、僕がデザインしたんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
さすがデザイナー、全てにおいてこだわりがあるのだろう。
―――あぁ〜あたしも、こんな家に住んでみたいなぁ。
何もかもが物珍しかったあたしは、図々しいってわかっていても、あっちこっちの部屋を見て回る。
「ここは?」
「書斎っていうか、服のデザインを考えたりしてる部屋なんだよ」
デスクの上には色鉛筆で描かれたデッサンが一面に置かれていて、それはもうワンシーズン、いやそれ以上先のもののように見える。
新作を発表したばかりなのにファッション業界は一歩も二歩も先を行っていた。
「千瑛(ちあき)さんは、どんなふうにデザインを考えるんですか?」
「そうだなぁ、僕の場合は理想の女性を思い浮かべて、どんな服を着せたら一番美しく見えるかなって想像するんだよ。そうすると、自然に手が動いてる」
――― 千瑛(ちあき)さんの理想の女性って、どんな人なんだろう?
ちょっと、気になるなぁ。
「でもね。今は凛々(りり)ちゃんのことを思い浮かべて、描いてるんだよ」
「あたし、ですか?」
「そう。元気で明るくて、とっても可愛い凛々(りり)ちゃんには、どんな服が似合うんだろうってね」
千瑛(ちあき)さんは平然として言うが、言われている本人にしてみるとものすごく恥ずかしい。
だいいち、あたしのことを想像しながら似合う服を考えた時に素敵なデザインなど思い浮かぶのだろうか?
「もうっ、千瑛(ちあき)さんったら。恥ずかしいから、そういうこと真顔で言わないで下さいよぉ。それにあたしなんかを想像しても、素敵なお洋服なんてできないんじゃ」
「そんなことないよ。今までの僕には考えられなかったデザインが、どんどん沸いて来るんだよ。次のコレクションには、それが出せると思う。きっと、いいものになるって僕は信じてる」
今までは女性の視点から見た理想の女性像だったが、これからは男として一人の女性を想って描く。
次回のコレクションでは、今までにない千瑛(ちあき)の一面を見ることができるに違いない。
「千瑛(ちあき)さんの理想の女性って、どんな人だったんですか?」
「ん?」
どうしても気になるのだろう、凛々(りり)に出逢う前の千瑛(ちあき)の理想の女性像が…。
といっても、千瑛(ちあき)が想像していた女性はあくまでもデザイナー的観点から見た場合であって、実在する女性ではない。
「マネキンみたいな女性…かな?」
「えっ、マネキン!?」
―――マネキンって、あのマネキンよね?
千瑛(ちあき)さんの理想の女性は、人形だったの!?
「そう。僕が理想としていた女性は、心の通わない人形」
淡々と話す千瑛(ちあき)だったが、余計なことを聞いてしまって…凛々(りり)は、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「千瑛(ちあき)さん…」
「凛々(りり)ちゃん。お腹空いただろう?今夜のメニューはね、アクアパッツァだよ。いい、鯛が手に入ったんでね」
車から降りると彼が手にしていたのはクーラーボックスで、どうやらその中に手に入れたという鯛が入っていたらしい。
「それに簡単だし」と話す千瑛(ちあき)さんは、いつもの優しい表情だ。
辛い過去があってもそれを感じさせない、この強さは一体どこからくるのだろうか?
そんな、凛々(りり)の思いが彼に伝わったのか…。
「僕のデザインした服を着て、少しでもその人が幸せな気持ちになってくれたら。でもね、今は僕自身がとっても幸せなんだよ。それは、凛々(りり)ちゃんがいるから」
自分のデザインした服を着た人がほんの一瞬でも幸せな気持ちになってくれれば、それが千瑛(ちあき)の全てだった。
でも、今は凛々(りり)の存在が千瑛(ちあき)自身を幸せにしてくれる。
「千瑛(ちあき)さ…っぁ・・・」
凛々(りり)は、彼の胸にすっぽりと収まっていた。
ゆっくりと背中を上下する手が心地いい。
そして、自然に互いの唇が重なって…。
「…っ…ん…千瑛(ちあき)…さ…ん…」
「凛々(りり)ちゃん…」
何度も何度も角度を変えて、甘い唇を吸い上げる。
彼女のために腕によりをかけて美味しいものをと思っていたが、こうなってしまうともう抑えることができそうにない。
男としてどうすれば彼女を満足させられるのか、そういう場面を何度も頭の中でシミュレーションしたのに…。
「ごめん…抑えられそうにない」
「え…ちょっ…っ…」
凛々(りり)は軽々と抱き上げられて、千瑛(ちあき)がまだ案内していなかった最後の部屋のドアを開けた。
「千瑛(ちあき)…さん」
「僕が、怖い?」
この問いに顔を左右に振る凛々(りり)。
―――怖いなんて…でも…いいの?千瑛(ちあき)さん、無理してない?
好きあっている二人がこうなるのは当然で、しかし、彼はずっと女性として生きてきて…。
大きなベッドに静かに埋められ、すぐ目の前には彼の綺麗な顔がある。
「千瑛(ちあき)さん、あの…無理して…」
「僕も男だったってこと。可愛い凛々(りり)ちゃんを目の前にしたら、もう自分を抑えられなくなって。でも、君を満足させてあげることはできないかも…」
…それでも。
再び重なる唇。
無意識に舌を絡めたが、それにしっかりと応えてくれる彼女。
「…っ…ぁん…」
時折漏れる凛々(りり)の声に、千瑛(ちあき)の中心はどんどんと熱を帯びてくる。
男としてリードしなければならないはずなのに…初めての感覚に戸惑いながらも、溺れていく…。
「…っ…千瑛(ちあき)…さ…」
「凛々(りり)ちゃん、好きだよ」
耳元で囁くように言われ、彼はいつだって欲しい言葉を凛々(りり)にくれる。
「…あたし…も…千瑛(ちあき)さんがっ…好…き…」
―――何度言っても言い足りないくらい、千瑛(ちあき)さんのことが好き。
「…あぁ…っ…」
彼のデザインしたオーバーブラウスの下から入ってきた手に直に肌を触れられて、また甘い声が口から漏れた。
その手が徐々に上がっていくと、やんわりとブラ越しに膨らみを揉んでいく。
「凛々(りり)ちゃん、C65ってところかな?」
「え…」
―――ヤダ…千瑛(ちあき)さんったら、こんな時にブラのサイズなんて…それも、当たってるし…。
彼も…だったから、知ってるのかもしれないけど…。
「もうっ、千瑛(ちあき)さんったら、そんなこと…」
「職業柄でね。女性の体のことは知っておかないと」
「小さいって…」
―――思ったんじゃ…。
自分では、そんなに小さいとは思っていないのよ?
でも、今の子はみんなもっと大きいし…。
もしかして、千瑛(ちあき)さんも胸の大きい人が好みなのかも…。
「ごめんね、そういうつもりじゃなかったんだ。気にしたのなら、本当にごめんね。絶対、そんなことないから」
…怒ってしまっただろうか…。
一生懸命謝る千瑛(ちあき)。
「ほんとに?」
「あぁ、柔らかくて気持ちいい」
いまだに千瑛(ちあき)さんの手は、胸に触れたまま。
「やぁっ、千瑛(ちあき)さんったらぁ。えっちぃ」
「んー忘れてたけど、これって本能みたいだね?」
冗談っぽく言う彼に、これ以上怒れなくなる。
あたしは千瑛(ちあき)さんの首に腕を回すと、自分からくちづけた。
もっと甘えたい、もっと愛して欲しいから。
「凛々(りり)ちゃん。そんなに可愛いことをされると、今度こそ僕も止められないよ?」
「いいですよ?」
二人はクスクスと笑いながら、唇が少し触れ合うぐらいに軽くくちづける。
彼のハートにスイッチを入れてしまった凛々(りり)。
千瑛(ちあき)は彼女の着ていたブラウスを脱がすと、手際よくブラのホックも外してしまう。
露になった彼女の体は絹のように艶やかで、本当に美しい。
自分がどんなに女性になりきろうとしても、到底無理というもの。
「千瑛(ちあき)さん、恥ずかしいです」
「ダメ、ちゃんと見せて」
両腕を胸元でクロスするようにして隠そうとする凛々(りり)の腕を、千瑛(ちあき)が掴んで離さない。
「だったら、千瑛(ちあき)さんも脱いで下さい」
「え?」
そう言われてしまうと、千瑛(ちあき)も脱がないわけにいかない。
これでも男っぽくなろうと頑張って鍛えた体ではあったが、まだまだ細くて白い。
しかし、凛々(りり)の前でシャツを脱ぐ彼の姿は驚くほど引き締まっていて、見惚れてしまうほどだった。
「これで、いいかい?」
「千瑛(ちあき)さん、いつの間に?」
―――いつの間に、こんなに鍛えたのだろう?
服を着ているとそれは全然わからないが、こうして裸になってみるとそれがとてもよくわかる。
「凛々(りり)ちゃんに気付かれないよう、こっそりね」
抱き合って肌と肌が触れ合うと、お互いの熱が行き来する。
彼の唇が全身を這い、頂を唇で吸われると凛々(りり)からは一層甘美な声が…。
それだけで、千瑛(ちあき)の興奮度は益々高まっていく。
そして、大腿から足首へと愛撫を繰り返し、布越しに秘部を撫で上げると…。
「…やぁっ…っ…ん…」
「凛々(りり)ちゃん、ごめ…」
急に止めてしまった千瑛(ちあき)に凛々(りり)は、一瞬どうしたのかと彼を見る。
「千瑛(ちあき)さん?」
「ごめんね、嫌だった?」
「え…」
―――あの…。
嫌って言うのは、その…。
つい、口に出してしまう言葉だったが、本気でそう思っているわけではなくて…。
なんと説明していいものか…う〜ん。
「違うんです。嫌なわけじゃ」
「ほんとにほんと?」
何度も聞くものだから、恥ずかしくて凛々(りり)は両手で顔を覆ってしまう。
―――もう、そんなこと聞かないで、わかってよぉ。
「凛々(りり)ちゃん?」
「もうっ、知らないっ」
…うそだろう…凛々(りり)ちゃん、今度こそ怒っちゃったのか?
勝手のわからない千瑛(ちあき)には、どうしていいかわからない。
「ごめんね、凛々(りり)ちゃん。怒らないで」
「怒ってなんか…」
「え?」
…怒ってない?本当に?
「怒ってなんか、いませんから。あの…」
潤んだ瞳で見つめられて、千瑛(ちあき)の中心は再び熱を取り戻す。
凛々(りり)の『怒っていない』という言葉を信じて、彼女がまだ身に着けていたフレアースカートのファスナーを下ろすと、ショーツごと足からそっと引き抜く。
スラッと伸びた脚が、スタイルの良さを物語っていた。
「…っ…あぁ…っ…っん…っ…」
閉じてしまっていた脚を開かせ、薄い茂みからちょこんと顔を出している突起を刺激すると焦らせたせいか、そこはかなり濡れていて透明の液体が千瑛(ちあき)の指に絡みつく。
そのまま、場所を定め、秘部に指をゆっくりと差し入れ動かしてみる。
「…あぁぁっ…っ…やぁ…んっ…っ…」
「ごめん…大丈夫?」
「…大…丈夫…あぁぁ…っ…んっ…っ…」
グッタリしてしまった凛々(りり)に千瑛(ちあき)は、何が起こったのかわからない。
ただ、「大丈夫?」と聞き返すしかなかったが、後になってこれがイったのだということを知る。
さすがに限界に来ていた千瑛(ちあき)。
「凛々(りり)ちゃん。僕、もう入れてもいい?」
黙って頷く凛々(りり)に「ちょっと待っててね」と、千瑛(ちあき)は下半身に纏っていたものを脱ぎ去り、サイドテーブルの引き出しに用意していたゴムを自身に装着する。
そして、パンパンにそそり立つモノを彼女の秘部にあてがい、ゆっくりと入れていくが…。
…うっ、気持ちいい。
今まで感じたことのない感覚。
これが、愛する人と一つになるということなのか…。
「…ぁっ…あぁぁ…っ…千瑛(ちあき)…さん…っ…」
「凛々(りり)ちゃん…っ…」
勝手に腰が動いて、もう止められない。
「…あぁぁぁぁぁっ…っ…んっぁ…っ…」
「…凛々(りり)ちゃん、好きだよ。愛してるっ…」
「…あたし…も…千瑛(ちあき)さん…が…好き…」
…っ…出…る…。
早いのか遅いのか…千瑛(ちあき)は自身を吐き出すと、凛々(りり)を押しつぶさないようにその上に覆いかぶさった。
背中には薄っすらと汗が滲み、肩が大きく揺れて息が荒い。
「凛々(りり)ちゃん、大丈夫?」
「はい…千瑛(ちあき)さん。あの…ぎゅって、抱きしめてもらってもいいですか?」
まだ彼女の中に入ったままだったが、千瑛(ちあき)は凛々(りり)をぎゅっと抱きしめる。
「嬉しいです。千瑛(ちあき)さんと一つになれて」
「僕もだよ」
凛々(りり)の額に汗で張り付いた前髪をそっと指で避けると、千瑛(ちあき)は掠めるようにくちづける。
無我夢中で抱いてしまったが、これで嫌われたりしないだろうか?
このまま、彼女の中に入っているわけにもいかず、ゆっくり出すとなんだかとても名残惜しい気持ちになる。
「ずっと、あたしの側にいて下さいね」
千瑛(ちあき)の胸に顔を埋める凛々(りり)。
…凛々(りり)ちゃん…。
「いるよ、ずっと君の側に」
ずっと、側にいる。
凛々(りり)ちゃんが、嫌って言ってもね。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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