スロー・ステップ
スローでも自分ペースに


星良と付き合って半年。
一人の女との交際。そして半年という交際期間の新記録。
俺にはありえないことだった。

この先も星良以外の未来はないと思っている。

会うたびに惚れさせられる身になってみろ?
外であろうが会社であろうがどこでも星良を欲しがる。
10代のヤリタイ盛りの野郎かっての。


再び眼鏡をかけさせても溢れる魅力に野郎が寄ってくる星良を
どうしても自分だけのモノにしたいという気持ちと
一月の半分以上一緒にいるが…半分よりずっといたいという気持ちが強くて
最終手段を使ってでもいいとさえ思っている自分がいる。

結婚なんて考えたこともなかった。
それをあっさり考えさせる星良はすごいと思う。

まずは…プロポーズ?

…って何をどうしたらいいんだ?
片膝ついて「結婚してください?」って?

…駄目だ…らしくない。

でもこのままでは一月の半分近くは一緒にいられない。
まあ、星良にも彼女の付き合いがあると思う…俺なりの配慮なんだが
それを取上げても今すぐ一緒に暮らしたいと思うのは俺の我がままか?


何度も口に出しかけたプロポーズ。
でも意識して間もないせいかプライドが邪魔をする。
女一人に悩んで下手に出る…もし…若い星良が結婚に戸惑ったら?と。

今は星良しかいないが昔がひどすぎたせいで
信頼が低いというのは自他共に認める。
でも…今の現状に満足出来ない自分がいて…先に進みたいと思ってた。







今週は星良を独占して、俺の部屋にいるように言った。
仕事は忙しい。普段だったら部署も違うし、俺達は会うことも出来ないだろう。
だけど俺の部屋にいることは俺の帰りを待ってくれるし
星良のお手製の食事にありつけるし、この手で彼女を抱けるから
俺にとってこれ以上ないくらい幸せな時間だ。

おいしい食事と星良に満足して彼女を胸に抱いていると
ふと彼女の口から漏れた言葉に心臓を貫かれたように反応してしまった。

「一月の半分は私自分の家に帰ってないんだ…。なんだか…もったいない気もするなぁ。」

それって…いい意味で取れば、彼女の部屋が無くてもいいってことか?
半分も部屋にいないなら…ここにずっといても…?

同棲?…うお、それもいいな。今の現状では半同棲。
でも他の男が星良を狙っている事実もあるし、相変わらず勘違い女もいるし
出来れば…結婚に持ち込めたら…いいのに…。

その時いい案だと思った。プロポーズしないでも星良に頷かせることが出来ると。
だからしれっと口にした。


「だったら、ここで暮らせばいいだろう?
一々お前の部屋に帰る手間が省けるし…半月も一月もあんまり変らないし。
あっ、そうだ。近頃また女達がうるさいし…断るのもめんどくさいって
思ってたんだよな。いっそのこと籍でも入れるか?」

なーんて頭がいいんだ。俺は。
これで…一緒にいる時間が増えた、な…。

え?

何で…俺の胸から出る?

「い・や!あなたと一緒に暮らすのも、結婚するのも嫌だわ。…私…帰る。」

散らばった服を集めると星良は寝室を出て行った。
そして数分後、俺の部屋から出て行った。

「…なんで?」







結局星良は帰ってくることがなかった。
次の日の今日は普通に出社して仕事をこなしているようだ。

俺には星良がわからない。
言っちゃ悪いけど、俺と付き合いたい女は山ほどいる。
将来だって困るような仕事もしてないつもりだ。

だけど星良は俺と一緒に暮らすのも結婚するのも嫌だという。

…。
これって…別れか?
三下り半ってやつか?

マジかよ…。

元より、星良のいない夜は眠れない。
ましてや、あんな別れかたをした昨日は寝ることさえ忘れてたぞ。


その次の日も悶々としながらも仕事をこなす。
家に帰っても星良が戻ってくることも無いだろうと日付が変っても残業をしたり
田代を呼び出してグダグダになるまで飲んだりと、
星良と過ごした半年にしたことがないような無茶な生活をした。

昨日も田代んちで目が覚めてヤツが言うには

『星良…星良』と唸っていたらしい。


俺が星良から離れているこの間に彼女を狙う男が出没しているみたいだ。
でも田代のおかげで星良に対するモーションが減っているらしいが
それでも田代の隙をついて星良にちょっかいをかける男もいるのは事実らしい。

「早く仲直りしないと…マジで持ってかれるぞ?」

ぐっ、わかってる。俺もこのまま放置したくない。



それでも日常が忙しく、近づいて欲しくないうるさい女達が周りを囲む。
休憩のコーヒーだってのんびり飲ませてもらえない。

うるさく言う女を無視していたら田代から電話が入った。

『ー遼平?今どこ?』

「ああ?え…休憩室の自販機の前だけど?」

『休憩?ちゃんと出来て…るわけねえよな。
まださっきのうるさい女引き連れてるの?星良ちゃんが見たら益々怒り心頭だぞ?』

「―ん?ああ…」

ってか、そんなのわかってる。
自分でも気にしてるんだと、心の中で愚痴ってると休憩室の扉の前に田代が見えた。
ヤツは入ってくるなり電話で事をが済むことを俺に言う。

「よぉ。待たせたな。…尾西、部長が呼んでたぜ?」

なんだ?
一応助けてくれたのか?でも相変わらずうるさい女はついてくるけど…。
まあいい。

「そうか…行く。」

休憩室を出ると部長の元に急ぐその途中田代から電話が入った。

『星良ちゃん倒れたから医務室運ぶところだ。
企画課のオトコが姫に接近していた。どうやら先ほどの休憩室のやり取りを
聞いていたいたみたいだな。それで…』

「オイ。そんなのはどうでもいい。で、星良はどうなんだ?」

『ん。素人だからなんとも…貧血かな?
…彼女もお前と同じで眠れてないのかも知れないぞ?』

星良…
くっそぉ…このまますぐ駆け寄りたい。
部長を怒らすとやっかいだしな。

「悪い…。星良のことヨロシクな。部長のトコロ出たら家に送るから…」

『まあ、任せな。』

「くれぐれも星良に手を出すなよ。」

田代のことは一応信頼しているけど眠っている星良を見て
つい、魔が差すこともありうるだろうから
部長を勢いで跳ね飛ばし、猛スピードで医務室に行く。

医務室のドアを開けると目を覚ました星良と田代がいた。

…面白くない。
部長と少々遣り合ってきたのに…ヤツときたらずっと星良と一緒だったなんて。

「なんでお前がいるんだよ。運んだら帰れよ。」

不機嫌な声で言うが田代は笑いながら返す。

「おお。尾西復活だな?でもな、大事なモン手に入れる為なら
プライドを切り捨ててでも捨て身でやれよ?
…失くしてからじゃ遅いんだ。」

確かに…言い返せない。
星良を失うことに比べれば…プライドなんてどうでもいい。

田代は俺に真剣な目で“「後はお前次第」”というと星良に向かって言った。

「セイラちゃん。またね?」

ヤツめ。馴れ馴れしい!!
怒りを込め、身近にあった枕をヤツが消えたドアにぶつけた。


ふと、星良を見ると引き攣った顔をしている。
逃げようとしてたな?
星良の腕を掴むと久し振りの空気にうれしく思った。

「俺を腑抜けにした、罪は重い。…身をもって償えよな。」

「は?」

「だから…仕事に身も入らないし…眠れないんだ。責任を取れ」

「ち…ちっと、なんですか!私だって私だって…辛かったんですから!!」

半泣きの星良が口を滑らす。
どうやら同じ気持ちだったようだ。







倒れた星良を医務室から遠慮なく俺の部屋に連れてくると
そのまま寝室に向かった。
倒れた星良のために寝かすつもりはない。

ベッドに星良を寝かせると怯える彼女に出来るだけ優しく言う。

「悪い。まずは…俺を癒してくれ」

たった3日会えなかっただけでこんなに星良が不足する。
田代も言ってたけどプライドのせいで星良を失ったら一生後悔するだろう。

倒れた人間に対して無茶しているのはわかっているけど
加減なんてわからない。
はじめっから、もしかして星良に勝てなかったのかもしれない。
無駄な足掻きだったのかもな。

気を失うように眠った星良を抱き込むと耳元で囁いた。

「週末…指輪を買いに行こうな。星良の好きな指輪買ってやる。」







約束通りその週末は星良と一緒にジュエリーブティックに行き
星良が気に入った指輪を購入すると彼女が望むシチュエーションでプロポーズした。
どうしても星良が欲しかったのでそれぐらいは譲歩する。

だけど…それだけだぞ?

と思ったのだが、結婚式についても彼女の希望を全て聞いたのは内緒の話。
田代辺りはきっと気がついてニヤニヤ笑っているだろう。
だって…俺の結婚式が乙女仕様なんて考えられねえ。
籍入れればいいと思ってたくらいだもんな。



わかってるんだよ。降参したんだ。それだけ、惚れてるってことだ。
側にいて欲しいのは自分のほうだ。
認めたら簡単なことだった。


おわり


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じゅん様2周年おめでとうございます。

2周年のお祝いは別のモノがいいかな?と思ってたのですが前回150万HITのお祝いが
中途半端な感じでだったので2周年のお祝いは尾西サイドにしちゃいました。(*'-'*)エヘヘ

1周年の時に勇気をだしてお祝い掲示板に書き込んで1年になるんですね。
今となったら、あの時の私はグットジョブでしたね。

これからもよろしくお願いします。



今後ともよろしくお願いします。

佐和


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佐和 さま

開店2周年のお祝いに素敵なお話をいただき、ありがとうございました。
俺様、尾西さんもとうとう彼女にプロポーズしましたね。
どんな結婚式になるのでしょう…。
乙女仕様、メロメロな彼が目に浮かぶようです。
当店で尾西さんと星良ちゃんに会えたことをとても嬉しく思っています、そしてまたいつか会える日を。

1周年の時はお祝いのお言葉をいただき、ありがとうございました。
一年はあっという間でしたが、どうぞこれからもよろしくお願いします。
お忙しい中書いてくださって、本当にありがとうございました。


2007.11.30 朝比奈じゅん


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