岩城 星良は再び眼鏡っ子生活をしています。
ただし、尾西さんの前では違いますけど。


スロー・ステップ
一歩ずつ前進


尾西さんと結ばれた次の日、ランチを食べに行く途中で尾西さんはなぜか嫌な顔をして
最近出来たショッピングモールの中を足早に歩き出した。

ちょっと待ってよ。(涙)
付いて行くのがやっとで尾西さんの後に小走りなる。

そして辿りついたのが眼鏡屋さんだった。

尾西さんはフレームを適当に選ぶと私を定員さんに差し出し

「眼鏡を作って欲しい。」と言った。



え?―昨日は…会社では眼鏡ナシでいいって言ってたのに
なぜ急に?


コンタクトを外し定員さんに検査をしてもらうと
「約1時間で出来上がります」と言われた。

そんなに早く出来るんだ。
もっと早く来てれば良かった。


出来上がりを待つ間に再びコンタクトをした私を連れて尾西さんは予約していたらしい
お店に入って食事をした。





***






まあ、そんな感じで尾西さんが眼鏡を買ってくれたんだけど
実際は彼の前以外は眼鏡だと言われたのよ。

それでも納得出来ないので詰め寄ってみると

「他の男がお前を見るから」って。
何でそう思うのよっ!もしかして…被害妄想だとか?
そこいらの女性の視線を集めているのは紛れもなく尾西さんでしょ?
あっ、もしかして自覚無い?
毎回のことだから気がつかなかった?とか…

乙女心を全く理解しないとか…そうよね。
基本的に俺様は変わらないし。
ベッド…の中以外…は意地悪だし…いや…中でも意地悪か。


っと仕事中なのにベッドでの事を思い出してしまって
たぶん顔を真っ赤にしているだろう私はポーチ片手に化粧室に急いだ。








鏡に映る自分の顔は真っ赤だ。

ヤダ。

尾西さんが選んでくれた眼鏡をかけている。
以前よりは柔らかい表情に見える。

さりげなく私に似合う眼鏡を選んでいるあたり
やっぱり尾西さんは私のことを見ててくれるんだ。

似合うからって洋服を買ってくれたり…けっこうマメなんです。
彼。




…尾西さんは私との約束を守ってくれていて
今はどの女性の誘いも乗らなくなったの。
その代わり…毎晩のように私を……―以下自己規制。


集団で歩いてくる女性を発見。
尾西さんと付き合うようになってから
影で色々言われていることはわかってるんだけど
面と向かって言われるのもまだ怖いよ〜〜。


慌てて個室に入ると諦めた様に座り込んだ。



「ねえ、営業の尾西さん。以前にも増してかっこいいよね?
バリバリと仕事をこなして綺麗な女性にも見向きもしないらしいし、
以前ならお食事も飲み会もそして夜だって誘いに乗ってくれたのに
今は会話も必要以外が話してくれないみたい。
信憑性の高い情報なんだから営業課の女の子が言ってたもん。」

「ええ?そうなの。取引先の部長のお嬢さんとの破局したって
聞いて私狙ってたのにな。」

「あんたは無理だって」

あははっと少なくても3人はいる女性達は
頼んでもいない尾西さんの噂を話してくれる。


「でも――今は 本命の彼女っているんでしょ?
前に企画課のマドンナが告白したら
『大事な女がいる』って断られたらしいの。」

「ええ?それ、本当?」

「私もそれ知ってる。社内の子でしょ?堂々と定時過ぎに連れ去ったって
噂が立ってるよ。」

「でもなぜ、公に騒がれてないの?」

「尾西さんがその子が標的になるのを阻止してるのよ。」

「尾西さんが?」

「そうそう、彼に睨まれたら怖いもんね」


え?そうなの知らなかった。
てっきり自分のものってレッテル貼りまくってると思ってたわ。


そんなことを思っていたらマナーモードにしていた携帯が
ブルブルと震えた。

ん?
メール?


尾西さんからのメールで彼の部屋で待ってろと
20時には戻ると帰宅時間まで書いてあった。


少しは私の都合を考えて欲しいわ。
そう思いつつも「待ってます」と返信する私って健気じゃない。





仕事を定時で終わらせ彼のマンションの近くで買い物をする。
彼と付き合いだしてまだ1ヶ月も経っていないけど
彼から鍵を渡されていた。

うーん。気を許してくれてるってことよね?
それに食材や雑費用に彼からお財布を預かっている。

なんだか主婦みたいだぁ。




わが社のホープ様にいかがわしいものは食べられません。
家では適当だったんだけど料理の本片手にがんばってます。

いや…料理教室に通うかしら?
花嫁修業の一環?


え?結婚?飛ばしすぎだ!!
でも…そばにいたい気持ちがある…。

確か少し前まではひっそり目立たないように暮らしたかっただけなのに…
段々欲張りになっているのかも知れない。

幸せがすぐそばにあるから…。



「おかえりなさい」

私は玄関まで迎えに出ると少し疲れた顔の尾西さんが無言で入ってきた。
かなりご機嫌がナナメのようだ。

「どうしたの?」

それでもプイっと背を向ける尾西さんの顔を自分の両手で捕まえると
視線を合わす。

「怒ってる?だったらなんで怒ってるのか話して。」

さすがに私から逃げ出せなくて尾西さんはボソッと言った。


「今日、田代と一緒に帰っただろう?」

「田代さん?―…尾西さんのお友達でしょ?
受付で一緒になったの。田代さんは打ち合わせに行くところだったみたいだよ?」

「アイツと何話した?」

「何って…尾西さん変!」

私の両手首を尾西さんは掴むと形勢逆転壁際まで追いやられた。

「わざわざ電話してきて…お前と話せて楽しかった。って言ってきた。
田代に星良と付き合ってるなんて言った覚えはないぞ?」

「あっ。私のせいかも。
昼間…会社で尾西さんの噂を聞いてすごくうれしかったから
尾西さんのこと田代さんに聞いちゃったの。」

「噂ってなんだよ。」

「えっと…『大事な女がいる』とか私が女性の標的にならないように
噂に気をつけてくれていることとかがうれしくて…
尾西さんのお友達だったら…尾西さんのことすごく知ってるかな?
って思ったから…好きなものとか田代さんに聞いたの。」

さっきまで機嫌を悪くしていた尾西さんは
小さくため息つくと更に面白くなさそうな声をだした。


「そんなことなら俺に聞け。いくら俺の親友でも男と一緒にいるな。」

ええ?それって嫉妬??

「もしかしてもしかして尾西さん妬いてたの?」

うわっうわ、あの尾西さんが?信じられない!!
やだっ、顔がニヤけてしまって元に戻らない〜。
自覚がある不細工な顔を尾西さんは両頬を引っ張る。

「いひゃい。やめれ〜」

「顔が伸びきってるから手伝ってやってるだけだ。」

先ほどよりさらに面白くないような声でそう言うと
おもむろに私を抱き上げた。

「きゃ」

驚いて暴れると「落とすぞ」とそのままの声で脅す。

うっ、と黙ると彼は寝室まで私を運んだ。

「え?尾西さん?」

「“遼平”」

え?

「えっと…遼平さん?」

「なんだ…」

「えっと…食事はここでは食べられませんよ?
田代さんから教えてもらったんですよ?尾西さんの大好物…の」

「先に星良を食べるから。大好物の星良から食べる。」

えええ?

「だ…駄目です。」

「なんでだ?」

「だって…ご飯もお風呂もまだだし…」

「後でいいって言ってる…」

「で…も…」

ベッドに下ろされてそのまま押し倒される。
そのまま彼が覆いかぶさる。

逃げられない…。

「観念したら?」

楽しそうに尾西さんは笑ってる。

なんだか悔しい。

「嫌です。」

はっきり言うと尾西さんは益々意地悪そうな顔になった。


「俺を妬かせたバツ。是非、星良から強請ってもらおうか?」

何を?何?
不満を口にしようとしたらそのまま彼の唇で塞がれた。
そのまま深くキスをされる。
甘い甘いキスは夢中になって受けて、返す。

意地っ張りな自分を素直にしてくれるおまじない。

「…好き。遼平さん…好き。」

それしか知らないとばかりに言葉にする。
だって好きだから。

尾西さんはすごく優しい笑顔を見せて

「星良…愛してる」とはっきり言ってくれた。

うれしさに目がジーンときて尾西さんの笑顔が曇って見える。
ずっと見ていたいのにずっと見とれていたいのに。
自分の瞳からポロポロと涙がこぼれる。

うれしくても涙が出るんだ。
そして愛しくても涙が出るんだ。



そんなことで感動していた私を尾西さんは容赦なく責める。
気がつけば気を失って目覚めたのが朝早くだった。

そしてバタバタと昨日の食事を温めて食べて二人揃って会社に出勤した。


加減を知ってくださいっ。と
尾西さんの車の中で怒鳴ったのは今朝のこと。
そして今晩も彼の部屋へと誘われている。

きっと断っても私の部屋に乱入しそうだし。
結局は俺様な彼に振り回されちゃうんだけど…それでも好きです。

それだけははっきり言える。


おわり


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じゅん様110万HITおめでとうございます。
わがままばかり言ってますが申し訳ないです。

それと快く受け取っていただき、大変感謝しております。
今後ともよろしくお願いします。

佐和


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佐和 さま

当店110万ヒットのお祝いに素敵なお話をいただき、ありがとうございました。
本命の彼女を守る彼はカッコいいですね。
そして、ちょっと嫉妬深いところもたまりません。
お忙しい中書いてくださって、本当にありがとうございました。


2007.6.25 朝比奈じゅん


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